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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Ottobre 2013

Notizie dalla Biennale di Venezia

第19回  
第70回ヴェネツィア国際映画祭から





中山エツコ
●70回の節目を記念し様々な企画
1932年にヴェネツィア・ビエンナーレ展の映画部門として創始された、世界で最も歴史のあるヴェネツィア国際映画祭が、今年で第70回を迎えた。大きな節目を記念して、世界各国70人の監督による1、2分の短編映画を集めた「Future Reloaded」が上映された。ヴェネツィア映画祭へのオマージュであると同時に、映画の未来を考えるというもの。日本からはこの映画祭とは縁の深い塚本晋也監督、園子音監督が、映画への情熱あふれる作品で参加した。  

トップの写真: @コンペ部門審査員(右から二人目は坂本龍一さん)   
写真下:A1961年、『用心棒』の公式上映会場の三船敏郎


同じく記念の企画として、各作品の上映前に昔の映画祭の様子を伝える短いニュース映画が映され、会場のあるリド島の浜辺にまだベルエポックふうの雰囲気も漂う1935年の第2回から1971年までの映像を楽しむことができた。同盟国ナチス・ドイツからゲッベルスを迎えての1941年、ジャン・コクトー、ロベルト・ロッセッリーニ、オーソン・ウエルズらが談笑する1948年、ウィンストン・チャーチルが海水浴姿を見せる1951年(この年、黒澤明の『羅生門』が金獅子賞を受賞)、インドの巨匠サタジット・レイの『大河のうた』が金獅子賞を、ルキーノ・ヴィスコンティの『白夜』が銀獅子賞を受賞した1957年、『用心棒』で最優秀男優賞を受賞した三船敏郎の姿が映る1961年、フェデリコ・フェッリーニの『サテリコン』が話題を呼んだ1969年……と、興味は尽きない。

●伊ドキュメンタリ―映画「サクロ・グラ」に金獅子賞
審査委員長を、昨年9年ぶりにメガホンをとって撮影現場に復活した、イタリアのベルナルド・ベルトルッチ監督がつとめたことも話題だった。審査員には、ベルトルッチ監督の東洋三部作(『ラスト・エンペラー』、『シェルタリング・スカイ』、『リトル・ブッダ』)の音楽を担当した坂本龍一さんも。映画の合間にアイスクリームを片手にリド島を散歩する姿が見られた。

ベルトルッチ審査委員長は、「映画には驚きを期待する」と語っていたが、審査の結果も驚くものだった。二作ものドキュメンタリー映画がコンペに出品されたのは今回の新しさの一つだったが、そのうちの一作、イタリアのジャンフランコ・ロッシ監督の『サクロ・グラ』(Sacro GRA)が金獅子賞を受賞したのだ。

写真下左:B金獅子賞を受賞したSacro GRA ポスター    写真下右:C金獅子賞のジャンフランコ・ロッシ監督     

ドキュメンタリー映画の受賞は映画祭史上初。GRAとは「木星を取り囲む環のようにローマを取り囲む」Grande Raccordo Anulare(ローマの環状高速道路)。全長70キロメートルの巨大な環状線上で、またその周辺で繰り広げられる人間模様を語る。ヤシの木を蝕む幼虫の叫び声を録音する植物学者、ウナギの漁師、B&B経営の没落貴族、環状線上を走る救急車の救急隊員ら7人が自身の物語を演じる“ドキュフィクション”で、GRAとそれを取り巻く環境を都市の生活空間として丹念に歩いていった結果でき上がった作品だ。

わたしは、友人の車に同乗していて出口を逃し、この道路を二周近く回ったことがある。そのとき初めて知ったこの環状線のインパクトは強烈で、「このまま永遠にローマのまわりを回りつづけることになったなら……」という恐ろしい考えが浮かびながらも、なぜか惹かれるものも感じたものだ。あの環のまわりにはこんな世界があったのか、というのが正直な感想だ。映画関係者の多いローマの人には馴染みの(そしてよくある渋滞が悩みの)GRAの環境が見せてくれる意外な顔が魅力だが、外国人には受け入れられるだろうかと気になった。審査員のあいだでは、特に反対もなく金獅子賞に決まったと言う。ともあれ、15年ぶりのイタリア映画の受賞に、国内メディアでは「審査委員長がイタリア人だからではないか」という声も上がった。イタリアが受賞を逃しても、受賞しても、文句は出るようだ。この受賞を支持する声は「勇気ある選択」としている。

