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イタリアワインVino探検記
22 Maggio 2002

第2回 Marsala 〜涙のシチリア〜


 



中川原 まゆみ



初めて訪れたイタリアはいつだったろう?随分前で忘れてしまったが、この事件だけは今でも鮮明に覚えている。ミラノからシチリアまで周り、観るものすべて新鮮で興奮して夜も眠れないほどだった。そして、最後の訪問地パレルモ。イタリア本土とは違い、異国の香りが街中にあった。メルカート(市場)は臓物を焼いた屋台、南から来た香辛料、色鮮やかで素朴で歯が痛くなるほど甘いドルチェ、数十種類はある塩漬けオリーブでいっぱい。街行く人は目鼻立ちがはっきりとしていて浅黒く、アラブ系と思わせるような顔立ち。シチリアは幾度となく外国に侵略されているので、いろいろな国の文化が歴史と共に残っているようだ。

この日もいつものように、早起きしてメルカートに腹ごなしのための散歩にでかけ、昼食を待つ。オリーブが美味しそうだったのでつまみ食いしてしまったら、すっきりとした白ワインが飲みたくなった。アぺリティフでもしようとエノテカ探し。エノテカはなぜかメルカートの入り口近くにある場合が多い。ここもやっぱりあった!すぐに見つけて、さっそくマルサーラ ヴェルジネ Marsala Vergine を注文した。マルサーラとは、シチリアの酒精強化ワインでシチリア西部地区で造られている。1773年にイギリスの実業家ジョン・ウッドハウスが航海途中に強風にあおられマルサーラに辿り着き、ワインを長い航海にも耐えられるようにするため、アルコールを足した。これが始まりで、イギリス人は本格的にマルサーラに工場を建て、製造を始める。酒精強化とは、発酵の途中でアルコールを追加し、醗酵を止め、アルコール度数を上げる。主に"ソレラシステム"と呼ばれる方法で造られ、アルコール度数も高いものだと18度ぐらいあり、味わいも辛口、薄甘口、甘口の3タイプ、色合いも琥珀色、ルビー色、濃い麦わら色と3タイプあり、ランクも5つに別れていて、ブレンドのタイプや熟成期間で全29種類にも及ぶ。それぞれ個性に富んでおり、食前酒から食後酒、アンティパストからドルチェまで、と料理にも幅広く使われている。数十年、いや、私達のリストランテに1840年物があるくらい熟成に耐えらるのだ。

あ〜美味しいと飲み干し、周りを見渡すと、野菜や魚を市場に卸している人達も仕事を終え1杯やってるところだ。Tシャツから筋肉がはみだしそうなたくましい白髪混じりのおじさんが、もう1杯私におごってくれた。ダークチェリーやカシスの香りのするやさしい口あたりだ。すっかりイイ気分になり、今日は最終日なのでいろいろ買い物しなければ・・・と、ペコリーノチーズ(エンナ Enna の黒胡椒入り熟成タイプ)、塩(トラパーニ Trapani 塩田で伝統的に造られているミネラルたっぷりの塩)、塩漬けケッパー(リパリ Lipari 島が有名)、からすみ(マグロの卵巣を自然乾燥させたもの)、エキストラバージンオリーブオイル(濃い緑色で濁りがあり、野性的で苦味があるもの)、もちろんワインも買い込んだ。シチリアのワインは重厚なワインから軽やかワイン、甘口ワインと富んでいる。土着品種も数多くあり、特にネーロダーボラ種は有名で、力強いワインを生み出す。甘口ワインも、南西のパンテレリア島は"パッシート・ディ・パンテレリア(Passito di Pantelleria)"、北東のエオリエ諸島では"マルバジーア・デッレ・リパリ(Malvasia delle Lipari)"など、アーモンドやオレンジのタルトと合わせて飲むとおいしい。こうして、買い物が重くなるとホテルに荷物を置きに帰り、また出直す。ご存知のようにイタリアの午後は3時過ぎでなければ店は開かないため、日が暮れるまで買い物に走り回るハメになった。気がつくと7時。辺りは真っ暗。肉屋に大きな牛の半身の塊が薄明かりの中で無気味にぶら下がっている。・・・と、急に恐くなった。しかも道に迷ったらしい!中心街なのに店が終わると辺りは一変してしまった。その時!後方からライトを消してゆっくりと近づいてくる車が!そして中から4人の男が出てきて、私の方に向かって歩いてくる!! とっさに危険を感じ、走り出した私は、どこに向かって走ればよいかも分からないまま、買った荷物を放り投げ、とにかく走り出した。男達は奇声をあげながら追いかけて来る!走っても走っても追いかけてくるのだ!!無我夢中で走るうちに、正面に海が見え、ホテルはすぐそこだ。あっ、ホテルが見えた!!・・・そこでようやく彼等の姿は見えなくなった。

