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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Settembre 2012
Notizie dalla Biennale di Venezia

第15回  
第13回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展より






中山エツコ
ヴェネツィアでビエンナーレ国際建築展が開かれている。ビエンナーレ美術展の行われる緑の空間ジャルディーニとアルセナーレ(ヴェネツィア共和国時代の国営造船所)を会場とし、美術展と交互に開催されるようになって今年で第13回を迎えた。今回の総合ディレクターはイギリスの建築家デヴィッド・チッパーフィールド氏で、テーマは “Common Ground” 。共通の基盤、共有する場……個の表出としての建築ではなく、強い社会性をもつ、共通の価値の表れとしての建築や町づくりに焦点をあてる。ジャルディーニの中央館とアルセナーレに展示される69のプロジェクトと、各国パヴィリオンを中心とする参加55か国の展示が、都市と環境の共存、建築と人、社会との関わりなど、さまざまな角度からこのテーマに取り組んでいる。 

       トップの写真: @日本館の最優秀パヴィリオン金獅子賞の授賞式 (伊東氏、カンチェッリエーリ内務大臣、ビエンナーレ代表バラッタ氏)      写真下左:Aジャルディーニ会場の中央館  写真下右:B日本館展示 


●日本館が最優秀パヴィリオン金獅子賞を授賞
建築家の伊東豊雄氏をコミッショナーとする日本館は、「ここに、建築は、可能か」というタイトルのもと、東日本大震災で家を失い、コミュニティを失った人々が、仮設住宅暮らしのなかでも寄り合い、集うことができるような「みんなの家」を陸前高田市に建設しようというプロジェクトのプロセスを展示している。同地出身の写真家、畠山直哉氏とともに、伊東氏と三人の若手建築家(乾久美子氏、藤本壮介氏、平田晃久氏)が何度も被災地に足を運び、菅原みき子氏を代表とする土地の人々との会合を繰り返しながら、模索に模索を重ね、「みんなの家」をつくりあげていく過程が、ビデオと多数のモデルを通じて追えるようになっている。

写真下 :C建設中の「みんなの家」(乾氏、伊東氏、平田氏、藤本氏、畠山氏)

すべてを失ってしまった地での、まさに「ゼロからの出発だった」というプロジェクト。三人の建築家によるモデルの発展過程を見ると、海中のアメーバから生物が進化していった過程を見るような思いがする。原初に戻っての無からの誕生、ゼロだからこその自由さ。それが、人との関わりのなかから、その地にあわせて呼吸するような形をとっていく。波をかぶって立ち枯れた杉材の柱が天と地をつなぐようにして立つ「みんなの家」は11月に完成の予定という。ヴェネツィアまで運ばれてきた同じ杉材の立つ日本館は、壁いっぱいに陸前高田のパノラマ写真が貼られていて、ちょうど「みんなの家」からあたりを見回すようだ。「人間性に強く訴えかける展示」と評価された日本館は、最優秀パヴィリオンに与えられる金獅子賞を受賞した。

●「共通の基盤、共有する場」をテーマに多彩な展示
特別表彰を受けたアメリカ館(“Spontaneous Interventions: design actions for the common good”)は、地域の生活環境を改善するために市民から自発的に生まれた124のプロジェクトを紹介している。共同菜園、バスの移動八百屋、公衆電話のボックスに誕生したミニ図書館などなど。「わかち合う場」をめぐって、なんとさまざまなアイディアのあることか。ニューヨークのブロンクスの教師によるプロジェクトで、問題のある生徒たちをガーデニング活動に巻き込んだ結果、植物の開花とともに生徒たちの学業も向上していったというものもあった。シンプルだが、ポスターを下に引っ張ると壁の上の隠れたキーワードが現れるという「遊び」のある展示だ。

写真下左:Dアメリカ館    写真下右:Eロシア館(二階展示)

「科学技術都市」に焦点をあてたロシア館も特別表彰を受賞(“i-city”)。展示は二部にわかれ、二階のスペースでは、モスクワ近郊スコルコボに計画中の未来科学都市を紹介している。観客はiPadを渡され、館内の壁を覆い尽くすQRコードから未来都市の情報をダウンロードして見学。一階では冷戦時の旧ソ連に遍在していた国家機密の科学技術都市の数々が紹介される( “i-land”)。こちらは、デジタルの殿堂のような二階の展示とは正反対の、超アナログ的な壁の穴からの覗き見。存在も極秘にされていた町の色褪せた写真が見られて、わたしにはこちらのほうがおもしろかった。
ジャルディーニ会場からもうひとつ紹介したいのはハンガリー館(“Space Maker”)。学生たちのつくった空間デザインのモデルを並べた「モデルの森」は、いくら見ていても飽きない。どれも精緻なつくりで目を見張るが、どこまでも自由・多彩な発想がとにかく楽しい。

