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オルガニスト吉田愛のドロミテ暮らし
15 Luglio 2019

第9回 

ドロミテと日本を繋ぐパイプオルガン
CD「めぐりあう時〜INCONTRI〜」のご案内 

  
文・写真/吉田愛

●日本福音ルーテル大分教会にドロミテの新しいパイプオルガン
2018年4月、日本福音ルーテル大分教会に新しいパイプオルガンが完成しました。制作したのはドロミテのフィエンメ渓谷に工房を構えるアンドレア・ゼーニ・オルガン工房。私の夫アレックスが勤めているパイプオルガン制作会社です。
日本福音ルーテル大分教会とのご縁は、この教会のオルガニストで本格的な山登りが御趣味のKさんが、偶然にもドロミテとオルガン生活を綴っている私のブログを知り、ドロミテ・クライミングがてら麓にあるオルガン工房を訪問されたことから始まりました。  

トップ写真:@日本福音ルーテル大分教会の新しいパイプオルガン 
写真上:A日本福音ルーテル大分教会の新しいパイプオルガン

●美しい残響を持つ同教会の礼拝堂
日本福音ルーテル大分教会の礼拝堂は日本の教会建築の第一人者、稲富昭氏の設計・管理により20年前の1998年に完成されました。モダンな作りの礼拝堂は正八角形で天井が高く、漆が塗られた個性的な窓の桟が白い内壁に映えるデザインで、大分市内でも有数の美しい残響を持つ空間として、礼拝ではもちろん、地域の様々な音楽活動の場としても貢献しています。

礼拝堂には建築当初からオルガンバルコニーが設置されていましたが、6年前にオルガンのための遺産の献金があったことからパイプオルガン導入計画が動き出し、そこへオルガニストKさんとの出会いが重なり、宗教改革500年の2017年にゼーニ工房と契約が交わされてオルガン導入へと至りました。

●世界に一つの美しい楽器誕生
私は両者の橋渡し役を仰せつかりました。私たちはまずこの教会を訪れてこの礼拝堂の構造や音響を検査し、この場所に相応しい楽器の姿を見出すために多くの意見やアイディアを交わしました。そしてドロミテの工房で約一年かけて丁寧に制作し完成させると、それを一度解体して船で日本に送りました。そして昨年4月、工房の職人と共に現地に赴いて組み立て、ようやくこの場所のためだけの、世界にひとつの美しい楽器が誕生したのです。

写真下左:B組み立ての様子。クレーンで部品を一つ一つ運んでいく。 
写真下右:C組み立ての様子。ドロミテの木彫り職人による唐草模様の彫刻をはめ込む。

このパイプオルガンは二段鍵盤とペダルを有する10ストップの楽器で、パイプ総計は664本。木管パイプや手鍵盤には工房のあるドロミテ・フィエンメ渓谷の森に群生し、あのストラディバリをはじめ現在でも著名な弦楽器やピアノ制作者によって高く評価され使用されている名産の最高級赤モミが使用されています。

写真下左:D組み立ての様子。内部メカニックの連結と調整。 
写真下右:E組み立ての様子。パイプを一本一本手に取り音響に合せて数日かけて整音していく。     

縦に5分割されたバロックスタイルの外観は中央が立体的に丸みを帯びていますが、これはM.ルターの活躍した中部ドイツでバロック時代に名器を残したG.ジルバーマンから構想を得ています。また、オルガン外箱全体は、稲富氏設計の礼拝堂の白壁の開放的な雰囲気にマッチするよう白色のセイヨウトネリコの無垢材で仕上げ、その階層の一部分を茶色で彩色して窓枠の漆と協調性を持たせています。

写真下F地元のテレビラジオ新聞でも取り上げられた。 

パイプ上部に飾られた唐草模様はゼーニ氏のデサインを基にドロミテの伝統木工職人の手によって彫られており、礼拝堂の席から見上げた時に楽器が上品な主張をするよう白く彩色し、その唐草模様の一部とプロスペクトパイプの歌口には金箔が貼られました。これは祭壇の壁に取り付けられている十字架と聖霊を象徴している金色の細工に合わせ、パイプの歌口からも神への賛美が聖霊と共に歌われるようにとイメージさせたものです。