●現実の社会問題の重みを伝える受賞作品
ドキュメンタリーのみならず、今回の映画祭では現実の重みをひしひしと感じた。家庭内暴力、幼児虐待など、現代社会の大きな問題を反映させた映画が光っていたからだ。銀獅子賞(監督賞)は『ミス・ヴァイオレンス』を撮ったギリシャのアレクサンドロス・アブラナス監督。父親をのぞいて女ばかりのアテネの一家。次第にみなが父親の暴力の前に屈して生きる様が浮き彫りにされる。

写真下:D『警察官の妻』      

ドイツのフィリップ・グローニング監督の『警察官の妻』(審査員特別賞)も家庭内暴力を扱っている。章分けされた短いシーンでは、日常のささいなことごとをだいじにしながら暮らす若いカップルと幼い娘の日々が、淡々と描かれる。章が進むにつれて、この平凡な一家を蝕む夫の暴力が明らかになる。詩的な映像は美しく、娘がひたすら愛くるしい。ていねいに日常を切りとっていくゆったりとした進行、はっきりとは見せないが、忍びよる重たい空気を暗示する場面……と、見ている最中は起伏に乏しい気がしても、見終わってからいつまでも心に残る映画だった。大役のかわいい娘役だが、公式映写会場にふたりの少女が現れたのにはびっくりした。なんと、双子の姉妹がふたりで演じていたのだった。

●82歳の女優が最優秀女優賞に輝く
女の意地を描いた作品が目立ったのも印象的だ。ロビン・ダヴィドソンの自伝小説を原作とする『トラックス』(Tracks)は、ミア・ワシコウスカ演じる主人公の若い女性が、オーストラリアの砂漠をラクダとともに横断する。「若さに突き動かされて」としか言いようのない頑固さで、みなが止めるのも聞かずに過酷な旅を敢行する。

写真下左:E『トラックス』のミア・ワシコウスカ    写真下右:F『あなたを抱きしめる日まで』      


『あなたを抱きしめる日まで』(Philomena)も事実にもとづく本が原作。老境に近づいて、娘のころにアイルランドの修道院で出産し、養子に出された子どもを探し出したいという思いが断てなくなったフィロメーナが、元ジャーナリストの力を借りて息子の行方を探す物語だ。暗い話なのに、イギリスの大女優ジュディ・デンチの演じる、心がまっすぐな初老のおばさんフィロメーナと、スティーヴ・クーガン演じる、ひねくれてスノッブな元エリート・ジャーナリストという、ちぐはぐな組み合わせの珍道中がユーモアいっぱいで楽しい。意外な展開あり、ほろっとさせたかと思うとアイロニーが効いていたりと、すべての要素を備えた文句なしの映画で、優れた映画の醍醐味をたっぷり味わわせてくれる。

初監督作品でコンペに参加したイタリアの演出家エンマ・ダンテは、自身の小説『カステッラーナ・バンディエラ通り』を映画化した。車のハンドルを握る人生に疲れた老女(エレナ・コッタ)と嫌々故郷を訪れた女性(エンマ・ダンテ)とが、パレルモの小さな通りで鉢合わせになる。二台の車は通れない。が、どちらも道を譲らず、延々とにらみ合いを続ける。

写真下左:G『カステッラーナ・バンディエラ通り』のエレナ・コッタ   写真下右:H『カステッラーナ・バンディエラ通り』    


老女の家族、道の住人たちの思惑が入り乱れるなか、どちらも、どうにもならない自分とにらみ合っているようかのように、少しもひるまない。が、最後には物語は車とともに悲劇的に転がり落ちていく。シチリアの小さな道を描きながら、イタリアの危うい行く末への危惧も思わせる。ものも食べず夜をすごしながら、一度車から降りたふたりがガンマンのように向き合って、老女は立ったまま、もうひとりはしゃがんでおしっこをするシーンがある。自分のテリトリーを印すようで、動物的な野蛮さがおもしろかった。この頑固な老女をほとんど表情だけで表現した82歳のエレナ・コッタは、ジュディ・デンチを抑えて最優秀女優賞に輝いた。

●イタリアの若者から応援を受ける日本作品
日本からは宮崎駿監督の『風立ちぬ』(コンペ)、園子音監督の『地獄でなぜ悪い』(オリゾンティ部門)、李相日監督の『許されざる者』、荒牧伸志監督のCGアニメ『キャプテンハーロック』(ともにコンペ外の招待作品)が参加した。宮崎監督は、スタジオジブリの星野社長がヴェネツィアでの記者会見で引退を伝え、世界の記者たちを驚かせた。上映会場では、観客が場面場面をていねいに追う息づかいも聞こえてきた。