写真下左:Fハンガリー館     写真下右:Gヴェネズエラ風レストランGran Horizonte


●スラムの現実を紹介した受賞作
アルセナーレ会場では、ノーマン・フォスターが映像作家たちと手がけた空間がおもしろかった。歴史上の著名な建築家の名前が床に映写されるなか、壁面ではいくつものビデオが、スタジアム、音楽ホール、祈りの場など人々の集まる建物を映し出し、映像と音響でさまざまな空間の共有を鑑賞する。“Common Ground”展のプロジェクトとして金獅子賞を受賞したのは、ヴェネズエラのアーバン・シンクタンクによる“Torre David / Gran Horizonte ”。カラカスの未完成のビルに住みついた人々の現実を、「下から起こった自発的な動き」ととらえて紹介。「食べ物を分かち合うことは、人々の間の共通の基盤づくりの第一」として、ヴェネズエラ風のレストランをアルセナーレ内につくった。この受賞に対し、本国では「スラムの貧困の現実を見せ物にした」という不満の声が上がっているそうだ。国際的な場で触れてほしくない話題ということだろうか。


●イタリア館はオリヴェッティ社の企業文化を焦点に
アルセナーレ会場の奥の奥にあるイタリア館は、広大な館内の入り口を緑でいっぱいにした。展示は「四季」というタイトルで、建築・環境と経済発展との調和の可能性をテーマとし、メイド・イン・イタリーの企業建築のたどってきた道を見せる。第一の季節は社会福祉重視の企業のあり方を追い求めた「アドリアーノ・オリヴェッティ」。企業は従業員、土地・環境に対して責任をもつべしというオリヴェッティ社の原則の生んださまざまな建築を紹介する。

写真下左:Hイタリア館(アドリアーノ・オリヴェッティ 1958年)  写真下右:I緑でいっぱいのイタリア館入口  


第二の季節は「国土への攻撃」として、80年代の中小企業の発展と国土への関心の低下を扱い、第三の季節「メイド・イン・イタリーの建築」は、オリヴェッティ的な感受性を取り戻し、生産の場に優れた建築をもち込んだここ15年ほどの例を紹介する。そして、現在から未来への第四の季節「リメイド・イン・イタリー」はグリーン・エコノミーを扱って、2015年のミラノ・エキスポ「地球を養う」ともリンクする。細長いアルセナーレ会場をここまで歩いてきてまだ余力があれば、パヴィリオンの外に並ぶ発電自転車で、何ワットの電気を生産できるか試すのも一興だろう。

例年のごとく、ビエンナーレ開催時のヴェネツィアは見逃せない展覧会があふれている。そのなかでひとつだけ、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島で行われている「カルロ・スカルパ/ヴェニーニ1932-1947」を紹介しておきたい。これは、多大な影響力をもったヴェネツィアの建築家カルロ・スカルパが、名門ガラス工房ヴェニーニ社でデザインした300ものガラス作品を見せるもの。この島のチーニ財団の施設内にもうけられた新展示室Le Stanze del Vetro(ガラスの部屋)での、最初の展覧会である。


著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』(以上、河出書房新社)、その他。

ヴェネツィア・ビエンナーレ情報

www.labiennale.org
■第13回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:8月29日-11月25日(午前10時-午後6時、月曜休み)
場所:ヴェネツィア、ジャルディーニ会場、アルセナーレ会場
サイト:www.labiennale.org
入場料:20ユーロ(2会場に1回ずつ入場できる。別々の日の入場も可)
受賞:
金獅子賞 最優秀パヴィリオン=日本館「ここに、建築は、可能か」(コミッショナー:伊東豊雄、参加作家:乾久美子、藤本壮介、平田晃久、畠山直哉)
金獅子賞 Common Ground展最優秀プロジェクト=Torre David / Gran Horizonte(JustinMacGuik、アーバン・シンクタンク:Alfredo Brillembourg, Hubert Klumpner)
生涯の功績への金獅子賞=アルヴァロ・シザ・ヴィエイラ

■その他のヴェネツィア・ビエンナーレ情報
www.labiennale.org
第7回コンテンポラリー・ダンス・フェスティバル(テーマ Awakenings)が6月8日から6月24日まで行われた。
第67回ヴェネツィア映画祭が8月29日から9月8日まで行われた。
第54回ヴェネツィア現代音楽祭(テーマ +Extreme- )が10月6日から10月13日まで開催される。
また、2012年8月、ビエンナーレ音楽・演劇部門では、フランスの作曲家・指揮者ピエール・ブーレーズ、イタリアの演出家ルカ・ロンコーニが栄誉金獅子賞を受賞した。

写真クレジット
@ BC :写真提供 Japan Foundation, photo: Naoya Hatakeyama
H :写真提供  Fondazione Adriano Olivetti 
その他の写真:筆者


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