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イタリアワインVino探検記
5 Settembre 2002

第5回 Frascati 〜新たなる試み〜


 



中川原 まゆみ



ロマーノ(ローマに住む人)はフラスカーティ Frascati のことを『Frascati?Buona acqua?(フラスカーティか水か?)』とか『Ao! Che fa doccia fresca!(おぅ、冷たいシャワーでも浴びるか)』などと言ってちょっとバカにしている。私が初めて飲んだフラスカーティは、小さなビン入りでローマの駅弁の中に鶏の半身のローストとロゼッタ(ローマのパン)と一緒に入っていた。フレッシュな酸味と後味に少し苦味があって、『冷やして飲みたいな〜』と思って飲んだのを覚えている。フラスカーティは通常、ブドウのセパージュ(配合)はマルヴァジア・ラツィオ種を主体として、他にトレッビアーノ・トスカーノ、グレコ・ボンビーノ、ベローネなどを2、3種類合わせる。複雑性を語るワインではないが、庶民の日常ワインとして親しまれている。

とはいえ、本当に美味しいフラスカーティはないのか?さっそく調べに出かけることにした。ペルージャを抜け、高速道路に乗った時にはすでに汗だくに。今年のイタリアの気候はおかしく、6月半ばにもかかわらずかなりの暑さ。さらに、フラスカーティの栽培地区、フラスカーティ Frascatiの町はローマより南でもっと暑く、おまけに私の車はエアコンが無い!!さらに運転下手な私としては、あの"無秩序な運転と、がたがた道(strada romanaと呼ばれる石畳)のローマ"を通過するのは気が重かった。なにせ、ロマーノは信号無視は当たり前、曲がる時にウインカーも出さず、友達をみつけると場所も考えず急ブレーキをかけ、クラクションを鳴らし話し出す・・・。私にはついていけない!でもそんな陽気なロマーノを思い出しているうちに、久しぶりのローマを懐かしく感じ、トラステヴェレのじいちゃんが一人でやっている食堂の、ラルド(Lardo 豚の脂身)を使ったアルデンテ(半分芯の残っている)のカルボナーラが食べたくなった。"Spaghetti alla carbonara" はあまりにも有名なローマ料理。昔、Carbonaio(炭職人)が3月から10月の間は家に帰らず山にこもり、穴を掘り、小さな煙り用の穴を残して土をかけ、ゆっくりの火加減で炭を造った。町からは細くゆっくりと立ちのぼる煙がいたる所に見えたそうだ。そのCarbonaio が、豚や牛のほほ肉の塩漬、ペコリーノチーズ、卵、黒胡椒、パスタ、塩を持って山で作って食べていたところからこの名前が付いたという。Carbonaio は40年前までいたが、今は見る事は出来ない。最後の Carbonaio は10年前にマルケで亡くなったらしい。

フラスカーティに着いたのはかなり日も落ちていて7時を過ぎていた。イタリアの夏は日が長いので時間感覚がわからなくなる。のどが渇きバールを探して、冷たいフラスカーティを一気に飲み干し、2杯目でゆっくりと確かめた。香りは熟していないパパイア、レモンドロップ。シンプルでさわやかな印象。今日は久しぶりのローマ料理を楽しもうと、1922年から続く老舗のリストランテのテラス席を予約。食べたい皿はメニューを観る前から決まっていたが、アンティパスト(前菜)からセコンドまで別々のワインで合わせたい。さらに私の知らないフラスカーティも試したい!そこでワインの特徴を伝えて探してもらいたいのだが、店内は相変わらず混み合っており、複雑なオーダーを聞いてくれるか心配・・・。話し合いの結果2本に絞ったが、グラス売りは出来ないと言われ、しぶしぶ1本を選んだ。輝きのある湿った麦わら色で洋梨のシロップ煮、バナナ、白桃、パンの白い部分の香りがあり、しっかりとした酸味、ボリュームもほどよくあり、余韻も中程度で骨格も感じられる。こんなフラスカーティがあるんだ〜!考えを改めなければ!明日はさっそくカンティーナを訪ねよう!!

