●標高1100mの山肌に張り付いた人口8千人の村
夏の暑い盛りの8月中旬、ガンジという村の「小麦祭り」へ行ってきました。パレルモから約130Km、標高1100mという山肌に張り付いたように位置し、人口も8000人と小さな村です。山のてっぺんの旧市街から、下へ向かって標高1000mまで新市街が広がり、従って村はどこもかしこも坂道と階段で構成されています。友人の何人もが「ガンジの小麦祭りは楽しいよ」と口を揃えて言うので、「是非一度」と足を伸ばしてみました。
写真トップ@祭りに繰り出すシチリアの伝統的な馬車
写真上左Aメインストリートと広場の装飾 写真上右B小麦で作った魔除け的なもの
●今年50年記念となる毎年8月第二日曜日のお祭り
お昼前にガンジに到着し新市街の入り口付近に車を止めて、そこからはこの日のために用意されたシャトルバスで旧市街まで上がります。旧市街は2つの広場とそれを繋ぐ細いメインストリートに麦で作られたデコレーションが施され、既にかなりの賑わいを見せていました。毎年8月の第二日曜日に行われるこのお祭りは、今年が50年記念ということで、市民の気合いも高まっていたのでしょう。
写真上左C午前中の民族衣装を着た人達のダンス。 広場で踊って、更に踊りながら町を進みます。
写真上右D踊りを見守る子供達
午前の部はシチリアの民族衣装に身を包んだ男女が、楽隊の演奏に合わせてダンスを披露してくれます。暑い中でこの衣装を着て踊るのはいくら若くても大変なことだと思いますが、踊る方も観る方も皆夢中で楽しんでいる様子、私も真剣に見入ってしまいました。しかしメインは午後の部です。
●古代ローマ時代から定評あるシチリアの小麦栽培
近代社会が始まる前はどの国でも生活の基盤を支えていたのは農業、日本人にとって何よりもお米が大切であると同様に、ヨーロッパの人には小麦が最も大切なものでした。古代ローマ人の支配下にあった頃からシチリアでは小麦栽培が有名で、今でもシチリアの小麦は生産量、味とともに定評があります。
写真上左E収穫した小麦、そりの一つに乗っていました
写真上右F待機中のそり。それぞれ収穫物や道具やお花などが乗せてあります
●小麦収獲の喜びと感謝をギリシャ神話の女神に捧げる
これは農業を支える農民の生活を再現し、小麦収穫への喜びと感謝をギリシャ神話の女神、デメテルに捧げるお祭りです。イタリアでキリスト教徒である彼らのお祝い事にギリシャの神様が出て来ることは非常にまれな話、何だか不思議な気がしました。デメテルは「大地の生産を司り、結婚と社会秩序を保護する女神」つまり、大地の母です。彼女の胸先一つで作物の豊・不作が決められてしまったと言われていますから、大事にしないと大変なことになりかねません。何せギリシャの神々はすぐに怒ったり、悲しんだり、意地悪をしたりしますから。
写真上G午後の部の始まりです
●領主、使用人、農民、女神デメテルなど総勢200人の大行列
午後の部では、午前の部のダンスと同様に、様々な衣装をまとったガンジ市民が村中を行進するので、見学者はそれぞれ良さそうな場所を見付けて待機、と言っても本当に人だらけで大変です。何せ都会であれば「脇道」に値するくらいの細い道がメインストリートなのですから。
写真上左H結婚前の貴族のカップル。 写真上右:I牛に引かれてやって来るそり
まずは領主である貴族が馬に乗って登場し、その後に使用人、農民が続き、最後に女神、デメテルが現れますが、子供達や楽隊なども間に入り、総出演者数は200人と言うからびっくりです。目の前を大きな牛が農業に使用していた道具や収穫物を乗せた7台のそりを引いて通り過ぎ、荷物を積んだロバがその鼻息を感じるほど近くを歩いていきます。
写真上左Jパン 写真上右:Kわらを運ぶロバ
小さな町の大規模なお祭り、農民の生活とギリシャ神話が混ざり合い、その土地を所有する貴族も現れて、まるで舞台を観ているような構成でした。よく「日本は農業国、ヨーロッパは狩猟国」と言われますが、いえいえとんでもない。やはり基本は農業なのだと実感しました。
●村の人達が一体になって祭りをオーガナイズ
私は行進の出発点に当たるサン・パオロ広場に陣取っていたので、係りの人達が次々と、そしてどこからともなく動物を連れてきては落ち着かせ、出番を待たせるというバック・ステージもしっかりと観察出来ました。お祭り自体も非常にカラフルで楽しい物でしたが、村の人達の一体感や共同作業、そして抜かりの無いオーガナイズに驚かされた私です。
写真上Lギリシャ神話の女神、デメテル。このお祭りの主役
●「イタリアの宝石」に選ばれたガンジの町
この計画性、協力性、機能性はまるでシチリアではないような感じですがそれもそのはず、ガンジは2012年に「イタリアの宝石」と呼ばれる村に選ばれています。イタリア全体でたった21の村(人口60,000人以下の小さな村対照)にしか与えられていない賞で、シチリアから選ばれたのはガンジのみ。
更に今年「イタリアで最も美しい村」にも選ばれています。小さな内陸の村は取り残されてしまうことの多いシチリアですが、ここガンジは人々の意識がとても高く、ボランティアで様々な活動に積極的に参加している女性も多いという話。そう言うわけで「皆で協力する」という、一般的にシチリア人の苦手な部分を見事に克服しているようです。
周りは本当に何もない村、そこで村を愛し、発展を信じて、楽しみながら生活をしているガンジの人々と彼らの作り出すお祭りの気迫は素晴らしく、満足して帰路につきました。