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美味しい街「パルマ」だより
15 Giugno 2015

第5回  パルマの伝統を守るクラテッロ
Culatello 
 

西村明美 
今回も、前回に引き続き、パルマの伝統を守る製品、クラテッロを紹介していきます。

●その年の最高のクラテッロを選ぶ会
『Eccellente Arcisodalizio del Culatello Supremo』という団体、日本語に訳すと、最高のクラテッロ探求のための卓越した至上の団体。なんだか物々しい感じがしますが、それもそのはず、パルマ郊外ソラーニャSoragna,のお城にお住まいのメリ・ルピ王子がご自宅(博物館として一般にも公開されています)で、この団体の会員50名と約150名の招待客のみを集めてその年の最高のクラテッロを選ぶという会が1年に一度、5月に開催されます。

写真トップ@パルマ郊外のお城で開かれる「最高のクラテッロを選ぶ会」
写真上左Aソラーニャのお城   写真上右Bお城の中庭

7年前までは女性禁制で、ご夫婦で招待されても女性はテイスティングに参加することすら出来ませんでした。この会をオーガナイズされているピエトルッチ氏の奥様は、「このテイスティング中、私は会員や、招待客の奥様を観光にお連れする役だったわ。バーリ(プーリア州の町)とか遠くからいらっしゃっている方もいらして、観光地選びも大変だったのよ。」と思い出話をされていました。

写真上左C会員はこんな衣装をまとって参加   写真上右Dスライスしたクラテッロ

審査は、あらかじめ選ばれた10の生産者(工場生産でなく、手作りしているもののみ)の名前を伏せ、10のクラテッロをテイスティングするブラインドテイスティングです。テイスティングシートが渡され、外見、香り、味、後味の得点を付けて、合計点を計算します。

写真上左Eテイスティングする会員   写真上右F賞を渡すメリ・ルピ王子(右のマイクを持った方)

最後に全員の統計を取り、一番高い点を取ったクラテッロがその年の最高のクラテッロとなります。

●伝統を大切にするクラテッロ
パルマの伝統を厳格に引き継ぐクラテッロについてご紹介します。クラテッロと言っても、まだ日本ではご存じない方もいらっしゃるかもしれません。クラテッロは、豚のお尻の部分の肉を膀胱の皮に入れて熟成するパルマの伝統的生ハムの一つです。イタリアではクラテッロと言うと、最高級ハムというイメージが強く、最近は、鴨のクラテッロなどと名乗る、何でもクラテッロが出回っています。

●8つの村に生産地域は限定
「クラテッロ・ディ・ジベッロ Culatello di Zibello」は、パルミジャーノ・レッジャーノ、プロシュット・ディ・パルマ同様ヨーロッパEUから伝統を守り生産される商品を保証するDOP(生産地保護保証)に指定されている商品です。ですから生産地、原料となる豚、豚の餌、生産方法など、細かい規則があり、最終的に検査を受けて、初めてクラテッロ・ディ・ジベッロと名乗る事が出来ます。
伝統を守って、昔の冷蔵庫が無かった頃の生産時期10月から2月に生産した物のみが、「クラテッロ・ディ・ジベッロDOP」となります。それ以外の時期に生産されたものは、「クラテッロ」として市場に出ます。

写真上Gクラテッロ

クラテッロ・ディ・ジベッロは、イタリア語で、「ジベッロのクラテッロ」。だからジベッロで作られた物だけがクラテッロ・ディ・ジベッロなのかと勘違いされることが多いのですが、ジベッロ村で登録されたので、この名前が付いたとの事。実際には、8つの村で生産する事が出来ます。1.コロルノColorno、2.ジベッロZibello、3.ロッカビアンカRoccabianca、4.ソラーニャSoragna、5.サン・セコンドSan Secondo、6.ブッセートBusseto、7.ポレジネ・パルメンセPolesine Parmense、8.シッサSissa。 これら8つの町の特徴は、ポー川沿いの低地、夏は暑くて、冬は寒さが骨に沁みるパルマの中で最も湿気の多い地域です。

●湿地帯ゆえに考案された熟成方法
パルマの他の地域同様、この地域でも一般家庭で、普通に豚が飼われていました。毎年冬になると豚を1頭殺して、1年分のハム、サラミ類を作るのが恒例でした。「豚は爪以外に捨てるところが無い」と言われますが、昔貧しかった頃は血液ですら、スープに入れて食べていたようです。

