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奥山陽子のハラハラ、イタリア日記
15 novembre 2010
第1回 イントロ編
ヴェローナ滞在すでに10年


奥山陽子

四月、ヴェネツィア、水上バスはポンポンと賑やかな音をたてながら大運河をのろのろ進んでゆく。ガソリンのにおいが何か懐かしく、水面は空の色を写してゆらゆらと揺れている。今、私はアカデミアの近くで来週から行われるヴェネチアでは初めてのアートの個展のため、打ち合わせに向かっているところ。
思えば10年前、イタリアでの落ち着き先を求めてヴェネチアにきたのも同じ季節だった。

●イタリアで「退職後」の「小休止」を決意
同年代の友人たちがそろそろ定年後の話などをはじめるようになったころ、私は設計事務所を主宰していたので定年はなかったけれど、どこか海外で小休止をしたくなった。英語圏も考えてみたが、何となくなじめそうなイタリアに標的を定めてみた。
まずはミラノから、ナポリ、ヴェネチアとお試しまわりをして、何かこの国は性に合うし、疲れた心身をいやしてくれそう、としばらく滞在することに決める。日本に戻り、身辺を整理してというよりも脱出を強行して、関係者には申し訳なかったが1ヶ月半後には再びイタリアに居た。

さてどこに落ち着くかというのが問題で少々心配していたけれども、戻ってすぐのこと、たまたまヴェローナの有名な野外オペラを見に来て、そのままここに留まることになった。そのいきさつについてはまたの機会に。
ヴェローナは人口26万人でチェントロ(城壁の内側)は数万人かと思われるヒューマンスケールの街で、街を歩いていて知り合いによく会うし、友人たちは徒歩15分以内に居るのでメガロポリス東京に比べると何かと心地がよい。ミラノやヴェネチアにも近く、山や湖など風光明媚でさくらんぼなどフルーツがおいしい しワインでも有名である。ちなみにこれらの歳月で私はワインの味ききになれた!

こちらに来てしばらくはただのんびりと観光などしていたが、そのうち日伊の建築家の親善交流の企画、サポートなどを頼まれたりもした。またつかのまに通りすぎる旅行と、住むことの違いの大きさに感動し、この経験をお裾分けしたいと、ミニ生活体験をテーマに滞在型の旅などをプロデュースしていた。  

作品@(トップ) サイズ:45cm×70cm、作品A サイズ:55cmX90cm

●「和紙」を通じて独自のアートを発信
そんな折、たまたま友人に誘われてアカデミアという国立美術学校の市民講座、パステルコースを受講することにした。始めて見ると実に楽しい。4時間があっという間に過ぎてしまい、その間はまったく無心で過ごせるし、幸い評価も高くて美術の別のコースの先生たちがわざわざ私の作品を見に来てくれたりして気をよくしていた。
そろそろ何か日本の文化を紹介したいと思いだしたころで、お茶お花といった定番以外のものをと考え、和紙はどうかと思いついた。建築のマテリアルとして設計の時によく使ったので、その質感、性能に魅了されていたから。  

そこで日本から持ってきた和紙の原料の“こうぞ”に染料で色をつけ、様々な色に染めた“こうぞ”をあたかも絵の具のように使い分けて“和紙を”作る要領で絵を作ってみた。糊も鋏も、絵の具も使わないし、ちぎったりと指もつかわない私のオリジナルな手法を編み出すことになった。
それらを家に飾っているうちイタリア人たちにぜひにとうながされ、重要なギャラリーで個展を開くことになった。
会場ではこの絵は油絵かそれともアクリル? 水彩ではないよね、などと聞かれ種を明かすと驚かれた。

この手法は独自のインパクトをもつので今までに見たことがないと評判になり、ヴェローナのアーティストたちとニューヨークの展覧会に招かれたり、サンディエゴのモダンアートミュージアムの公募展に入選するなど、イタリア以外にも発表の場を得た。このところイタリアではミラノ、ヴェネチアなども含め年に数回、個展の機会を得ている。
最近は二次元の絵画から三次元のオブジェクトにもひろがり、来年にはヴェネチアの美術館での個展も予定されていて、制作に余念のない日々を送っている。

自分では自然体のつもりなのに、批評家には東洋と西洋の融合などと言われ面映ゆく、イタリアに来なければ、このような道に入ることもなかったであろうと、不思議な思いである。

作品B サイズ:90cmX140cm

●旺盛な好奇心でスリル満足の毎日
イタリア滞在は、ある日インスピレーションを得て思い立ったことなので、それまではイタリア語のNHK講座さえ聞いたこともなく、イタリア人に会ったこともなく、イタリアに知り合いもなくということで、家族はもちろん友人たちは驚いたことと思う。
この国に関する知識は無いに等しく、また何の備えも出来なかったためイタリア語をはじめいろいろ不自由はあったが、にわかに来てしまった自分のせいと思うと落ち込むこともなく、結果的にはかえって良かったかもしれない。

見知らぬ国で生まれつきの旺盛な好奇心につきうごかされたスリル満点の毎日は、サバイバル本能を研ぎ澄まさせてくれたように思える。またイタリア人の、人とのつながり方、家族の強い絆、カップルの関係の機微などは見ていて今でも興味が尽きない。もちろん文化や風習の違いについても。

というわけでいままでのイタリア生活記録を振り返ってお届けできることをJITRA編集部に深謝するとともに、何かの御参考にしていただければと祈っている。

著書プロフィール
奥山陽子 (Okuyama Yoko)

東京に生まれ、北海道大学工学部建築工学科卒、丹下健三のもとで東京カテドラルのコンペ、広島平和公園聖火台、聖心女子大学などのプロジェクトに参加。その後、創成社建築設計事務所を開設し住まいと住環境をテーマに住宅や集合住宅の設計、住宅地域計画などを行う。1990年代には日本建築家協会理事もつとめた。  

それまでに培ったアートへの素地と憧憬は、独自の手法によるアート作品制作へと向い批評家や愛好家の支持を得て、イタリア国内および国外での個展などへの参加となった。その作品はイタリア以外にも、アメリカ、フランス、イギリスなどで収集されている。1999年よりイタリア在住。 サイト:www.yokookuyama.com 創成社建築設計事務所 http://www2s.biglobe.ne.jp/~yko/sss/ (写真右上:筆者、ニューヨークでの展覧会会場で)            



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