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イタリアワインVino探検記
17 Marzo 2003

第10回 Morellino di Scansano 〜新天地を求めて〜


 



中川原 まゆみ



『え、これってサンジョベーゼ?』と思うほど色も濃く、ボディがある。D.O.Cに認定されたのは1978年と古いが、イタリア国内外でもあまり知られていない Morellino di Scansano(モレリーノ ディ スカンサーノ)。このワインは "Sangiovese Piccolo サンジョベーゼ ピッコロ" 種を85%以上使用し、残りをこの地の他の黒ブドウ品種を混醸して造る。通常は Canaiolo (カナイオーロ)種、Malvasia Nera (マルバシア ネーラ)種、Alicante (アリカンテ)種、Ciliegiolo (チリエジョーロ)種などを加える。“Morellino”の名前の由来は“Mora(黒い果実)”からきており、つまり色が濃いという事だ。

ボローニャ Bologna から高速で、小高い丘が続く糸杉林を見ながら南下し、フィレンツェ Firenze から地中海を目指す。両脇は今までとはかなり違う、白く乾いた大地に強い太陽があたる風景に変わる・・・と、思っていると、目の前に地中海が広がってくる。右手に海を見ながらグロッセート Grosseto に向かい、右側にピスタチオのジェラートが美味しいエルバ島 Isola d'Elba 行きの船着き場を通り、緩やかな丘が続く内陸に入って行くと、スカンサーノ Scansano に到着する。今は冬だというのにここは別世界。風は強いが太陽はまぶしく、空は抜けるような青色、木々の緑も色が残り、冬とは思えない。

私がこの時期にここに訪れた理由はワイン以外にもう一つある。それは“cinghiale 野性のイノシシ”。毎年11月から解禁になり、地元の猟師達は約30人で1チームを作り、1頭の犬を連れて狩に出かける。イノシシは足が速いため、全員で大きな輪になって、少しずつ輪を縮め追い込んでいく。捕った獲物は現地のリストランテに卸される。何故か、肉屋の店頭にはイノシシの肉はないのだ!

モレッリーノ・ディ・スカンサーノには2つのタイプがあり、“Morellino di Scansano”と最低2年間熟成義務の“Morellino di Scansano Riserva”がある。私の今回の目的は、同じ造り手によるこの2つのタイプを ―アンティパストとプリモを“Morellino diScansano”で、セコンドを“Morellino di Scansano Riserva”で― しかも3皿ともイノシシ料理を注文して試したかったのだ。

リストランテは眺めのいい丘の上にある、20人も入ると一杯になる家庭的な雰囲気。お父さんがオーダーをとり、お母さんが作り、息子がサービスをしている。まず、ワインを決め、主旨を説明したところで、キッチンからお母さんがでてきて、『アックア・コッタ Acqua Cotta(パンと野菜の卵おとしスープ)が美味しいから食べて欲しい!』と一言。“Acqua Cotta”はマレンマ地方の家庭料理でトマト、キャベツ、玉ねぎなどの野菜を水で煮て、トスカーナパンを浸し、なま卵を落とし、オーブンに入れ、半熟の卵をつぶしながら食べる料理。私はお母さんの押しにやられ、プリモは2皿注文することにした。息子のシモーネが2本のワインと一緒に2つの裾が広がったタイプのデカンタを持って来て、2本共開けて、いきよいよくデキャンティングを始め、最後に空を舞うように更にデカンタをまわす・・・。私は“Morellino di Scansano 2001”はデカンタはもちろん、振り回すほど空気と接触させる必要も無いので不思議に思い、彼に訪ねてみると、『モレッリーノ・ディ・スカンサーノは全て必要だ!』ときっぱり。私は、ワインにとって一番良い状態で飲むべきと考えているのだが、彼らは自分達の誇るべきワインに対する敬意を払っているように感じ、話を続けるのをやめた。1本目の“Morellino di Scansano 2001”は、紫がかった明るいルビー色でプラム、ザクロなどのフレッシュな果実香を感じ、おだやかな酸味で余韻は中程度。キャンティなどのサンジョベーゼは酸が際立っているのに対して、モレッリーノ・ディ・スカンサーノのは控えめな酸であることが特徴の一つだ。アンティパストはお父さん手作りの 。プリモは熱々の とお母さんがうったパスタ 。Acqua Cotta はモレッリーノ・ディ・スカンサーノを続けて合わせていたが、Pappardelle al Cinghiale のソースは、イノシシ肉の臭みを消すために強い香りの香草類を使っているため、“Morellino di Scansano Riserva 1997”に変えた。正解だった。このワインは濃い青紫色でブルーベリージャム、濡れたネコの毛、黒胡椒の香りを感じ、酸はやわらかく、適度にこなれたタンニンは静かに広がり、乾いていく。かなりの高いアルコール度数と予想される。グラマラスだが少々ウエストが太い。一般的なキアンティのサンジョベーゼの輪郭とはかなり違う。

