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イタリアワインVino探検記
20 Novembre 2002

第8回 Traminer Aromatico 〜無国籍な悦楽〜


 



中川原 まゆみ



ワイン名と品種名が同じ Traminer Aromatico (トラミネール・アロマティコ )とはイタリアでの呼び方で、通常は Gewurztraminer (ゲヴェルツトラミーナー)と言った方がわかるはず。そして『フランスのアルザス地方の白ワイン!ドイツにもあるよね〜!』といった答えが返ってくるのが日常。しかし、この品種のオリジンは、トレンティーノ・アルトアディジェ州、ボルツァーノ県の テルメーノ Termeno という小さな村なのだ。

エミリア・ロマーニャ州モデナ Modena から高速22号線を北上し、トレント Trento を越え、ボルツァーノ Bolzano に近づいていくと案内版もドイツ語とイタリア語の2ヶ国表記になってくる。この地は80年前まではオーストリア領土だったため、現在でも第一言語はドイツ語で、年輩者の中にはイタリア語を話せない人もいる。さらにアディジェ川に沿って北上すると、西側に“Strada del vino”(ワイン街道)が始まる緩やかな丘が続き、名の知れたワイナリーが両脇に次々と現れる。そのちょうどワイン街道の中間地点に夕日が美しいテルメーノ村(ドイツ語でトラミン Tramin 村)がある。

村のシンボルでもある塔は白い石畳が広がる中心部にあり、戦争中は造ったワインを敵国に捕られないように、この塔に隠していたという逸話がある。村の名からGewurz(スパイスの意)- tramin -er という事だ。もちろん、この村で栽培しているのはこの品種。ボルツァーノ県以外でもトレント、ヴェネト、フリウリなどで広く造られていて、"Traminer Aromatico" とラベルに表記しているが、この地区のものはドイツ語で "Gewurztraminer"と書いてある。バールやリストランテのメニューもドイツ語で次にイタリア語、もしくはドイツ語のみ。テルメーノ村には何度か泊まっているが、朝食の時『Buongiorno! ボンジョルノ!』と入って行くと、ぎこちないイタリア語で返事が返ってきて、イタリアの朝食の定番“カプチーノとブリオッシュ(甘いクロワッサン)”を注文すると、『カプチーノの作り方教えて下さい』と言われ、彼らの朝食を見るとサラミ、チーズ、トーストにコーヒー、叉は紅茶と言った具合。本当にここはイタリア!?と目を疑いたくなる。食生活の一面を垣間見て、彼等はこのワインとどんな食事を合わせているんだろう?ますます興味がわく。

品種には4つの代表的なクローン(Rauscendo1、LB14、LB20、VCR6)があり、各々少しずつ違うのだが、一般的に房は小さくずんぐりとした形で粒は中程度の大きさで少し細長く、詰まっていて皮は厚くて強い。表皮はロウ粉で覆われていて、色はグレーがかった濃紅色、色調は薄緑にがっかた乾いた麦わら色、そして何よりも特徴なのは香り、品種名の通り“アロマ(ぶどうが本来持っているダイレクトな香り)”がはっきりと感じられることだ。ライチ、粉おしろい、グレープフルーツの内側の白い部分、味わいはスッキリとした酸味で、ゆっくりと苦味が追いかけて香りが戻ってくる。とても独創的で脳裏に焼きつけられるほど強烈だ!特にイタリア産は余韻の苦味に特徴がある。毎年7月にこの村でワイン祭りがあり、世界中のゲヴェルツトラミーナーを飲みくらべる事ができ、私も気合いを入れ参加し4時間あまりで110種のゲヴェルツトラミーナーのテイスティングをした。しかし香りが強いため、めまいがするほど疲れ、体の中まで浸透したような錯角をおぼえるほど感覚に残った。