写真下:G工房での製作過程の様子や現地での組立作業の写真が壁に展示され、完成を皆が見守ってくれた。

また、キリスト教の象徴的な形である八角形で建築された礼拝堂構造からインスピレーションを得て、譜面台にも八角形の象嵌彫刻を嵌め込むなど、遊び心も盛り込まれた創造性豊かな楽器に完成しました。私と夫は、楽器完成後のオルガン聖別式と、楽器披露演奏会で弾かせていただき、教会員や集まった大勢の皆さんとこの新しい響きの誕生を堪能しお祝いしたのでした。

写真下左:Hオルガン演奏台。譜面台には8角形の象嵌彫刻  写真下右:I筆者と夫で連弾演奏中。 

●礼拝堂設計者にはドロミテへの密かな想いも
ところで、パイプオルガン披露演奏会には礼拝堂設計者の稲富氏も遠方から参列なさいました。その後の祝賀パーティの席でのことです。なんと彼の口から、実はこの礼拝堂の白い内壁の漆喰にはドロミテ産の大理石の粉が混ぜられているということが明かされました。若かりし頃に登山家でもあった稲富氏がドロミテへの密かな想いを込めて混ぜ込んでいたということなのですが、そのようなことは牧師をはじめ教会員の誰も、この時まで全く知らされていませんでした。                                      

●宗教改革500年目を機に宗教宗派を超えためぐりあい
そのドロミテに工房を構えるイタリアのカトリック信者のオルガンビルダー、アンドレア・ゼーニが、Kさんとの出会いをきっかけに日本のルター派の礼拝堂に宗教改革500年目にオルガンを据えたという、全てが偶然とはいえ、この不思議なご縁とめぐりあいに皆で驚き喜ぶと共に、この礼拝堂でこれから響き続けていくオルガンの音色が、宗教宗派を超えた神と人とのめぐりあい、人と人とのめぐりあいを繋いでいく役に立っていくことを皆で願い祈ったのでした。  

写真下:Jオルガンビルダーゼーニ氏と教会牧師の「めぐりあい」 

●この教会でCD「めぐりあう時〜INCONTRI〜」を収録
このご縁と貴重な体験、またこのオルガンの音色を広く紹介したいとの想いから、私たちはこの教会でCD「めぐりあう時〜INCONTRI〜」を収録しました。ブックレットにはこのCDが生まれた経緯を牧師が綴っています。曲はルター派の教会音楽家J.S.バッハとパッヘルベル、ルター派からカトリックに改宗したJ.C.バッハ、カトリック司祭ヴィヴァルディと宣教師ヅィポリの作品を集め、一枚のディスク上でめぐりあわせました。

写真下左:KCD「めぐりあう時〜INCONTRI〜」   写真下右:LマイクをセッティングしてCD収録。


今年4月に大阪ワオンレコードから発売されましたが、各音楽誌で特選盤、推薦盤に選んでいただくなど、好評発売中です。JITRA読者の皆様にもお聴きいただけたら大変幸いです。Amazon、タワーレコード、ituneでも取り扱っています。


著者紹介
吉田 愛  Yoshida Ai
東京都出身。武蔵野音楽大学、ドイツ・リューベック音楽大学にて、パイプオルガン、チェンバロ、教会音楽を学ぶ。7年間のドイツ生活を経て帰国し、盛岡市民文化ホール専属オルガニストとしてオルガンの普及活動に勤めた。2006年、パイプオルガン制作に携わるイタリア人夫との結婚を機にトレンティーノ州ドロミテ山塊の麓フィエンメ渓谷に移り住み、北イタリアを拠点にヨーロッパ、日本で演奏活動を行う他、毎夏日本人のためのドロミテ・オルガンアカデミーを開催している。CD「バッハとイタリア」「4手の対話」(大阪、ワオンレコード)は各音楽誌で特選盤。南チロル州エーニャ市サン・ニコロ教会オルガニスト。
ブログ「オルガニスト愛のイタリア山小屋生活」 http://organvita.exblog.jp
ホームページ http://www.aialexorgano4mani.com





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