特集 ウンブリアの小さな町を訪ねて
〜「いにしえのウンブリア、峡谷と山々」当選者レポート〜
15 settembre 2005



素朴ながらも美味しいウンブリア料理、
そこにはスローフードの世界が・・・
〜カッシャ、オリーブオイル、ノルチャの生ハムと特産品の旅〜

2005年5月31日〜6月3日

寺本行男 Yukio Teramoto


「イタリアには地方料理はあってもイタリア料理は存在しない。」「イタリアでは州の数(20)だけ料理がある。」これらはイタリア料理について語られる常套句である。ウンブリア料理は、トスカーナ、ボローニャ、ピエモンテなどの料理と比べ知名度では劣るものこそ、その質、食材のバリエーションでは勝るとも劣らない。ノルチャの生ハムやサラミ、黒トリフ、そしてオリーブオイルはイタリア中にその名を知らしめている。そして忘れてはならないのがDOCG(保証付原産地統制呼称)赤ワインであるサグランティーノ・ディ・モンテファルコSagrantino di Montefalcoを筆頭とする高品質なワインたちである。そんなウンブリア料理の原点に実際に触れてみることが今回の旅の目的であった。

1日目:カッシャ散策、ノルチャのサラミ工場
朝10時に今回のガイド役であるフェデリーカ嬢が車でローマの宿泊ホテルまでピックアップに来る。彼女の車で一路宿泊先であるカッシャCasciaへ向かう。5月から6月にかけてはイタリアを旅行するにはまさにベストシーズン。約1時間後、ローマからの高速を降りると緑深いウンブリアの渓谷地帯に入り込む。ところどころ可憐な黄色いジネストラの花が咲き乱れのどかな田園風景が眼前に広がる。その後一時間ほどでこれから3日間の宿泊先であるホテルHotel Monte Meravigliaに到着する。近代的なホテルで、メインダイニングは高い評価を受けている。ツインルームも広々として、ウェルカムフルーツが用意されていたりと、まるでリゾートホテルのような気配りを感じさせる。

カッシャはスポレートから車で一時間弱、標高653mの丘陵地にある人口僅か3,000人程のとても可愛らしい町である。ここは1900年に聖人に列せられたサンタ・リータの町として有名で、高台には彼女を祀る聖堂と彼女が40年間過ごした修道院がある。1940年に立てられた新しい聖堂ではあるが、緑深い渓谷に聳え立つその美しさは目を見張るほど。またリータは「望みのないときの助け手」と言われ、1457年5月22日、76年の生涯を閉じた後も、彼女の美徳を偲んでイタリア全土から多くの巡礼の人々が訪れる。私達の訪れた時は国民の祝日だった事もあり町の広場では数多くのテントが建ち並び、まるで日本の縁日のような賑わいであった。彼女の象徴である薔薇の花や食材、雑貨を売る店々が軒を連ね覗いて見るだけでも楽しい。

さてホテルのプランツォ(昼食)ではウンブリアの食材を余すところなく使った数々の料理がテーブルに並んだ。その中でも特にプリモピアット(2品)の一つ、「ポルチーニ茸のキタッラ」(Chitarra ai fugni porcini)は手打ち麺のコシと茸の触感が絶妙であり、後を引く美味しさであった。ワインは当地が誇る白ワイン"グレケット・デッルンブリア2004"、造り手はScacciadiavoliといい、芳しい芳香とサラッとした喉ごしはお昼時にピッタリであった。 食事が終る頃、当ホテルのオーナー、そしてカッシャの女性市長、スポレート歌劇場支配人の思いがけない暖かい歓迎を受ける。

昼食後最初の訪問地であるノルチャNorciaへと向かう。目的はサラミ職人の町としてイタリア中にその名を馳せるノルチャのサラミ工場の見学であった。古くからこの地には豚を主に扱う熟練した肉職人が集まり、彼らはノルチーニNorciniと呼ばれた。その食肉加工技術はイタリア随一とも言われ、その後多くの職人達がその卓越した技術をイタリア各地に伝えたと言われる。とりわけノルチャ産の生ハムは漬け込む時にバルサミコ酢を使い、アロマが豊かで塩分がやや強い「山の生ハム」と言われる。
訪れたCiliani社は意外と近代的な建物だった。工場責任者が施設内をくまなく案内してくれた。腸詰作業の現場、そして夢に見たノルチャ産の生ハム熟成室、その他多種類の今まで見たことのないサラミの数々が温度管理された熟成室で白カビに包まれ出荷を待っていた。ノルチャのサラミ作りの奥深さに触れたひと時であった。

ホテルでのチェーナ(夕食)もまた素晴らしいウンブリアの特産品から作れる味わい深い品々が並んだ。アンティパストにはあのノルチャの生ハムが・・・。やや赤みががった塩分が若干効いたこの生ハムにはウンブリアの塩無しパンと、ミディアムタイプの赤ワイン・ロッソ・ディ・モンテファルコがピッタリである。そしてもう一品「ファッロ(スペルト小麦)のスープ」(Zuppa di farro)は素朴ながらも噛み締めるほどにファッロの味わいが口内に広がり体にやさしい味わいであった。しかも味付けにカーシャ特産のサフラン(Zafferano)が使われ色合いも黄金色の贅沢な一品であった。

