JAPANITALY Travel On-line

イタリア旅行情報サイトJAPAN-ITALY Travel On-line
"食い倒れ"スローフード留学記
 
月5回発行、
JITRAメルマガ
登録はここから!

メ-ルアドレス入力

メルマガ案内

15 febbraio 2007

Studiamo Slow Food in Italia

第2回
マルケ州モンテカロットでの
晴れときどきブタな田舎暮らし







粉川 妙
●ステージ先は一転、モンテカロットへ
スオーラ(シスター)からの電話があったのは、大晦日のことでした。希望していたステージ(厨房での実地研修)を断るというのです。
年明けすぐにアッシジの修道院でステージを始めるつもりだったのですが、先方は1500年以上続くカトリック修道院の伝統と規律に反すると言います。カトリックの文化に惹かれ、修道院の厨房で料理を学びたい・・・強い想いから何軒もの修道院を回ってはステージの受け入れをお願いし、やっと見つけた一軒でした。
突然の拒絶に戸惑いを隠すことが出来ません。しかし、スオーラの真剣な話しぶりには特例を認めることによる懼(おそ)れと責任が読み取れます。無理もありません。従順で清らかなスオーレたちをこれ以上悩ませるのはやめましょう。

そこで思い切って方向転換。豚肉大国イタリアならではの豚の屠殺(とさつ)・加工を見ることはできないだろうか。友人から贈られた300ページにもおよぶ豚の本には『マルケの由緒正しき屠殺法』なるものが記されていました。中世から続くその様子をこの目で確かめたい。
実は豚を調査するのが私の趣味。さかのぼること10年前、『豚と文化』という論文を書き教授に褒められて以来、豚と人の営みを調べるのがライフワークになっているのです。

校長に相談すると、イエージの隣町のアグリツーリズモを紹介してくれました。
豚の屠殺が見られるのであれば、どこへでも。モンテカロットMontecarottoにあるアグリツーリズモ「カダボ(CADABO)」でお世話になることになりました。モンテカロットはマルケ州を代表する白ワイン、ヴェルディッキオ・ディ・カステッリ・ディ・イエージの里。丘とブドウ畑の続くのどかな田舎町です。

●いざ、豚の屠殺に同行!
40歳前の若い夫婦が営むアグリツーリズモはオープンして一年目。レンガ造りの温かみのある建物に広々としたレストラン、庭にはホロホロチョウや鶏を飼っています。
ブタは?
ご主人ロサーノに聞くと「ここにはいないよ。土曜日屠殺するから、車で連れて行ってあげる」と約束してくれました。

当日、屠殺場所である農家の庭には、縦切りにされ真二つになったブタが納屋の壁に立てかけられていました。いきなり生々しい現場を見てびっくりしていると、「これから3頭目を始めるから」とノルチーニと呼ばれる屠殺人たちがこともなげに言います。見れば軒には既に息絶えた可哀想なブタが吊り下げられていました。

そしていよいよ解体です。まず首の部分から下腹部にむかってナイフで切っていきます。そして内臓をそっくり取り出します。はじめに膀胱、腸、胃、肺とこの順に丁寧に体から切り離します。これらの仕事を2人で行い、他の4人は取り出された内臓をお湯で洗っていくのです。とりわけ腸は丁寧に洗われます。小腸はサルシッチャ(腸詰)用に、また大腸はチェリンボリ用に。チェリンボリは暖炉の火であぶってパンに挟んで食べると美味しいのだそう。
うち一人のおじさんが私に「見てごらん」といいつつ風船のような白いものを膨らませました。「なに?これ?」「これはね膀胱だよ」「へぇ!」膀胱って本当に袋状なんですね。 これはストゥルット(ラード)を入れて保存するために使うのだそうです。冷蔵庫がある現在ではこういった保存法は廃れてしまいましたが、彼らは今でも昔のやり方を守っています。

写真左:農家の庭、右:豚の加工、ピスタ
 

内臓を取り出した後は、豚を真二つに割ります。お尻の部分から背中、頭にかけて。背中の部分はコツがあるのか、比較的力もかけずにトントンと小斧の重さだけで切っていきます。解体する手つきはとても手馴れていて無駄がありません。
ノルチーニたちは常に冗談を言いながら、陽気に作業を続けます。真冬の凛と冷えた空気に、男たちの吐く息と、豚を洗う桶の湯気が白く立ちのぼります。

