アスティに暮らし最も嬉しく感じていることは、何よりもこの豊かな食生活環境です。アルプスの雪解け水流れる土壌の肥えたタナロ川流域をはじめ、アスティ周辺は実に農業の盛んな地域で、人々の間には「km 0(キロメートル・ゼロ)」と呼ばれる地産地消の意識が根付き、新鮮食材を「その日に食べる分だけ手に入れる」ことが古くから習慣となっているのでしょう。
市内にある公立病院(ASL Asti)では「入院生活の質の向上」を掲げ、地域食材を中心とした食事に切り替えて以来患者にも大変好評で、退院までの期間が早まる傾向にあると報告されているほど。町の中心部では連日のように市が開かれているので、人々の暮らしや活気に触れる良い機会となるでしょう。
●青空市場と屋内市場
毎週水曜と土曜には、生鮮食品から生活必需品のほぼすべてが揃う大規模な青空市が開かれるため、近郊からもバスが増便され、会場となるカンポ・デル・パリオ広場Piazza Campo del Palioとアルフィエーリ広場Piazza Alfieri周辺は大きな買い物カートを手にした人々でにぎわいます。
トップ写真:@毎年9月の『郷土料理の祭典』 会場には大勢が座れるテーブル席や立食テーブルも
写真下左:A青空市場:アスティに暮らす気分で市場を散策 写真下右:Bサラミ:ワインと共に宿泊先で味わうのも楽しい
二つの広場の間には「屋内市場Mercato Coperto」が建ち、20軒中最多の8軒を肉屋が占めているのもアスティの特徴でしょうか。なかには「馬肉専門店、加工品、ロバ肉もあります!」なんて店もあり、郷土料理の一つ「アニョロッティ・ダジーノ agnolotti d’asino(ロバ肉のラビオリ)」は同肉のソースで和えるほか、オリーブオイルとパルミジャーノチーズ、バターとセージの葉と言った組み合わせも風味を引き立ておススメです。
●朝市や賑わう個人商店
メインストリート、アルフィエーリ通りCorso Alfieriの一本裏手にあるカテーナ広場Piazza Catenaで開かれる朝市は、小規模ながら、その多くで生産者自ら朝採り野菜などを販売しています。9月中旬あたりからはワイン用ぶどう品種「モスカート」や「バルベーラ」も食卓用として並ぶので、ひと房選んで散策の合間に摘まんでみてはいかがでしょうか。土曜日には、回転式オーブンで肉の丸焼きを販売する「ロスティッチェリア」や色鮮やかな季節の花々を並べる店なども増え、両手いっぱいに買い物袋を提げた人たちと多く行き交うことになるでしょう。
写真下左:C近郊のCostigliole d’Asti特産、四角く肉厚なペペローネ 写真下右:D肉屋「ピエモンテ・カルネ」の気の良い二人
また、市場がこれだけ盛んな上に個人商店もにぎわっているのですから、アスティの人々の食に対するこだわりは相当なものではないでしょうか。いつも元気に迎えてくれる肉屋「ピエモンテ・カルネPiemonte Carni」では、土地の人がこよなく愛す新鮮牛生肉のたたき「カルネ・クルーダ」をはじめ、ショーケースには豚・鶏・ウサギ・腸詰生ひき肉「サルシッチャ」など所狭しと並びます。
ある日店内で見つけたのは、アスティ産のオリーブオイル。冬場マイナス20度にもなる地域でのオリーブ栽培は大変めずらしく、地元でも「知る人ぞ知る」存在ですが、サラダはもちろん「ボッリートミスト」(ゆで肉の盛り合わせ)と言ったシンプルな料理に合わせると、オイルの個性もより一層感じられると好評です。
●日曜日に開かれる生産者の直売市
また第2日曜にはアルフィエーリ広場に面した回廊で生産者による直売市「Asti, Prodotti Gusti e Sapori」が開かれ、新鮮野菜や瓶詰加工品、チーズ、ワインをはじめ、様々な花から採取されたハチミツのほか、モスト(発酵前のぶどう果汁)・イチジク・リンゴなどを何時間も煮込んだ「クニャCougna」なども並び、この地方では特産の「ロビオーラ・ディ・ロッカヴェラーノRobiola di Roccaverano」と呼ばれるソフトタイプの山羊乳チーズと合わせ、甘いデザートワインと共に親しまれています。
写真下左:E直売市では小瓶や蜜房入りのハチミツも 写真下右:Fお母さんデザインのエチケットがかわいい自家製「Cougna」
第4日曜にはこの回廊を中心にアンティーク市も開かれ、各地を回る骨董商たちの間で回廊裏手の「Piazza Italia」に面したジェラテリアが好評だと聞きました。周囲はちょっと迷路のようですが、行列もできる人気店。ジェラテリア「la Venexiana」は、チョコレートなどの定番味や桃・イチジクなど旬の果物に加え、デザートワイン「モスカート」、ヘーゼルナッツなど特産物をミックスしたオリジナルの「カプリッチョ・ダスティCapriccio d’Asti 」など、夏場には20種類以上も並ぶので、さらに迷ってしまうかもしれません!