2日目:ポッジョーロ、スポレート、ポレータ
今日は午前中ポッジョーロPoggioloにある日本でも見かけるモニーニ社のフラントイオ(オリーブオイル生産所)を訪問。ここは全工程コンピューター制御の最新鋭の設備を有するが、収穫期ではなかったので機械は稼動しておらず、残念ながらその工程を実際に見ることは叶わなかった。一般的にウンブリアのオリーブ・オイルは薫り高くマイルドな特徴を持つ。ここで作られるオリーブ・オイルは全てD.O.P.(保護指定原産地表示)規格の最高級品であり、地理的気候的にとても酸度の低いオイルが作られる。敷地内にはイタリア料理研修の為の宿泊施設付きの研修設備をも併設していた。

その後ランチの予約をしてあるスポレート市内のトラットリーアに向かう。途中市内の歴史的な建造物などを案内してもらい、ローマ時代の面影を残す町並みの散策を楽しむ。
"トラットリーア・デル・クアルト"は郷土料理を提供する家族的な店であった。店の奥は庭になっており外での初夏の風を感じながらの食事は、まるで時計の針が止まったかのような錯覚を覚える。ハウスワインをカラフェで頂きながら、当店のお勧め料理を頂く。まず最初にこの地方のサラミとチーズの盛り合わせ、そしてブルスケッタ。ところがブルスケッタにはそのボリュームに度肝を抜かされる。厚さはゆうに1cmを超える、ウンブリア特有の塩無しパン。それに黒オリーブのパテが塗られ、さらに特産のエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルがたっぷりかけられている。プリモはこの地方の家庭でよく作られるパスタ・ストランゴッツィのトリフソース(Strangozzi al tartufo)。小粉粉と水だけで煉られるうどんに似た感触の素朴なパスタである。さらにはトリフ入りのオムレツ(Frittata al tartufo)とまさにトリフ尽くし。なんとも贅沢なランチであった。

午後からはポレータPoretaのオリーブオイル博物館を見学をする。一見古めかしい農家、中には時代物の石臼やオリーブオイルを保存するテラコッタの壷が並ぶ。当時のオリーブオイル搾油の様子がジオラマで見ることが出来る。ここのオーナーはサフラン(これもこの地方の特産品である)の生産者組合会長でもあった。

3日目:ベヴァーニャからモンテファルコへ
いよいよウンブリアの旅も最終日を迎えた。午前中ベヴァーニャBevagnaの町を散策するが、今日は国民の祝日とあって街はツーリストで賑わっていた。古代ローマ時代の遺跡も残る中世時代にタイムスリップしたかと思わせる町並み。運良く店も開いており、郷土のお菓子やパスタを売る店も覗くことが出来た。

次に向かったのはこの地方が誇る銘醸ワインの産地モンテファルコMontefalco。町を中心とした一帯に葡萄畑が広がり、その一角にある"Cantina Benincasa"を訪れた。ここは家族経営の小規模生産者ではあるが、その質の高さには驚かされる。試飲したのは白1、赤4の計5種類。どれも今まで自分が知っているウンブリアワインの域を超えていた。特に気に入ったのは意外にも、DOCGワイン・サグランティーノ・ディ・モンテファルコではなくバルベーラ、メルロー、サグランティーノの混醸ワイン"Vigna la fornace"であった。熟したベリー、それにココアのニュアンスの甘い香、ビロードのような滑らかなタンニン、口の中で広がる余韻の深さ、まさにスーパーウンブリアと呼べるワインだった。日本に輸入されていないのが残念であった。

いったんホテルに戻り、ランチをとった後ノルチャの町を見学に出かける。祝日とあって町の中心は多くの観光客の姿が見られた。名物のサラミを売る店(当地では町の名前からノルチネリアと呼ばれる)の中はごった返す人だかりであった。入り口の猪や豚の剥製のディスプレイには度肝を抜かされた。

4日目
朝6時にホテルを出発、ローマ駅までの帰途、車中で3日間の想い出を噛み締めながら去り行く緑豊かなウンブリアの丘陵地帯に別れを告げた。

最後に
今回一般の観光ルートとは外れたウンブリア渓谷地帯の美食ツアー(?)を体験出来たことはとても幸せでした。名所、史跡巡りやショッピングも旅の大事な目的ではありますが、そこに根ざす食文化に触れることも旅を更に思い出深いものにしてくれることでしょう。今回熱心にガイド役を務めてくれたフェデリーカ嬢、忙しい中案内頂いた訪問先の方々、暖かいもてなしのホテルのスタッフの皆さん、そして素晴らしいプランニングをして頂いたJITRAの方々に心より感謝申し上げます。

☆宿泊先
HOTEL MONTE MERAVIGLIA
VIA ROMA 15, 06043 CASCIA (PG)
TEL. 0743.76142 FAX 0743.71127


カッシャのサンタ・リータを祀る大聖堂




ウンブリアの関係者とカッシャのホテルにて




カッシャの広場での縁日(?)




ノルチャの生ハム熟成室にて




ポルチーニのキタッラ




スポレートのトラットリアにて




サグランティーノのワイナリーにて



ジネストラの花が咲き乱れるオリーブ畑



寺本さんプロフィール
神奈川県横浜市在住。イタリアンワイン・バー"ORE SEI"オーナー。イタリア在住歴2年。主にピエモンテ州、ヴェネト州のリストランテで仕事をする。イタリアワインに魅せられソムリエ資格をとり、年間3000種類以上のワインを飲み歩く日々。趣味が仕事と化している。
http://www.japanitalytravel.com
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