テルメーノ村に1件しかないピッツェリアにでかけてみると、通常イタリアのメニューならばアンティパスト、プリモ(ピッツァも含む)、セコンド、ドルチェと順に並んでいるのだが、ここではピッツァ、サラダ、カルネ(肉類)など順不同に載っており、さらに、"Pizza Margherita(最も一般的なトマトとモッツァレッラチーズのピッツァ)"、"Scaroppa di Fegato(レバーの薄切りソテー)"などのイタリア料理と、"Schweinehaxe シュヴァイネハクセ(豚のスネ肉のロースト)"などのドイツ料理も一緒に書かれている。そして、地元の人達は順番など考えずに注文し、どんな皿でも関係なくゲヴェルツトラミーナーを飲んでいた。私はオーリオピッカンテ(唐辛子入りオリーヴオリル)を使った"Insalata di polpo(たこのカルパッチョ風サラダ)"、生のグリーンペッパーの入った"Tagliatelle al Salmone (タリアテッレのサーモンクリームソース)"を注文し、ワインは皆に習い、深く考えずに地元のゲヴェルツトラミーナーを注文した。ワインは輝きのある萌黄色で木蓮の花の香りがする。しばらくすると、ほぼ同時に2皿が運ばれてきた。ペペロンチーノやペッパーのスパイスがワインのアロマと、そしてオイリーブオイルやクリームはワインの余韻の長さとボディにマッチして、『なかなか楽しめて、いいかも!』。

日本のワイン市場では『ゲヴェルツトラミーナーはなかなか売れない!』と輸入業者が口を揃えて言っている。確かにこれだけ強い個性のものをどこに向けて勧めるか?は難しい課題だと思うが、不思議とイタリアではよく飲まれている。イタリア人の友人と食事に行くと白ワインの1本目は注文した皿に関係なく『ゲヴェルツトラミーナーにしよう!』と言われた事が幾度かあった。なぜイタリア人は好きなんだろう?クセのあるものほど後を引き、また飲みたくなるのだろうか?確かにアペリティーヴォ(食前酒)を兼ねて飲むにはイイと思うが、食時中はかなり食べるものが限定されると思っていた。たとえば"Stoccafisso Accomodata(干しダラの煮込みリグーア風)"、"Frittata alle patate(ポテトオムレツ)"、"Caponata(夏野菜のトマト煮込み)" など・・・。しかし、イタリア料理に限定し、個性を穏やかにして均等をとる必要はなく、この個性的な香りをマイナスと考えずにプラス思考で強いものとぶつけると、よいバランスになるものがある。たとえば、"チリコンカン"、"ガンボスープ"、"海老のタンド−ル"、"ずんだ餅"、四川料理全般など、ワインには合わせにくいと言われた料理も、100m先からも存在を認知でき、最後の粘リ腰で押しきれるこのワインなら恐いものなし!新しいアビナメント(Abbinamento=料理とワインの相性)の分野を切り開いてくれるかも知れないのだから、自由で柔軟な発想で探し、果敢に挑戦してみよう!時には金髪の8頭身や熟年の青い瞳とつき合ってみるのも悪くはないのと同じこと!意外な発見や悦びがそこにアルかもしれない。このワインは品種と同じようにインターナショナルに向かい、料理も国境や環境を考えずに、自分だけのアビナメントを探し、笑みを浮かべ、楽しもう!!きっと、あなたも最高の一皿に出会えるに違いない。

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ぶどう畑

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2ヶ国語で書かれた村の標識

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テルメーノ村遠景

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シュヴァイネハクセ
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たこのカルパッチョ

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トラミネール・アロマティコ

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産地 トレンティーノ・アルトアディジェ州

 

著者プロフィール

中川原 まゆみ(なかがわら まゆみ)
 蠍座 O型  7才の時に父が母の目を盗みビールを飲ませてくれた。甘い物があまり好きではなかったので、甘くない飲み物に出会って感激。それ以来いろいろ試す。コックだった叔父から1冊のイタリア料理の本をもらったのがきっかけで料理を作り始め、同時にイタリアワインも飲むようになる。1度イタリアを訪れてからは年に2、3回は来るようになり、レストランで食事をして作り方がわからないと「皿洗いをするから」といって厨房に入れさせてもらい、レシピを教わった。1995年9月、東京の中目黒にオステリア「フェルマータ」をオープン。納得したイタリアワインと集めたレシピを中心とした家庭的な店だったが、2001年3月に閉店し、渡伊。ICT(イーチーティー日本―イタリア)企画のAISイタリアソムリエ協会公認資格取得のための"ソムリエ長期研修”に参加。2001年9月日本人女性初のAISイタリアソムリエ協会公認プロフェッショナルソムリエになる。現在、エミリアロマーニャ州の「リストランテ・パオロ・テベリーニ」にソムリエとして在籍。時間ができると愛車の日産マーチに乗ってワイナリー巡りをしてる日々。

*ICT(イーチーティー)の研修については、トップページの右バナー CLUB APICOをご覧下さい。



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