●9月には郷土料理の祭典、『サグレ・アスティジャーネ』
近郊のぶどう畑が収穫作業で忙しさの増す9月は、アスティが最も盛り上がる季節の到来です。第2日曜には近郊約50の地域が参加する大規模な郷土料理の祭典「フェスティバル・デッレ・サグレ・アスティジャーネFestival delle Sagre Astigiane」が開かれ、祭りの前半、普段は畑で活躍するトラクターがこの日は舞台をけん引し、「ひと昔前の仕事や日常風景を季節ごとに再現する」時代行列が2時間ほどかけ練り歩きます。
写真下左:G乾燥させた野菜をくりぬき演奏する、楽しい楽団 写真下右:H当時の暮らしを楽しみながら学べる、ユニークな行列
むかし遊びに興じるこどもたち、養蚕・木こり・畑仕事や家事に精を出す人々、村に映画が初めてやって来た日の様子など‥ 昔風の衣装と相まって、住民有志が役者さながらに演じる姿は実に微笑ましく、日本から来た私たちにもどこか懐かしく映る光景です。
写真下左:Iおめかしで街を行くトラクター 写真下右:Jジェノバ港から新天地アメリカへ、大掛かりな演目も
最後のグループを見送ったら、カンポ・デル・パリオ広場へ急ぎましょう!ここからが祭りの後半、各地域が自慢の料理を振る舞う食の祭典の始まりです!まずは各屋台の「レジ」の列に並び、料理を注文。レシートを手に、今度は料理とワイン引き換えの列に並びます。料理を注文するとワインの無料引換券もついてくるので、初回にワイン用グラスを購入するのもお忘れなく!
午後にはコンサートが開かれるなど、宴は夜まで続きます。また当日会場近くでは、試飲も楽しめる国内ワインの展覧会「ドゥーヤ・ドォールDOUJA D’OR」が開催されているので、こちらにも足をのばしてみてはいかがでしょうか?(詳しくは、次回ご紹介いたします。)
アスティへようこそ! 著者プロフィール
高梨真江(Takanashi Masae)
個人旅行手配業を経て、2004年初渡伊。アスティ近郊の Costigliole d'Asti (コスティリオーレ・ド・アスティ) でひと夏を過ごし、ぶどう栽培・ワイン醸造「土地に根差して世界とつながる人々の暮らし」に、ひと目ぼれ。この地をもっと日本に紹介し案内したい夢を抱き、その後介護や通勤の合間を利用してイタリア語を独学。現在はアスティにて「地域振興を目的とした観光の講座」を受講し、その修了論文を書きながら畑を訪ね、土地の人にインタビューを重ねるなど「おもしろ地図」を広げる毎日。ある日突然「ひと目ぼれしました、よろしくお願いします!」とやって来た私を優しく受け入れてくれた地域の人々に感謝しながら、ピエモンテ弁交じりの冗談に笑い転げる今日この頃。 個人ブログ「Asti大好きーぶどうと共にある暮らし」 http://lavitaasti.exblog.jp/ |
|