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イタリア・トラム探索の旅
15 Novembre 2011

Italia, Viaggio in tram

第1回 
トラム・ルネサンス





市川嘉一



今回から連載の形で、イタリアのトラムのまちを訪ね歩いた見聞記「イタリアのトラム探索の旅」を紹介しようと思っています。
 「そもそも、トラムって何?」と言われるかもしれません。日本語ではトラムを路面電車と訳します。ただ、日本でも最近はトラムという言葉が雑誌などメディアでも使われるようになりました。トラム(Tram)は元々、フランス語がオリジンなのですが、今では「ストリートカー」という言葉を使ってきた英語圏を含め世界中でこの言葉が広く使われるようになりました。

イタリア語では路面電車のことを「Tranvia」と言いますが、やはりイタリアでも近年、トラムと呼ばれることが少なくないようです。本欄でも「路面電車」と呼んでもいいのですが、語感の良さから、あえてトラムという言葉を使わせていただきます。

 トップの写真:ポルティコ(柱廊)が続くポー通りを行くトリノのトラム
写真下左:「運転席にどうぞ」と手招きされたローマのトラム(マッジョーレ門)  
写真下右:ティチネーゼ門をかすめるように走るミラノの旧型車両のトラム  


●土地の歴史や生活感を映す「まちのシンボル」
私事で恐縮ですが、トラムとのかかわりを少々。長い間、主にまちづくりや都市交通の問題をテーマに記事を書いてきましたが、今から10年以上前に海外でのまちづくりの取材を通じて仕事の域を超えてトラムの魅力にとりつかれ、とりわけヨーロッパのトラムに心を奪われてきました。なぜって。なかなか、一言では言い表せないのですが、こう答えようと思います。ヨーロッパのトラムは乗り物としての役割にとどまらず、沿線の風景、運転手や乗客の仕草などを通じて、そのまちの歴史や、そこで暮らす人々の生活感などを色濃く映し出す「まちのシンボル」とも言えるものだから、と。

海外では長い間、主にドイツ語圏を中心とするトラムを取材したり、沿線の旅を楽しんだりしてきました。ところが、今から4年前(2007年)、初めてイタリアの地を踏んでからというもの、ドイツ語圏など他国にはない独特な風情を醸し出すイタリアのトラムにも強く魅かれるようになりました。これまで、仕事や私的な旅行の際にイタリアのトラムのまちをいくつか訪ね歩いてきましたが、本欄ではそこで見聞きしたトラムやまちのことなどをエッセー風にまとめようと思っています。イタリアのトラムに焦点を絞った読み物はあまりないだけに、少しでも興味を持っていただければ、幸甚です。

●トラムの走っている都市はいくつ? 
ところで、クイズです。イタリアでは現在、いくつの都市でトラムが走っているのでしょうか?  どの国でもそうですが、トラムと言っても、なかなか定義は難しいです。路面を走る市内電車が代表例でありますが、それだけでなく、英語で鉄道を指す「Heavy rail」に対し、「Light rail」(「軽鉄道」といった趣の鉄道)と呼ばれる乗り物という括り方をする方がよいでしょう(日本語では線路幅が1m以下の「軽便鉄道」というタイプの鉄道がありますが、「軽鉄道」はそれとは異なります)。実際、欧米の専門雑誌などではそうした分類をする方が一般的なようです。

 写真下左:87分の1のHO模型で再現されたローマのトラム(左)とミラノのトラム(右)  
写真下右:「イタリア・トラムのまち」地図 


その伝で言えば、イタリアでは古くから街なかを走っているローマ、ミラノ、トリノ、ナポリの4都市だけでなく、アドリア海沿岸の都市でスロヴェニア国境近くの港町トリエステや、オーストリアに隣接した南チロルの小都市ボルツァーノ(正確にはドロミテの急峻な山々に囲まれた高原の町ソプラボルツァーノ)も、街なかを走っているとは必ずしも言えませんが、「軽鉄道」という点ではトラムの町と言えるでしょう。実際、公共交通を所管するイタリアのインフラ・交通省もトラムが走る自国の都市の数をトリエステなど含め6都市と数えています。                 

