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特集・私の自由旅行  〜個人旅行のノウハウ教えます〜
15 Settembre 2011



マンマの手料理とバッボのヴィーノ
第7回 マリアさん宅のチェーナ


         

春木秀夫


●ロコロトンドのマリアさん宅のチェーナ
今日の夕食は旅行前から宿のHPの仕様に従って、あらかじめお願いしておいたものだった。勿論しかるべき料金はお支払いするわけだが、私たちのトゥルッロでの近所のおばさんの出張手料理(実に日本の民宿的な発想だが)だと勝手に思い込んでいた。それでも初めて経験する本格郷土料理なので大いに期待もしていた。ところがマリアさんは母屋に招待するから7時半にお迎えに来ると言うではないか。これには少し慌ててしまった。とても素晴らしい計画で大いに嬉しいことではあるが、当方にはご招待をお受けする準備が全く無い。よそ様のお宅へお邪魔するときはこの国ではお酒、お花あるいはチョコレートなどの手土産持参が常識と聞いているし、この年で手ぶらと言うわけにもと誰しもが思うに違いない。

ヴィーノがあるでしょうと家内は言う。マアそういえばお土産にするようなものではないが夜食用にソレントのスーパーで買った赤を一本持ち歩いていた。良い物じゃないかもしれないが一応DOCって書いてあるし。旅先だからこれで勘弁してもらいましょうと私。何とか綺麗に飾りつけるわとこんなことが得意な家内はみやげ物のリボンを拝借したりで、それなりの手土産をでっち上げてしまった。マンマへは任しといてと、予め用意してあったらしい日本趣味の小さなポシェットを何処からか引っ張り出してきて、これも尤もらしく包装してしまった。

写真トップ @マリアさんの家族
              写真下左Aオレッキエッテ(小さな耳たぶ形のパスタ)を作るマンマ  写真下右B食卓を囲んで

と大騒ぎをしているうちに時間通りマリアさんが現れ1kmほど離れた母屋へと案内してくれた。食堂には赤々と暖炉が燃えこの家のご主人マリノッティさんがお待ちかねだった。間も無くマンマのコンヴェルティーニさんも現れ簡単な挨拶の後、チェーナ(ディナー)が始まった。
マリノッティーさんは37年生れ。落ち着いた柔らかな感じのおじいさんであるがこの国には珍しく大変寡黙な方である。マンマは大きなオレッキエッテの延ばし板を抱え、空色の割烹着にフェルメールの絵にあるようなひらひらの頭巾を被ったまま再登場。あの頭巾が現実にあるものとは思っても見なかったので、妙な懐かしさがこみ上げてきた。とにかくお元気な方で表情も豊か、まるでイタリア映画そのものと言う雰囲気をお持ちであった。

●特製白ワインで乾杯
チェーナはバッボ(お父さんの愛称)の特製白ワインの乾杯で始まった。すっぱみが少なく僅かに甘みを感ずるすっきりした白ワインであるが、5人がかりではあっという間になくなってしまった。続いて前菜にプロシュートと特産のモツァレッラチーズが登場する。いずれもマリアさんがファザーノの従兄弟の店から仕入れてきたもの。大変薄くスライスしたプロシュートは塩気が適当で肉臭も無く少し柔らか過ぎるが大変美味しい。この際特筆すべきは矢張り生モツァレッラチーズでしょう。私たちが昨日買って来たのと同様、ポリ袋の中に様々な大きさの真っ白い塊がういている。それをスプーンでそれぞれのお皿に取り分けるのだが、魚の浮き袋のような形になんともいえない愛嬌がある。小さなオレンジほどもある比較的大物にナイフを入れると、中からドロリと白いヨーグルト状のものがあふれ出てきてこれがほんのりと甘い。白い塊の部分にもかすかな甘さがあり、独特の弾力を歯茎に感じながら賞味する。今朝作ったばかりとのことで、日本で生モツァレッラと称しているものとは全く別の食べ物である。

プリーモはオレッキエッテである。アサリほどの大きさの耳(オレッキオ)たぶの形をしたパスタでプーリャの名物料理である。マンマが半日かけて捏ね上げたものでトマトのソースで食べる。夕食に出るから他所では食べてこないでとマリアさんに堅く言われていた。独特の粉で作られているのでもっちりした感触が口に広がる。

写真下左Cマリアさんのご両親   写真下右D名物料理(手製の肉団子)