  写真下:I『風立ちぬ』   
  写真上左:J松本零士さん  写真上右:K渡辺謙さん


『キャプテンハーロック』は、イタリアでも若者のあいだでカリスマ的な存在、原作者の松本零士さんが会場に姿を現し、盛り上がった。アクションものの『地獄でなぜ悪い』も『許されざる者』も会場を沸かせたが、『許されざる者』の主演、渡辺謙さんはさすがに国際的な俳優だけあって、会場には「KEN WATANABE」と書いたカードを手に応援する若いイタリア人もいた。

●SF仕立てのハリウッド映画
ハリウッドスターの話題がまだだった。今回、スターたちはSFじたての映画が多かった。オープニングの『ゼロ・グラヴィティ』(Gravity)は、ジョージ・クルーニー演じるベテラン宇宙飛行士が悠々と宇宙遊泳を続け、一方でサンドラ・ブロック演じる宇宙は初めての科学者が、サバイバルをかけて根性を見せる映画。ジョージ・クルーニーが飄々としたとてもいい味を出している。

写真下左:Lオープニングの会場に向かうジョージ・クルーニー  写真下右:M華やかなスカーレット・ヨハンソン 


タランティーノの映画で国際的な大スターとなったオーストリアのクリストフ・ヴァルツは、謎の「マネージメント」の支配する近未来を描くテリー・ギリアム監督の『The Zero Theorem』に主演。珍しくスキンヘッドで登場し、わけがわからぬままにヴァーチャルな世界に連れ込まれるハッカーを演じた。華やかさを最大限にふりまいて登場したスカーレット・ヨハンソンは、イギリス映画『Under the Skin 』に主演。食材調達用に人さらいをするために地球に送られてきた宇宙人という、あっと驚く役柄だった。

●感動的な「フェッリーニへのオマージュ」
最後になったが、イタリアの著名監督を扱うドキュメンタリー映画がいくつかあって、興味深かった。『Profezia. Africa di Pasolini』(予言。パゾリーニのアフリカ)、若いころからのベルトルッチのインタビュー映像を集めた『Bertolucci on Bertolucci』、そしてエットレ・スコラ監督のフェッリーニへのオマージュ、『Che strano chiamarsi Federico 』(ガルシア・ロルカの詩の一節で、「フェデリコなんて変な名前だ」の意)。

写真下:Nフェッリーニへのオマージュ『Che strano chiamarsi Federico』 


スコラも後には参加した伝説的な風刺雑誌Marc’Aurelioでのフェッリーニに始まり(名だたる風刺漫画家たちの編集会議シーンがおもしろい)、監督になってからの交流などを愛情いっぱいに描いている。公式上映に現れたジョルジョ・ナポレターノ大統領もとても感動したと言うこの映画、フェッリーニ・ファンにはぜひ見てほしい。

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』(以上、河出書房新社)、その他。


第70回ヴェネツィア国際映画祭データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:8月28日 - 9月7日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org

受賞:
金獅子賞(作品賞)=ジャンフランコ・ロッシ監督『サクロ・グラ』(イタリア)
銀獅子賞(監督賞)=アレクサンドロス・アブラナス監督『ミス・ヴァイオレンス』(ギリシャ)
審査員特別賞=フィリップ・グローニング監督『警察官の妻』(ドイツ)
ヴォルピ杯 男優賞=テミス・パヌ(『ミス・ヴァイオレンス』、ギリシャ)
ヴォルピ杯 女優賞=エレナ・コッタ(『カステッラーナ・バンディエラ通り』、イタリア)
マルチェッロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=タイ・シェリダン(『ジョー』、アメリカ合衆国)
最優秀脚本賞=スティーヴ・クーガン、ジェフ・ポープ(スティーヴン・フリアーズ監督『あなたを抱きしめる日まで』、イギリス)
栄誉金獅子賞=ウィリアム・フリードキン監督(アメリカ合衆国)

その他のヴェネツィア・ビエンナーレ情報 (www.labiennale.org
-第55回ビエンナーレ国際美術展が開催中(6月1日 - 11月24日) 
-第42回ビエンナーレ国際演劇祭が行われた(8月2日 - 11日)
-第57回ビエンナーレ国際現代音楽祭(テーマ Another Voice, Another Space)が行われた(10月4日-10月13日)

写真クレジット
A 以外はすべて © La Biennale di Venezia
A  © ASAC


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