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イタリアワインVino探検記
15 Gennaio 2003

第9回 Valtellina Sforzato 〜閉ざされた銘品〜


 



中川原 まゆみ



Nebbiolo(ネッビオーロ種)好きの私としては毎日でもバローロ Barolo を飲みたいのだが、それではいくらお金があっても続かないので、いつもネッビオーロで造っているワインがあると聞くと飛んで行く。しかし、ネッビオーロは特に環境の影響が顕著に現われるため、なかなか気に入ったワインがみつからない。ネッビオーロは栽培が難しく、成長も遅く、収穫は10月中旬になってしまう地区が多い。つまり、Nebbia(=霧) の時期に収穫するのでこの名前が付いている。

ミラノからコモ湖に沿って北上し、アッダ川 Adda の上流、つまり東に向かってヴァルテッリーナ渓谷 Valtellina が続いている。ロンバルディア州の北の外れでスイス国境にも近く、両脇に山が迫る渓谷はアッダ川を境に北斜面と南斜面に別れ、斜面の奥には初夏まで雪が残っており、この雪どけ水が渓谷に“Incanalare(インカナラーレ)”と呼ばれている滝となってアッダ川へ流れ込む。この滝はあちらこちらでみられる。このきつい傾斜面のほとんどの畑にネッビオーロが植えられているのだ。しかし、この地方ではネッビオーロとは呼ばず、“Chiavennasca(キアヴェンナスカ)”と呼んでいる。赤だけではなく、白ワインもネッビオーロで造っている。なんて素晴らしいんだろう!バローロの造られているランゲ地区のネッビオーロより粒は少し大きめで、収穫はほぼ同時期。この地は急斜面のため収穫が難しく、機械どころか人でさえ運搬が困難な場所があり、ヘリコプターを使って収穫する造り手もある。赤ワインでD.O.C.G(検定付品質保証の原産地呼称)に認可されている“Valtellina Speriore”は、日当たりの良い南斜面で“sottozone”と呼ばれる指定単一畑の、西からエレガントな“sassella サッセッラ”、長期熟成に耐えられる“grumello グルメッロ”、力強い“inferno インフェルノ”、丸みのある“valgella ヴァルジェラ”があるが、残念ながら西斜面は平凡なD.O.C のValtellina ヴァルテッリーナのみ。

単一畑のワインはどれもあるレベルには達しているが、心がトキメクほどではなかった。しかし、変化球とも呼べる銘品は“Valtellina Sforzato バルテリーナ スフォルツァート”。赤ワインの辛口は、法律では80%以上のネッビオーロを使用する義務になっているが、ほとんどの造り手は100%ネッビオーロで造っている。南斜面の単一畑のカテゴリーは無く、すべての畑で選別された最高のぶどうを収穫後、風通しのよい倉庫の中で平たいカセットに入れ、約3ヶ月間乾燥させ、その後、醸造しワインをつくる。造り方は高価なヴェネト州のアマローネに似ているが、手頃な値段。これなら毎日飲めるかも・・・。さっそく、地元の料理と合わせてみよう!!

“Cucina Ricca 宮廷料理”と言えばロンバルディア州があげられる。などだ。しかし、同じ州でもヴァルテッリーナ地区は、オロビエ・バルテリネージ州立公園によって隔離されており、独特な“Cucina Povera 庶民料理”が根付いている。北に位置するヴァルテッリーナはそば粉の産地でもあり、平打麺のPizzoccheri(ピッツォッケリ)が有名で、リストランテでは何度か食べたが、家庭で食べているものを知りたくて、わがままの聞いてくれるアグリツーリズモを探して作ってもらうことにした。