●すべて自家製か地元の特産品
オレッキエッテに限らず今日の食卓のものは、殆ど自家製かあるいは地元の特産品である。これは都市のスーパーストアーの食品売り場で見ても同じことで、あくまでも地元産品らしきもので満たされている。画一化された国際商品で埋め尽くされたわが国のスーパーとはだいぶ様相が違う。イタリアでは(少なくとも南イタリアでは)それぞれの地域あるいは基本的にはファミリーがそれなりの独自性を保ったまま、いわゆる国際規格に媚びるわけでもなく泰然と存在している。
ここで思い出すのが既に触れたシラクーザのバス停で見た家族の別れの風景。あの様な強い愛情で結びついた家族がこの国の最小構成単位となり、確固として変わらぬ独特の生活スタイルを作り上げて来た。それが更に国際化の波にもびくともしない特異な社会機構を構成するようになったのではなかろうか。旅行者にとってこれほど楽しい国も無ければ、これほど不便な国も無いのもファミリー優先のこの国の宿命に由来しているのではないか。

一方わが国は戦後の家族制度の崩壊と歩調を合わせる様に画一化が急速に進んでしまった。いま多少の反省があり小さなローカル化の波が起こってきてはいるが、大勢に変わりはないだろう。しかしイタリアにも都市を中心に家族の崩壊が始まっており、均質化が今後進んで行くことは想像に難くない。私たちとしてはこの国がわが国と同じ轍を踏ま無いことを祈るだけである。
オレッキエッテと共にバッボ特製のヴィーノ・ロッソも食卓に現れた。赤と言っても濃いロゼ程度の色合いで、さらりとしてまだ新しい感じだがこれも酸味が少なく極めてのみ易い。聞けば自家農園で取れた葡萄で毎年その年に消費する分だけ作るそうである。二本目の赤はマンマが顔をしかめバッボもノンと言ったので没になり3本目をマリアさんが取りに出て行った。お願いして没の分を舐めてみる。確かに妙なアジがする。ビールのような簡単な栓で保存してあるのだから失敗作も多いのだろう。三本目には無事合格点が出た。

●ポルペッティのセコンドにティラミス
その間にマンマが台所からインサラータ(サラダ)を持って現れた。プラスティック・ケースに入ったままの自家農園製生野菜である。丸々太ったフェンネルの茎をばっさり四つ割にしたものと葉っぱのついたままのセロリが無造作に盛り上げてある。見ればそれをむんずと掴んで豪快にバリバリかじっている。なるほどこれが一番美味しい野菜の食べ方なのであろう。
イタリアのスーパーでは大きな蕪のようなフェンネルを良く見かけるが、煮物以外にこんな食べ方が有ったのかと大いに感心してしまった。香りの強い野菜でガブリと食いつくと口中に漢方薬のような臭いが広がり小気味が良い。

 写真下左E手製のティラミス   写真下右Fクルミを詰めた干しイチジク 

セコンドピアット(メインディッシュ)はポルペッテというパン粉を混ぜた肉団子と、インボルティニという肉で巻き込んだ野菜の煮物。いずれも自家農園で取れたトマトで味付けしてある。しかしこの頃になるとお腹は一杯で失礼ながら食はあんまり進まなくなってしまう。あの人たちは本当に良く食べるのだから。仕上げはマリアさんが作った大きなテラミス。15×30cmくらいもあるプラスティックのケースにこってりと詰められている。むりやり口に押し込んだがねっとりしたクリームがともかく美味しい。これはお土産にトゥルッロに持ち帰りこの後2日に亘って食べ続けることになる。家内はなんとか日本へのお土産にして、子供たちと一緒に食べたかったと今でも残念がっている。

でもこれだけでは終わらない。褒めれば褒めるだけどんどん出てくるは出てくるは。まず100%自家製の干した木の実が2種類。アーモンドを挟み込んだイチジク一瓶とバッボが裏山で採集した殻のままの胡桃。ともかく美味しいが食べ切れないのでこれもお土産。日本に持ち帰ってみんなに喜んでもらった。それに食後酒2種類。畑のレモンで作ったレモンチェッロ。大きなレモンの皮をマンマが剥いてなんと95%のアルコールで漬け込んだもの。レモンに少し甘みがあるらしく市販品より断然味に深みがある。それにもう一種類日本製の焼酎のビンに詰められた黒っぽいリキュールがあったが名前を忘れてしまった。

と言うわけでキリが無い事になってしまったが、ここで玄関のブザーが鳴り親戚の小母さんが登場した。結婚式の流れとのことで数人の親戚と共に現れたので私たちは無事解放されたのである。ともかくイタリアのファミッリャとの付き合いには中途半端は許されないらしい。私たちから見れば大変な体力が必要なことのようです。


春木秀夫(はるきひでお)さんのプロフィール
愛知県在住。「長年の宮仕えから数年前に開放され、念願の勝手気儘な人生の見習い期間中。趣味:バラと芝生作り、能狂言、イタリア旅行、etc」



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