アンティパストはカルチョフィ(アーティーチョーク)にしたかったが、季節が終わっているので、"Crostino alla provatura di pane fatto in casa al nero di seppia (自家製イカ墨パン水牛チーズがけ)"にした。プリモは若いペコリーノロマーノチーズが食欲をそそる"Spaghetti cacio e pepe (ペコリーノチーズと黒胡椒のスパゲティ)"。ワインはもう少し粘度の高いものにしたかったが、しかたがなく同じものを続けて飲んでいたら、私とソムリエのやり取りを一部始終聞いていた隣のテーブルの老夫婦が、違うフラスカーティをくれたのだ!そのフラスカーティは、色はゴールドに近く、香りはアカシヤの蜂蜜、熟れたマンゴ、ヘーゼルナッツなどがあるが、味わいは香りから想像するものとは違い、しまった酸がある辛口。う〜ん、これもなかなかいいな〜!セコンドは注文したものと違う"Pollo con peperoni(鶏とパプリカのトマトソース煮)"が来たので、カメリエーレに伝えると『作り直すのでそれまで食べてて下さい』と言われ少し味見をした・・・いや、"たくさん"味見した。パプリカもトマトも今が旬。パプリカは昔は緑色の小さいサイズしかなく、赤や黄色は最近のものでミネラル分が多い土壌で緑から赤や黄色に変化する。待つこと20分、やっと来た注文のセコンドはローマに来ると必ず食べる"Abbacchio a scottadito(小羊の鉄鍋焼き)"。Abbacchio と言う呼び方はローマ地方だけの名で、乳だけを飲んで育った生後1.5ヶ月〜2ヶ月の小羊のことで、乳だけしか飲んでいないので内臓もチーズのように美味しい!内臓は通常スライスして焼くかソ−スにしてリガトーニに和えて食べる。コントルノ(つけあわせ)は"Patate al forno(ポテトのオーブン焼き)"が定石なのだが、私は色が濃く、苦味のあるローマチコリが大好物で、ニンニクと唐辛子で炒めてもらった。どう考えてもフラスカーティは無理なので、スパイシーなシラーと合わせた。

フラスカーティとは食堂などの日よけのすだれ(Frasche)の名からきており、仕立て方法も伝統的な棚つくりで似ている。リストランテで飲んだワインのカンティーナを含め、他数件訪ねてみると、これまでの大量生産を改め、量を抑え質を上げる努力をしているところが多い。フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の白ワインの名産地からエノロゴ(ワイン研究者)を呼び寄せ、技術を導入したり、新しいセパージュ(配合)の研究などをしている。その結果、新しいフラスカーティが生まれているのだ。戦後、イタリアワインは"質より量"を求められていた時代があり、仕立ても生産量の上がる方法をとり、病気に強い品種を選んだりしていた。フラスカーティも生産量のみを重要視していたと言える。今では世界中で評価を受けている質の高いワインがイタリア中・北部にはたくさんあるが、フラスカーティは遅ればせながら、その準備段階に入ったのかも知れない。近い将来、ロマーノが『白ワインはフラスカーティが1番!』と言う日がやってくるかもしれない。

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フラスカーティ

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フラスカーティ遠景

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賑わうリストランテ

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ペコリーノと黒胡椒のスパゲッティ
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小羊の鉄鍋焼き

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研究室

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産地 ラツィオ州

 

著者プロフィール

中川原 まゆみ(なかがわら まゆみ)
 蠍座 O型  7才の時に父が母の目を盗みビールを飲ませてくれた。甘い物があまり好きではなかったので、甘くない飲み物に出会って感激。それ以来いろいろ試す。コックだった叔父から1冊のイタリア料理の本をもらったのがきっかけで料理を作り始め、同時にイタリアワインも飲むようになる。1度イタリアを訪れてからは年に2、3回は来るようになり、レストランで食事をして作り方がわからないと「皿洗いをするから」といって厨房に入れさせてもらい、レシピを教わった。1995年9月、東京の中目黒にオステリア「フェルマータ」をオープン。納得したイタリアワインと集めたレシピを中心とした家庭的な店だったが、2001年3月に閉店し、渡伊。ICT(イーチーティー日本―イタリア)企画のAISイタリアソムリエ協会公認資格取得のための"ソムリエ長期研修”に参加。2001年9月日本人女性初のAISイタリアソムリエ協会公認プロフェッショナルソムリエになる。現在、エミリアロマーニャ州の「リストランテ・パオロ・テベリーニ」にソムリエとして在籍。時間ができると愛車の日産マーチに乗ってワイナリー巡りをしてる日々。

*ICT(イーチーティー)の研修については、トップページの右バナー CLUB APICOをご覧下さい。



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