JAPANITALY Travel On-line

 
イタリア旅行情報サイトJAPAN-ITALY Travel On-line
シチリア「食」の旅
15 novembre 2010

第6回
幻の(?)黒パン
Pane Nero di Castelvetrano



  文・写真/佐藤 礼子 

「Castelvetrano(カステルヴェトラーノ)に幻の黒パン(= Pane Nero)が存在する・・・・」と聞いたのは、5年前にトラーパニに来てから間もなくの事でした。「幻」とは実に魅惑的な言葉で、「幻」と言われると何が何でも見てみたくなる私。好奇心旺盛な私はこの「幻 の黒パン」の存在を確かめるべく、数日後にすぐにカステルベトラーノに行った事を今でも覚えています。

トップ写真:@カステルヴェトラーノの黒パンは中をあけると茶色く、粉独自の甘い香りが漂います。
写真左:A粉挽き機は先代から受け継いだ年代物、右:B粉は黄色く見えますが実物は灰色っぽい感じです。

●地域で古くから栽培される硬質小麦を使用
カステルベトラーノはトラーパニ県の南東部にある小さな街。質の高いオリーブオイルが作られる事で知られています。そして、この辺一帯では昔から伝わる 「tumminia(トゥンミニア)」と呼ばれるこの地域のみで古くから栽培される硬質小麦があり、この小麦を使ったパンが幻の黒パン、となるわけです。黒パン作りは、「tumminia(トゥンミニア)」と「硬質小麦の全粒粉の2度挽き」を使います。黒いのは全粒粉を使っているから?
「いや、tumminiaの粉は灰色っぽいんですよ。黒くなるのは全粒粉を使っているからだけじゃなくて、tumminiaの色がもたらすものでもあるんですよ。」 と語るのは、カステルヴェトラーノの老舗のパン屋さん、La Bottega del Pane Rizzoのシニョーラ。

●ほんのりと甘くて香ばしい味
さてこの黒パン、お味は、、、と言うと、普通のパンなのにほんのりと甘くとても香ばしい。シニョーラが言うには、これまたtumminiaの粉がもたらす味だとの事。でもtumminiaはこの地域でしか栽培されていないため、なかなか手に入りづらい食材の一つだそうです。

写真左:Cカステルベトラーノには黒パンの看板が沢山
写真右:D老舗のRizzoでは今も正真正銘の黒パンを作り続けます。

さて、ここで「本物の黒パン」である条件とは?

@ 石臼で挽かれたtumminiaの粉を使っていること。
A リエビト(酵母)はナチュラルなものであり、人工的なものは使わないこと。
B 薪窯を使っていること。
C 薪はオリーブオイルの木の枝であること。

●オリーブの木のくべられた薪窯で焼き上げ
ただのパンでありながらこんなに条件が!
リエビトは「水と粉」から長時間かけて醗酵させて作った生地がベースとなっています。ビール酵母や生イーストのような人口的に作られたものは一切使わない そうです。毎日、黒パンの生地を少し残し、翌日のパンの生地に加えます。("Lu Criscenti"、と地元の人は呼びます)そのため醗酵時間がとても長いので、朝早くからの仕込みが必要となります。
長い時間をかけて醗酵させた生地は、オリーブの木がくべられた薪窯で焼き上げられます。窯が300度と高温に達した時点で火は消され、一度内部をきれいに 掃除します。そしてそこに醗酵したパン生地を入れてゆっくりとゆっくりと直火があたることなく余熱で火を入れていきます。そして、オーブンが完全に冷めた らパンの焼き上がり。醗酵から焼成まで本当に手のかかっている一品です。
写真:E店頭に並ぶ黒パン。


●伝統を守り続ける老舗のパン屋
さて、5年の月日を経て先日久しぶりにカステルヴェトラーノに「幻の黒パン」を求めて行って来ました。5年前に行ったLa Bottega del Pane Rizzoは現在も変わることなく存在していました。

「カステルヴェトラーノにもたくさんの”Pane Nero”を売っているパン屋さんがあるけれど、本物を作っているパン屋さんはもう少ないのよね」 と、 嘆くBottega del Pane Rizzoのシニョーラ。現在料であるTumminiaが手に入りづらい事、天然のリエビトを使うため長時間の醗酵時間が余儀なくされること(当然労働時間も増えます)、薪窯を持っている人が減ってきたこと、原因は色々。消え行く伝統を守るべく、街の人には本物を作り続けていって欲しい、と強く願うのでした。


シチリア「食」の旅  著者プロフィール
佐藤 礼子 Satoh Reiko
ラ ターボラ シチリアーナ代表

東洋英和女学院大学卒業後、イタリア料理人の道を目指しイタリア料理店に入店。カメリエーレ、イタリア料理人を経た後、イタリアの郷土菓子に興味を持ち独自に研究を始める。その後、大手企業での洋菓子商品開発、店舗企画などを経験。イタリア食文化を勉強する為、2004年イタリアに渡る。スローフード マスターイタリアンクッキング ディプロマ取得後、シチリアにて研修を重ねる。10年を越える日本での食の仕事の経験と、1年半に渡るイタリアでの修行を終えて、2004年シチリア州トラーパニで「ラ ターボラ シチリアーナ」を設立。シチリア料理教室、食に関するコーディネート、通訳を手掛ける。又、各種メディアに執筆活動も続ける。
サイト: http://www.tavola-siciliana.com/index.html
Blog: http://trapani.exblog.jp/
http://www.japanitalytravel.com
©  JAPANITALY.COM srl - MILANO 2000 All rights reserved.