かつてマルケの農家では、一冬に数匹の豚を屠殺しました。ある家が豚の屠殺をノルチーニたちにお願いすると、やって来て行います。すると近所の人たちが集まり、半身になった豚をその場で解体し、プロシュートやサラミやサルシッチャに加工していったのです。これらの加工品は農民たちの食卓を一年中潤しました。さらに貧しい農民は豚の内臓をおいしく料理し、タンパク源にしたといいます。
こうした豚の屠殺は戦後だんだんと行われなくなり、ここ20年余りは途絶えていたそうです。でもすばらしい伝統を後世に残そう、と最近復活しました。これからも絶やさずに、子や孫に引き継いでいってくださいね。

●サルーミは何よりのご馳走
翌朝、カダボの地下室では豚の加工が始まりました。ロサーノ夫妻の両親と叔父さんたちがピスタと呼ばれる加工作業を手際よく行っていました。私は興味津々でその風景をカメラに収めたり、質問したりと大忙し。サルシッチャ用にする挽(ひ)いた生肉を味見させてもらったのですが、脂肪が甘く香辛料がスパイシーでワインのお供にもってこいの味でしたよ。
こうしてすべてを加工し終わったのが午後3時過ぎ。快い疲労感です。一日中立ちっぱなしだったのにさほど疲れていないのは、彼らの冗談と和気あいあいとしたムードのおかげかしら。親族が協力し合って行う豚の加工は、家族の絆を深めるのにも一役かっています。

写真左:豚加工の様子、中:腸詰の穴の確認、右:出来上がったサルーミ
   

カダボのレストランでは、彼らが作ったサルーミ(豚肉加工品)を食べることができます。おいしくてかつ安全なサルーミは何よりのご馳走。そしてメニュー紹介。プリモのお勧めは黒トリュフのソースで食べるパッサテッリとアヒルの肉とトマトソースで和えたニョッキです。パッサテッリはパルメザンチーズとパン粉、卵をあわせた生地を、ところてんのようにスープの中に押し出して作るパスタ。マルケのご当地メニューです。ニョッキはもちろんマンマの手作り!
メインの「肉のグリル 盛り合わせ」は文句なしの味。素材がいいのでおいしいのは当たり前ですよね。ウサギのポルケッタはウイキョウの葉とラード、ニンニクの利いた味。淡白なウサギの肉が風味豊かな一品に・・・などなど、素材の味を生かした田舎料理の数々です。

オリーブ畑の丘に早春の西風が吹く頃、モンテカロットに別れを告げました。2カ月間の短い滞在でしたが、よく食べ、よく笑い、たくさんの驚きがありました。自然に近い生活をしていたせいでしょうか。
春が来たら種を蒔き、必要があれば家畜を増やし(交配させ)、自然の恵みをいただく。野菜だけでなく、豚だって鶏だって人間が食べるために、その命を奪わなければなりません。残酷ですがこうやって私たちは生きています。今回、屠殺を3度体験しました。次の日、その豚肉を食べました。涙が出るほど美味しくてありがたかったのは言うまでもありません。
人は一人では生きられない・・・共存、そして共生。農家の生活は人の絆の大切さだけでなく、自然との調和も教えてくれました。

カダボ CADABÒ
Via S.Angelo, 4
60036 Montecarotto (AN) ITALIA
Tel: +39 333 3737897 / +39 0731 889041
Fax: +39 0731 889742

著者プロフィール
粉川 妙(こかわ たえ)
甲南大学文学部社会学科卒業。卒業論文『ブタと文化 〜文化人類学的考察から〜』。以後豚と人間の歴史や風俗を調査することをライフワークとする。製薬会社勤務を経てイタリアの食・文化を学ぶため留学を決意する。2005年スローフード協会の料理学校ITAL.COOK.に入学。06年12月末まで調理場にて実地研修(ステージ)予定。
ブログ『butakoの2年間の休暇 *イタリア料理への道*』http://butako170.exblog.jpにてイタリアの食文化や著者の日々の様子を配信中。

"食い倒れ"スローフード留学記
グルメ・ワインアルキーヴィオへ このページのTOPへ HOME PAGEへ

http://www.japanitalytravel.com
©  JAPANITALY.COM srl - MILANO 2000 All rights reserved.