イタリアのトラムのまち一覧(開業年順)
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トラムのあるまち
現在の路面
距離
(km)
開業年
以前の開業時間
1
ローマ(Roma)
30.7
1890年(1877年8月2日)
-
2
ミラノ(Milano)
115
1893年(1876年7月8日)
-
3
トリノ(Torino)
56.5
1898年(1872年)
-
4
ナポリ(Napoli)
10
1899年(1875年)
-
5
トリエステ(Trieste)
5.2
1902年9月2日
-
6
ソプラボルツァーノ
(Soprabolzano)
6.6
1907年8月13日
-
7
メッシーナ(Messina)
7.7
2003年4月3日
1910年-1951年
8
サッサリ(Sassari)
4.3
2006年10月27日
なし
9
パドヴァ(Padova)
10.3
2007年3月24日
1907年-1954年
10
カリアリ(Cagliari)
6.3
2008年3月17日
1915年-1973年
11
ベルガモ(Bergamo)
12.5
2009年4月25日
1898年-1958年
12
フィレンツェ(Firenze)
7.4
2010年2月14日
1890年-1958年
13
ヴェネツィア(Venezia)
6.3
2010年12月20日
なし
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278.8
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(注)開業年は現在に至る電気駆動のトラムの開業年。カッコ内は蒸気トラムの開業年

トラムは第2次大戦後、世界的な自動車の普及とともに「道路交通の邪魔もの」として各国で撤去が相次ぎました。イタリアも例外ではなく、先の交通省の統計によると、1960年代にはイタリア国内のトラムの開業都市は14都市もあったとのことです(「ウィキペディア」によると、イタリアにはかつて78都市でトラムが走っていたとしています)。路線距離も1970年に665kmあったのが、その後は減り続け、2002年には383kmと40%以上も減少したということです。

●トラムの見直しと建設の新しい動き
それが、再び流れが変わってきたのです。1990年代以降でしょうか。少なくとも欧米では車に依存しすぎないためのまちの再活性化策として、トラム導入の動きが急速に広がってきました。イタリアでもその波と無縁ではありませんでした。21世紀に入り、新たなトラムの開業が相次いでいるのです。

シチリア島の都市メッシーナ(開業は2003年4月)を皮切りに、サルデーニャ島のサッサリ(2006年10月)、カリアリ(2008年3月)の2都市でも開業。2007年3月には北イタリアの大学都市パドヴァでは厳密にはトロリーバスの進化型とも言えるゴムタイヤ式のトラムが導入されました。さらに、同じ北イタリアのまち、ベルガモでも2009年4月からかつて鉄道が走っていた線路を活用したトラムが郊外路線として運行され、2010年2月にはルネサンスの古都フィレンツェでも約50年ぶりにトラムが復活しました。

 写真下:約50年ぶりに復活したフィレンツェのトラム


イタリアでのトラム建設の動きはまだ止まりません。2010年10月にはヴェネツィアと言っても島ではなく本土側のメストレですが、ベルガモと同じゴムタイヤ式トラムがお目見えしました。このほか、シチリアのパレルモ(建設中)や、中部イタリアのラクイラ(計画中)などでも開業が予定・計画されています。先ほどのクイズの答えですが、ミラノなど古くからトラムが存続している6都市に、ヴェネツィアを含めた新規開業した7都市を足し合わせた計13都市(総路線距離は約280km)ということになりましょうか。英国のトラムの専門雑誌(「Tramway & Urban Transit」)の調査をもとに新規開業都市と建設中の都市の数を国別に数えると、イタリア(計11都市)はフランス、米国、スペイン、トルコに次いで世界で5番目に多いことになります。

●イタリアでも「トラム・ルネサンス」?
さらに、ローマなど既にトラムが走っているまちでは新たなトラム路線をつくったり、計画したりする動きがあります。そのスピードはイタリアらしく(?)、誠にのんびりしていますが。1990年代、ドイツやフランスなどではトラムが復活する動きを「トラム・ルネサンス」と専門家は呼んでいましたが、今やイタリアでもちょっとした「トラム・ルネサンス」の渦中にあると言ったら、言いすぎでしょうか。

さて、だいぶ前置きが長くなりましたが、次回から、いよいよイタリア・トラム探訪の旅に出かけましょう。第1回目は、フィレンツェのトラムです。    


著者プロフィール
市川 嘉一 Kaichi ICHIKAWA

1960年生まれ。都市・地域問題を専門にするジャーナリストとして、国内外の数多くの都市の現場を取材してきた。著書に『交通まちづくりの時代』(単著)など 



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