心良く引き受けてくれたアグリツーリズモは急な坂道を登り、Incanalare(上述の滝のこと) の下をくぐり抜け、さらに登り続け、ヴァルテッリーナの畑を見渡せるほど山の上だった。夫婦と3歳の息子アンドレアの3人暮らし。主人のジョルジョは自分でサラミやチーズを作ったり、裏庭で野菜を栽培したり、と料理やワインが大好きでついつい話がはずむ。そこに奥さんのシルビアがピッツォッケリができたと呼びに来た。ワインはネッビオーロ100%で皮を漬け込まないで白く造る <Chiavennasca Bianca 2001> をお願いした。色は乾いた麦わら色でレモンの皮のシロップ漬け、デリシャスリンゴの蜜などの香りを感じ、丸い酸で軽い苦味が余韻にある。ストライクゾーンの広いワイン。さっそくピッツォッケリをいただきます!パスタはそば粉と薄力粉を同量比で練り込むが、ぼろぼろと切れてしまうので短かめ。具のキャベツ、ポテトは家庭らしく大きめに切ってあり、フォンティーナチーズ、溶かしバター、セージなどであえてある。この皿は外で冷えた身体を暖めてくれる。リストランテのピッツォッケリはフォンティーナチーズはかなり糸を引くので、チーズはビットまたはカゼ−ラを使うところが多い。“日本そば”は彼等も知っており、地元の人達は本を見ながら何度か打ってみたが、本物を知らないので、美味しいかどうかもよくわからず、次回は食べてみて欲しい言われた。そば粉は他にもラビオリやポレンタに加えたりと活躍している。私はパスタしか食べていないのにもうお腹はいっぱいになってきて、改めて乳製品を使うと皿が重いと気づいた。ジョルジョはしきりに自分の作ったチーズを食べようと言ってくる。私も自分のお腹のことを考え、にした。ブレザオラは昔、牛肉と馬肉のみだったが、今では鹿、ろばなどの赤身肉でもあり、多数出回っている。イタリアの他の地方で目にする時は決まってスライスしたブレザオラにルコラがのり、エキストラバージンオイルがかっかてくるが、伝統的にはそのまま食すか、黒胡椒とレモンで食べる。ワインはジョルジョと相談した結果、1995年のクラシカルなカンティーナの <Valtellina Sforzato> にした。色はレンガにさしかっかた濃いルビー色、ドライフラワー、イチジクのジャム、くるみの外皮などの複雑な香り、骨格がしっかりしていて、角が取れて、奥行きがあり、セクシーな口ひげがある知的中年男性に抱きしめられた様。かなり満足感あり!! 気がつくとワインも無くなっていた。1人で2本飲むのは久しぶり。美味しいとついつい飲んでしまう。いいワインの証拠!! 彼の作ったチーズはかなり熟成していたが、ワインとはなかなか良い組み合わせだった。むしろ若いタイプのチーズは合わせるのが難しいと思う。その後ジョルジョとグラッパを飲みながら、ワイン談議に花が咲き、深夜まで続いた...。

どうしてヴァルテッリーナ・スフォルツァートを造り始めたか知りたくなり、翌日カンティーナを訪ねたがはっきりとした答えは無かった。17世紀頃カトリック教会が統治していた時代に、農夫が収穫したブドウの半分を教会に物納めなければならなかった。その頃から白ブドウで乾燥させてワインを造り始めていたが、スフォルツァートという名前は無かった。他に貴族が色の薄いネッビオーロを濃くして、アルコール度数に高いワインを飲みたかったので造らせたという説もある。どちらにしても、ヴァルテッリーナの最高のワインとして、今でも君臨しているし、この地が地形的に閉ざされているので、造り方も昔のままで、あまリ外部に知られていない。イタリア国内のリストランテでもワインリストに一つの造り手が入っていれば目が止まるほど少ない。しかし、2000年ビンテージからD.O.C.Gに格上げされるのも時間の問題で、この地も変化していき、ネッビオーロ以外の品種を造ったり、価格が上がったりすると思うが、このまま伝統を守り続けて欲しい。  

  photo1
ヴァルテッリーナ渓谷

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急斜面のブドウ畑

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そば粉を使った料理

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これがピッツォッケリ!
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ブレザオラ

  photo6
周辺の風景

  photo7
産地 ロンバルディア州

 

著者プロフィール

中川原 まゆみ(なかがわら まゆみ)
 蠍座 O型  7才の時に父が母の目を盗みビールを飲ませてくれた。甘い物があまり好きではなかったので、甘くない飲み物に出会って感激。それ以来いろいろ試す。コックだった叔父から1冊のイタリア料理の本をもらったのがきっかけで料理を作り始め、同時にイタリアワインも飲むようになる。1度イタリアを訪れてからは年に2、3回は来るようになり、レストランで食事をして作り方がわからないと「皿洗いをするから」といって厨房に入れさせてもらい、レシピを教わった。1995年9月、東京の中目黒にオステリア「フェルマータ」をオープン。納得したイタリアワインと集めたレシピを中心とした家庭的な店だったが、2001年3月に閉店し、渡伊。ICT(イーチーティー日本―イタリア)企画のAISイタリアソムリエ協会公認資格取得のための"ソムリエ長期研修”に参加。2001年9月日本人女性初のAISイタリアソムリエ協会公認プロフェッショナルソムリエになる。現在、エミリアロマーニャ州の「リストランテ・パオロ・テベリーニ」にソムリエとして在籍。時間ができると愛車の日産マーチに乗ってワイナリー巡りをしてる日々。

*ICT(イーチーティー)の研修については、トップページの右バナー CLUB APICOをご覧下さい。



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