この地方は、湿地帯なので、乾燥した風を必要とするパルマハムのようなプロシュットが出来ませんでした。そこで、考えたのが、豚の後ろ足の腿肉の中で、一番価値の高いお尻の部分だけを使い、サラミのように皮で包んで熟成させるという方法が考え出されました。サラミは腸の皮ですが、クラテッロの形に合わせて膀胱の皮に詰めます。

一般家庭では、1年に2つだけ出来る(1頭の豚の後ろ足のお尻の肉なので)クラテッロは自宅で消費する事は無く、高価に売れるクラテッロを売ったそのお金で翌年用の豚を購入していました。

●クラテッロの生産工程
1)腿肉からクラテッロの部分を取り出す。
2)塩胡椒して、置く。

  写真上左Hクラテッロを取る   写真上右I塩漬け

3)吊るして水分を出す。
4)そして熟成させるというシンプルな方法です。
熟成中、11月頃からの霧が出る湿気の多い日に窓を開けて空気を吸わせます。湿地の空気を利用して熟成します。

写真上左J膀胱の皮に入れて縫う   写真上右K吊るす 

実際には、カビが生えすぎたり、乾燥しすぎて割れたり、、、と美味しく作るのは大変な職人技だと言われます。

●クラテッロ生産者マッシモさんの思い出
飲食店を持つ農家で屠畜職人が父という家庭に生まれたクラテッロ生産者の一人、マッシモ・スピガローリさんが幼い頃の思い出を「クラテッロ読本」にこのように書かれています。

「昔は、今の様に家族がそれぞれの部屋を持つと言う事は無かった。田舎の小さな家では南側の台所(薪で調理していた頃)の上にある部屋が、一番乾燥した部屋だった。冬、クラテッロを作るとこの部屋でクラテッロは乾燥された。その部屋では、老人と子供が寝ていた。私は生まれてから3歳まで、サラミとクラテッロと一緒に眠っていた。夜目が覚めるとベットの上にぶら下がっているクラテッロが暗闇の中で人の頭のようで、叫びながら父を呼んだものだ。4月、5月にはクラテッロが乾燥しすぎるのを防ぐために別の部屋に移された。

6月になると真っ暗で、湿気のある部屋、子供は親と一緒にしか入る事が出来ないカンティーナに入れられる。9月のブドウの収穫が終わると、クラテッロの香りを付けるため、カンティーナの床にぶどうを絞った後の皮が敷かれる。11月、霧が出るとカンティーナの窓を開けて、クラテッロに空気を浴びさせる。

春が来ると、父が馬の骨で出来た針をゆっくりゆっくり刺して内部の香りを確かめる。父の顔が笑顔で緩み、目が潤む。2つの大きなブラシで、クラテッロの重要な香りを作るムッファ・ノービレ(高貴なカビ)を取っていた。クラテッロは、水で洗われ、陰に置かれ、一晩ワインに浸けられる。それをまた陰で乾かし、台所の水屋の棚に入れる。クラテッロを切る日は、儀式の様だった。家で一番良く切れるナイフで半分に切ると台所が信じられない香りで一杯になる。薄く切って、口の中に入れて目を瞑る。感動の瞬間。

小学校では、10時の鐘がなると、おやつにそれぞれが家から持ってきたパニーノの包みを開く。クラテッロが挟んであるパニーニを持って行くとその香りにパニーノ交換しようという子供達が集まった。クラテッロのパニーノは、サラミのパニーノ4つ分の価値があった。僕は飲食店を持つ両親を持っていたから、他の子供に比べて、クラテッロのパニーノを持って行く事が多く、その度に自慢に感じていた物だ。」

伝統を頑固に守るクラテッロ。現地で伝統を感じてみませんか。
パルマ特産品工房を巡る旅をオーガナイズしています。
ご希望の方は下記ブログ、またはhttp://akemi-nishimura.wix.com/sapore-italianoよりお問い合わせください。



西村明美(Nishimura Akemi) 
1996年よりパルマ在住。パルマという土地柄、食に関わる通訳の仕事が多く、ワイン好きが嵩じて、2003年イタリアソムリエ協会AISの資格を取得。2007年にパルマ人と結婚し、ますますパルマの伝統食品への興味が深くなり、パルマ伝統食品アドバイザーコース終了。2013年にパルミジャーノ・レッジャーノ協会のテイスターコース、パルミジャーノ・レッジャーノ紹介者養成コースを終了。
現在、パルミジャーノ・レッジャーノやプロシュット・ディ・パルマ、クラテッロなどの工場見学、研修や、アルマインターナショナルでソムリエコースを教えるペッシーナ先生のワイン講座、お料理教室をオーガナイズするかたわら、更に専門的にパルマの食品について勉強中。
ブログ  http://marchesell.exblog.jp/

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