私たちのトゥルッロは三つに区画されておりそれぞれが同じような構造なのだそうな。暫くは私たちだけなのでのんびりと暮らすことが出来る。ただこの近くには散在するトゥルッロとブドウ畑以外何も無い。文明社会との接点はマリアさんの車だけという心細さである。そのため夕方から見物、買い物それに夕食のため再度ロコロトンドまで案内してくれる約束をして彼女は一旦去っていった。
外に出るとまだ日は高い。私たちの宿舎は小高い丘の上にあり東側の眺望は至極良い。東側には壊れかけのトゥルッロが数軒あり、危ないから近づかないようにと注意されている。向の大きな二階建ての家も鉄筋のような外観ではあるが、良く見ると屋上に円錐を数本そびえさせている。
私達のトゥルッロの外壁には小さな階段が付いており自由に登ることができる。登ってみると上は意外に広い。まず厚い石壁で四角い部屋を作り、その上に部屋の大きさに合わせて大小の円錐形の屋根を積み上げる構造なので、壁の上には自然と平面の通路が出来るらしい。ぐるりと一周して見渡しても8本もの三角屋根を持つトゥルッロは周囲には見当たらない。このようなつまらないことでもなんだか誇らしい気分になるから妙なものである。
●ロコロトンド
夕方マリアさんの車でロコロトンドへ出かける。ロコロトンドという奇妙な街の名前はその形から来ているものらしい。ロコ:古語で<場所>、ロトンド:<円形の>、つまり丸い場所と言うことで地図で見ると旧市街地は本当に丸い町なのだ。マリアさんと帰り時間を打ち合わせた後この丸い街へ迷い込む。ところが近くのオストゥーニとは違い、ここはカスバというにはあまりに綺麗過ぎる。真っ白にペンキで仕上げた2階建ての家が立ち並ぶ間を、清潔に掃除された狭い路地が這い回る。ところが狭いせいもあるが迷うことも無く、30分もあれば隅々まで歩きつくせるほどなのだ。
教会のある小さな広場に出た。地面に花が飾られ様々な楽器を手にしたおじさんたちが、神妙な顔で静かに立っている。教会の中では何か祭事が執り行われているようだ。家内はお葬式じゃないのと言う。確かにその通りで間も無く扉が開かれ哀しそうな人々が吐き出されてきた。私たちはその場を遠慮がちに離れ近くのバールで一休み。重厚な内装でしかも立派な紳士が取り仕切る格式のありそうなお店である。私たちが赤ワインを舐めている前をお葬式の行列が進んでいった。楽隊は奇妙な音を荘重に奏でながらその先頭に立っていた。
写真下C トゥルッロでの朝食
スーパーマーケットがあると聞いていたので買い物に向かう。しかしスーパーと言っても実は小さなグロッサリーでしかない。幸いなことに近所には八百屋も肉屋も有りこれで十分用は果たせた。八百屋ではいつものようにカキと洋ナシ、肉屋ではパルマの生ハムと地場のモツァレッラチーズを手に入れた。中でもモツァレッラが期待以上のもので、親指位の大きさから大人のコブシ大まで絞ってちぎった格好をした真白いチーズだ。なんでも今朝出来立てのものとのことで白い水の中を浮き沈みしている。これで明日の朝の食事はOK。特に初めて味わう本格的生モツァレッラは大いに楽しみだ。
というのも私どもの宿では朝食は机の上にどっさりと置いてあるマンマ手焼きのパンと従妹さんとマリアさん手製の2種類のビスケット、朝取りの卵、お茶のパックそれに台所の冷蔵庫にしまってあるヨーグルト、牛乳、ジュースしかないので買出しが必要になる。もっともこれがこの辺りの通常の朝食なのであろう。
後日談だが帰国のときビスケット類は殆ど手付かずのままだったのでお土産に持ち帰った。誰からも美味しいと喜ばれたのは勿論である。
そしてこの夜も雨になった。傘はあるが夜の雨は冷たい。レストランは7時30分にならねば開かない。ただの生活習慣の違いなのだろうがいつになっても慣れる事が出来ない。
7時30分かっきりにお店は開いた。
食後店のオーナーにマリアさんの紹介だよと言うと、いかつい顔を一瞬にくしゃくしゃにし、片手にレモンチェッロの壜を下げてテーブルに駆けつけて来た。と言うわけで食後酒をおごってもらい私は大満足。開店時間が遅いのも、雨が冷たかったのもこれで許してやろう。
迎えのマリアさんの車で宿に帰ったのはもう10時近く。送り迎えも本当に大変でしょう。
春木秀夫(はるきひでお)さんのプロフィール
愛知県在住。「長年の宮仕えから数年前に開放され、念願の勝手気儘な人生の見習い期間中。趣味:バラと芝生作り、能狂言、イタリア旅行、etc」
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