●日本の「かき氷」に似た「グラニータ」
日本も段々と暑くなってきている頃で、冷やし中華やかき氷が恋しい季節かと思います。限りなくアフリカに近いここシチリア、夏の暑さはかなりのものですが、何と日本のかき氷に近い食べ物が存在するのをご存知でしょうか?グラニータという名前のそれはジェラートと並び、シチリア人にとって夏場欠かすことのできない食べ物です。5月下旬、シチリア島の東側カターニアから約15Km、イオニア海に面した小さな町で「グラニータ祭り」が開かれました。今までこのコーナーでは伝統的なお祭りをご紹介してきましたが、この「グラニータ祭り」は今年4回目、まだまだ新しい催し物です。
写真トップ@アチレアーレのバールのグラニータ。ブリオッシーナというロールパンとグラニータはシチリア東部の夏の朝食の定番。レモンとストロベリー、コーヒーとアモーンドにたっぷりの生クリーム。
写真上Aグラニータ祭りでは1,50ユーローで、カップに入ったグラニータを購入。ポーションはシチリアにしては小さ目だが、幾つもの味見をするのでちょうど良い。B午前中室内で行われていたコンフェレンス。それぞれジェラートやグラニータの第一人者で、歴史や製造方法を話してくれた。
●カターニア近くのバロック建築溢れる町
町の名前はアチレアーレ(Acireale)、アチ(Aci)というのはギリシャ神話の登場人物アーキスのことで、カターニア付近には「アチ」の付く名前の町がいくつかあります。ほとんどのシチリア島の東側の町は1693年の大地震で崩壊してしまい、18世紀に入ってから当時流行りだったバロック様式で建て直されていますが、アチレアーレも同様に小さい町ながら見事な、そして迫力のある建築物が溢れています。
写真下左Cアチレアーレのドゥオーモももちろんバロック様式。広場にはお祭りの為子供用遊び場が設けられていた。
写真下左D建物のバルコニーもバロック装飾が施されている。 元は魔除けの意味があったと言われている。
町は海抜160m、会場は海岸線を一望できる公園内と、ロケーションも抜群です。さぞかし早い時間から人で混み合っている・・・と思いがちですが、ここはシチリア。夕方からのお散歩好きなシチリア人で賑わうのは6時頃からです。昼間は公園内の建物の中で、グラニータに関する説明や作り方の実演などが行われ、それも又大変興味深いものでした。
写真下左E会場となった公園の入り口。正面に海が見渡せる、抜群のロケーション。 写真下右F公園の奥からはイオニア海がすぐ目の前に。
●8組のパティシュがコンクールに参加
このお祭りはコンクールも兼ねていて、今年は8組のパティシェが参加、シチリアだけではなく北部、中部イタリア、遠いところではメキシコやオーストラリアからも参加しています。それぞれフルーツやスパイスを効かせた独自の商品を発案し、審判員と一般の人の投票によって今年一番のグラニータが選ばれます。
写真下左G皆がくつろげる場所も設けられていた。 写真下右H夕方になるとどこからともなく人が集まってくる。
●グラニータのオリジナルはレモン味
そもそもグラニータとはどんな物なのでしょう?元は9世紀、シチリアを統治していたアラブ人が持ち込んだ柑橘類、砂糖(それまでの甘味は蜂蜜でした)とエトナ山の雪を混ぜて、シャーベットのような物を生み出したのが始まりです。ですからオリジナルはレモン味、おそらく現在でも最も人気のあるテイストだと言えます。このグラニータ、シチリアの東西では舌触りが違い、パレルモのある西側ではかき氷に近い正に「氷」を感じさせ、このお祭りの行われた東側ではもっとずっと滑らかな、シャーベットに近い物です。
そしてシチリア人が口を揃えていうには「グラニータは東が美味しい」ということ。私自身もこの言葉に100%納得です。このあたりの人達は、ブリオッシーナというロールパンのような物とグラニータが夏の朝食の定番で、これはパレルモではあまり見かけない光景です。一口にシチリア島と言っても、九州の7割位の大きさがありますから、地域によって違いがあるのは当然といえば当然ですね。
写真上IJグラニータを食べる地元の人達。
●市民がグラニータの味見と投票を
夕方になると、ぞろぞろと人が湧き出るように集まってきます。6時7時と言ってもまた陽は高く、「さー、これから食べるぞー」という感じで露店の物色をする顔は、大人でもまるで子供のように真剣で見ていて面白いものです。人々の話をちょっと伺ってみたら、親子や夫婦でも「私はこれが美味しいと思うわ」、「やー僕は絶対にこっちだね」と、味の好みで意見が別れ、そこからすぐに議論に発展するのもこれ又シチリア人らしいところ。金曜日から日曜日と、3日間に渡って行われるこのお祭りの間中、幾つものグラニータの味見をして投票を行うというので、一般市民の役割どころも重要です。
写真上左Kグラニータと一緒にブリオッシーナも購入できる。 写真上右L気が付いたら長い行列ができていた。グラニータを買う為に並ぶのは、 このお祭りの時ぐらいだろう。普段はいたるところにあるバールで、 食べたい時にすぐに買えるのだから。
好き勝手をしがちなシチリア人ですが、主催者側は「役割があるとみんな結構真剣に取り組む」という性格を上手に取り入れているように思え、まだ4回目とはいえ盛り上がっているのが伺えました。暗くなると海をバックにしたステージでコンサートも始まり夜中まで大騒ぎ、典型的なシチリアの夏の夜が繰り広げられます。
●学生も「実習訓練」の場として運営参加
このお祭りでは、各露店でグラニータの販売や投票のアシスタント、又色々な裏方作業に、レストラン・ホテル業を学んでいる学生さん達が実習の場として参加していました。人手はいくらでも必要ですし、生徒さん達は実習の訓練が必要、双方が上手く噛み合って一石二鳥という、これ又経費をかけ過ぎずにスムーズな運営成功の秘訣と言えるでしょう。
写真上MNホテル・レストラン学校へ通う生徒達。彼らがいなければ人手が 足りなかったであろう。まだまだ動きがぎこちない人もいたがその分初々しさが感じられた。
常々食は文化と思っている私ですが、1200年もの歴史を持つグラニータの歴史を全ての人が理解しているわけではありません。しかしお祭りを楽しみながら、その伝統も伝授していく形は、若い人や子供達にとってある意味歴史の授業とも言えそうです。冒頭に触れたように日本にはかき氷が存在しますから、いつか日本からの参加者が現れてくれないものかと、ほのかな期待が胸をよぎりました。
写真上左O伝統的なグラニータやジェラートを売る三輪の車。ステンレスの入れ物の中に商品を入れ、昔はこのような車で売り歩いていた。 この車が姿を表すと、子供達が夢中で走ってきたという。 写真上右P昔ながらの方法でのグラニータの作り方。木の桶に氷と塩を入れ、そこへ金属製の容器を置く。水、レモン汁、砂糖を加えたものを入れて、左手で時計と反対周りに器を回し、同時に右手で液体をかき混ぜる。 見ていたらあっという間にグラニータができてしまった。