モレッリーノ・ディ・スカンサーノに欠けている点は“エレガンスさ”。それを克服し、さらに長期熟成に耐えられるワインを造りたいと、7年前からピサ大学で Sangiovese Grosso サンジョヴェーゼ・グロッソ種から、新しいクローンの開発をしている。セコンドは期待の大きい 。この皿はフィレンツェのイノシシ専門店やいろいろな店で食べている1皿なのだが、どこの店も形が崩れてしまうほど煮込み、どこの部位なのか分からないほどで、さらに煮込むときのトマトの量が多いのでイノシシの個性を消しているものが多かった。しかし、今回は火の入れ方もトマトのバランスも最高!さらにイノシシから出る獣臭もほとんどなく、鮮度の良さと旬の味に感動!!ワインの造り手はこの時期になると、猟師が自分達の畑に入り狩をするのでかなり頭にきて、『狩猟禁止』の立て看板を立てるが、全然効き目がないと嘆いている。しかし、このひと皿を食べたら許してくれるかもしれない!!ああ、あまりの美味しさに写真を撮るのを忘れてしまった・・・。

この土地のワインの歴史は浅く、近隣のボルゲーリ Borgheri、スヴェレート Suvereto なども100年前までは沼地だった。その後、開拓され農地になり、他のトスカーナの地区に比べると土地も安かったため、イタリア人だけではなく、スイスやドイツなどから移り住み、ブドウ栽培を始めた人達も数多くいる。ここ10年の間に評価されるワインがこの地からうまれている。土壌は砂、泥土が層になっており、地中海からわずか20Kmの距離にあるため、気候は温暖で雨も少なく、雨が降ったとしても海から風が吹き込み、すぐに乾かしてくれる。そして秋が訪れるのが遅いため、ブドウが熟すのを待つことができ、たとえばアリカンテ種は11月中旬の収穫。このように、ブドウ栽培に適した土地だと大手の造り手も気がつき、買い始め生産拠点を変えた造り手もある。いろいろな人達がここに住み、彼らが土着品種だけではなく、外来品種をこの地に持ち込み、新しいワイン造りに挑戦している。感動的なワインが生まれる日も近いだろう。

 
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糸杉とブドウ棚

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イノシシ狩り

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リストランテのカメリエーレ
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名物のアクア・コッタ

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手打ちパスタのイノシシミートソース!

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 産地 トスカーナ州  

 

著者プロフィール

中川原 まゆみ(なかがわら まゆみ)
 蠍座 O型  7才の時に父が母の目を盗みビールを飲ませてくれた。甘い物があまり好きではなかったので、甘くない飲み物に出会って感激。それ以来いろいろ試す。コックだった叔父から1冊のイタリア料理の本をもらったのがきっかけで料理を作り始め、同時にイタリアワインも飲むようになる。1度イタリアを訪れてからは年に2、3回は来るようになり、レストランで食事をして作り方がわからないと「皿洗いをするから」といって厨房に入れさせてもらい、レシピを教わった。1995年9月、東京の中目黒にオステリア「フェルマータ」をオープン。納得したイタリアワインと集めたレシピを中心とした家庭的な店だったが、2001年3月に閉店し、渡伊。2001年9月日本人女性初のAISイタリアソムリエ協会公認プロフェッショナルソムリエになる。現在、エミリアロマーニャ州の「リストランテ・パオロ・テベリーニ」にソムリエとして在籍。時間ができるとワイン産地を巡る日々。3月よりワイン雑誌『Winart(ワイナート)』にて "イタリア マイナー品種探検" の連載を開始。

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