ブリンディシは長靴型をしたイタリア半島のヒールの真ん中辺りにある古い港町である。特別何があるわけでもない。水際に立っても防波堤で小さく切り取られた水面からは、渺渺と広がるアドリア海を想像することすら出来ない。いわんや2000年もの過去を偲ぶよすがも無い。しいて言えば今でもギリシャ行きのフェリーの発着場であるということが、古代からの名残と言えば名残なのかもしれない。
しかし元来何かを期待して此処まで来たわけでもなかった。逆説的かもしれないが、寧ろ何も残っていないことを確認することがこの旅の目的であったのかもしれない。
時間の重さと人の営みの儚さに今更ながら慄然とするひと時ではあった。
ブリンディシ着が30分も遅れたせいもあり、予定した帰りの電車に乗り遅れこの町でお昼を摂る事にする。うろうろ探すうち駅の近くで、パニーニと大書した小さな箱のようなパン屋を見つけた。イタリア語以外はフランス語しか話さないという女主人にプロシュートとチーズのパニーニを注文して、私は白ワインを啜り家内はビールを飲む。暫くして出て来たサンドイッチは片田舎の港町にしては出色のものであった。ガブリと噛むと小気味良くパリパリッと割れるパンの皮の香ばしさは、今度の旅行中随一のものだった。
●オストゥーニ
食後今朝出発したファザーノの方に数駅引き返し、オストゥーニの駅で電車を降りた。この駅からオストゥーニの町へは30分から1時間ヘッドでシャトルバスが運転されている。待つほども無くバスが到着。お客は私たちを含めてたった3人。此処から町まで僅か数キロのしかないのだが、バスは歯がゆいようなスピードで30分もかけてゆっくり走る。お伽話のお城そのままにポッカリと空中に浮き上がって見える白い街を、まるで私たちに出し惜しむかのように。
写真下左Bオストウーニのレストランはお昼休み 写真下右Bオストウーニの旧市街地
小高い丘を登り古い家並みの間を抜け町の中心の広場についた。此処で下車し周辺を見渡すと案内所の<i>の看板が真っ先に目に入った。ところがもう2時過ぎ。3時30分まで事務所はお休みしますとまるで冷たい扱い。勿論バール以外のお店も全てクローズされている。まあ相変わらずイタリアって国はと大いに腹も立つが、いくら立てても今更なんともならない。この様な不可解な事にいちいち拘泥していてはこの国の旅は不可能である。全て想定済みのことと割り切りその都度ノ−テンキに対応していかねばならない。
写真下左Dオストウーニからアドリア海側を望む 写真下右Eオストウーニのピアッツア
このように石造りのペンキ塗りの家が重なり合い、細い路地が迷路のようにくねくねとつながっている町をカスバと呼ぶそうである。まるで写真で見るアルジェリアやモロッコの町を髣髴させるが、事実プーリャの幾つかの町(昨日歩いたロコロトンドもその一つ)は北アフリカのモスリムが築いたものらしい。
塩野七生氏に依れば、1037年プーリャの人々がノルマン騎士団の力を借りて、北アフリカから渡来したイスラム教徒・・・サラセン勢力をこの地から一掃したと言うことである。とすればモスリムの人々が100年ほどかけて造り上げたこれらの町を、プーリャの人たちは1000年もの間守り抜いたことになるのだが・・・・。
さてオストゥーニはロコロトンドより格段に大きな町である。その上あれほど美しく清潔なわけでもない。したがって生活者の生臭さが漂い、ぶらぶらあてもなく歩いてもケッコウ楽しい。
歩き始めると直ぐに当初お昼を食べる予定だったリストランテに行き着いた。ひょっとしたらと言う期待で覗き込んだが扉は勿論硬く閉じられていた。そこから少し東に歩けばもう町外れ。立て込んだ家の間から遥かアドリア海が青くかすんで見える。海とオストゥーニの丘の間はオリーブと葡萄の畑が広がる広大な緑の平野。
街角に大きな地図の看板が立っていた。ところがイタリアの他の町と同じでこれにも現在位置が書き込まれてない。その上今立っている通り名の標識がどう探しても見当たらない。と言うわけでその前で何分間も頭をひねった挙句分かった事は、ロコロトンド同様この町も大きな新市街地に小さな旧市街地すなわちカスバがくっ付いていると言うことだけだった。
今日の出発点だった市役所広場に帰ってくると、憎いことに案内所が開いている。もう用がないが地図だけ頂戴して車上の人となる。私たちだけ乗せた帰りのバスの早いこと、僅か10分程で駅に着いてしまった。
春木秀夫(はるきひでお)さんのプロフィール
愛知県在住。「長年の宮仕えから数年前に開放され、念願の勝手気儘な人生の見習い期間中。趣味:バラと芝生作り、能狂言、イタリア旅行、etc」
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