ホテルに飛び込んだとたん、涙があふれてきた。フロントの親切なアントーニオはその私の姿を見て驚き、何があったか尋ねるが、私はただ泣くだけ・・・。アントーニオは奥からラベルの貼られていない黒く重そうな瓶を持ってきて、私に注いでくれた。色は濃いローストしたアーモンドで透明度はなく、味わいは甘みは残るが後味に心地よい苦味が追いかけてくる。美味しい!私は心を落ち着け、ゆっくりと状況を説明した。アントーニオは、『ここはパレルモ。大人の男でも夜は1人で歩かない。何を考えているんだ!』と私に説教。注意しなければならないとは思っていたが、まさかこんなにとは・・・。 安心したら、お腹が空いている事を思いだし、おそるおそるそれを告げる。するとアントーニオは笑いながら、真向のトラットリーアにわざわざ車を出して連れて行ってくれた。私は真向で道を渡るだけなのに、と思ったが、あんな事件の後、現実を学んだ気がした。

その晩は、シチリア定番メニュ−"カポナータ(夏野菜のトマト煮込み)Caponata"、"パスタコンサルデ(いわしソースのブッカテーニ)Pasta con Sarde"、"ペッシェスパーダインインボルティーノ(かじきまぐろの巻きもの)Pesce Spada In Involtino"。かじきまぐろは主にメッシーナ海峡付近、キハダマグロ、ソウダカツオも近海で捕れるので、まぐろは冷凍せずイタリア各地に運ばれ生で食べる事ができ、しかも安い!特に魚屋では"とろ"の部分が高い訳でもなく、同じ値段なので、私は和食が恋しくなると"大とろ"の部位を指定して買い、寿司を作り、ネレッロ マスカレーゼ種のスプマンテと共に楽しんでいる。スモークしたカジキマグロをオイル漬けしたものは、マルサーラ スペリオーレ オーロ Marsala Superiore Oro とよく合う。ワインはシチリア産の"コルボ ビアンコ Corvo Bianco"、シンプルでトロピカルフルーツ香のするすっきりとした酸味のある辛口。温度をかなり低くして飲みたかったが、店に氷もなく、冷やせなかったのがちょっと残念。ドルチェはマルサーラを入れて作る"ザバイオーネ Zabaione"を注文したが、やっぱり甘すぎて食べられなかった。それならラグサーノのチーズとマルサーラ スペリオーレ セミセッコ Marsala Superiore Semisecco にした方がよかったな〜!とちょっと後悔した。

帰りはお店の人が同じように車で向いのホテルまで送ってくれた。その後、パレルモには数回行っているが、恥ずかしくてアントーニオのところには行っていない。元気なのだろうか?今でもマルサーラを飲む時には、アントーニオと美味しかったマルサーラを思い出す。アントーニオが注いでくれたマルサーラが何だったのか?今でもわからない。ただ、どんな色、香り、味わいだったかははっきり覚えている。今、あの時と同じものを飲んでも、同じようには感じないかも知れない。ワインには1本ずつ、流れて来た時間とそれぞれの出会いの場面があるのだから。

  photo1
オリーヴの実

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マルサーラ ヴェルジネ

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ソレラシステム

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トラーパニの塩田
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マルサーラ スペリオーレ

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魚屋のマグロ

  photo7
産地 シチリア島マルサーラ

 

著者プロフィール

中川原 まゆみ(なかがわら まゆみ)
 蠍座 O型  7才の時に父が母の目を盗みビールを飲ませてくれた。甘い物があまり好きではなかったので、甘くない飲み物に出会って感激。それ以来いろいろ試す。コックだった叔父から1冊のイタリア料理の本をもらったのがきっかけで料理を作り始め、同時にイタリアワインも飲むようになる。1度イタリアを訪れてからは年に2、3回は来るようになり、レストランで食事をして作り方がわからないと「皿洗いをするから」といって厨房に入れさせてもらい、レシピを教わった。1995年9月、東京の中目黒にオステリア「フェルマータ」をオープン。納得したイタリアワインと集めたレシピを中心とした家庭的な店だったが、2001年3月に閉店し、渡伊。2001年9月、日本人女性初のイタリアソムリエ協会公認のプロフェッショナルソムリエになる。現在、エミリアロマーニャ州の「リストランテ・パオロ・テベリーニ」にソムリエとして在籍。時間ができると愛車の日産マーチに乗ってワイナリー巡りをしてる日々。



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