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イタリアワインVino探検記
15 novembre 2005

第19回 Chianti  〜水のごとく飲むワイン〜

中川原 まゆみ


赤いチェックのテーブルクロスに藁包みキアンティ。昔懐かしいトスカーナの食卓の風景だ。日本でも昔からイタリアンレストランというとピザ、トマト、藁包みキアンティが定番だった。 イメージするものは、陽気なイタリア人が賑やかにテープルを囲んで、フョーク片手に、大声で話しながら、コップにいれたキアンティを飲んでいる様子。しかし、今では、ほとんど見なくなってしまった。 時折、ミニチュアの藁包みキアンティの瓶が、土産屋の店先にかかっているのを目にする程度だ。
忘れ去られようとしている藁包みキアンティだが、私がこのワインを必ず注文する店がフィレンツェに2軒ある。ひとつは、中心街にあり、もうひとつは、郊外にある地元民しか行かないトラットリアだ。 どちらもBistecca alla Fiorentina(Tボーンステーキフィレンツェ風)を食べると決めた時に行く店だ。

ある秋晴れの日、ピサから、フィレンツェを抜けて家路に着こうと、高速道路を走っていた時、偶然にもフィレンツェの友人から『誕生日会があるので、どのワインを買えばいいだろう?』と、相談の電話がかかって来た。私は、近くにいる事を告げると、『一緒にこの会に参加しよう』と言うことになった。人数が多いので、ビステッカを食べに行くことになり、いつもの郊外のトラットリアに場所を決めた。さっそく、8人で5Kgの肉の予約を店に入れた。

店の入り口には、すでに切り分けらられた大きな肉の塊が、ひとつづつ金具に通され、ぶら下がっていた。ビステッカは、適度な温度で熟成され、食べ頃にさしかかる時を待っていた。
各テーブルの上には、有無をも言わせず、『これを飲め!』といった感じで、マグナムサイズの藁キアンティが置いてあった。
昔のキアンティは、リカーゾリ男爵が、黒ブドウと白ブドウのブレンドを義務づけたため、色が薄く、はっきりした酸味のワインだった。当時のブドウ畑は、黒ブドウと白ブドウを混植していためにこのような規定を設けたのか、または、味わいのバランスをとるためだったのか、真意は、定かではない。現在では、ほとんどのカンティーナが、黒ブドウのみでキアンティを造っている。
さっそく、予約したビステッカを確認し、火入れをレアーでお願いした。
いつも、ビステッカを食する時には、付け合わせの野菜以外はオーダーしないが、誕生会ということもあってCrostini misti alla Toscana(クロスティーニの盛り合わせトスカーナ風)を注文し、肉が焼けるまで、これでつなぐ事にした。トスカーナパンの上にインゲン豆、レバーぺースト、ビエトラがのり、青葉の香りのするフレッシュなオリーヴオイルがたっぷりとかかっていた。いかにもトスカーナの田舎の味わいだ。ワインは、もちろん、テーブルの上にあったキアンティだ。ここの店にもワインリストはあるが、ワインを語りながら飲む店でも、似合う店でもない。
ワインは、明るいルビー色でイチゴ、ラズベリーなどの新鮮な森の果実香があり、すっきりとした酸味は、サンジョヴェーゼ種の特徴を感じさせた。

特大なビステッカを頼んだおかげで、火入れに時間がかかり、待ちきれずにLardo della Cintasenese(チンタセネージのラルド)を追加で頼んでしまった。
チンタセネージと呼ばれる豚は、イノシシと豚を交配させた成長の遅い豚で、愛くるしい容姿をしている。エンジがかった肉質は、ナッツ香があり、しっかりと詰まっている。
この豚のラルドを薄くスライスし、トーストしたパンにのせると、適度に溶けて、甘い香りが立ち昇ってくる。口腔に放り込むと、またたく間に消えてしまう。
あ〜たまらい美味しさと、つい微笑みがこぼれた。
待ちに待ったビステッカは、焼き上がり、目の前でサービスされた。柔らかな肉質が生かされた、絶妙な焼き具合。無言で口に運び、そして、ワインで流し込む。心地良い酸味は、口中いっぱいに広がり、上品で味わい深い肉片と絡み合い、旨味が蘇る。そして、更なる誘惑に手が伸びてしまう。
すっかり満足した後には、ブドウの収穫期にしか味わえないドルチェSchiacciata con l'uva(生ブドウのフォカッチャ)。収穫したブドウをパン生地で練り込み、オーブンに入れ、焼き上げたシンプルな家庭菓子。ブドウの粒から果汁がパンに染みでて、口の中では、ブドウの種が弾ける。甘酸っぱくて、やさしい味わい。今年のブドウの収穫に乾杯!
ふと、ワインの空き瓶を数えてみたら、5本も開けてしまった。水も注文せずにひたすらキアンティを飲んだ感がある。この満足感は、他に類を見ない。

最近のワインの楽しみ方は、厚さの薄い大きなグラスに少量のワインをつぎ、ゆっくりとグラスを回し、立ちのぼる香りに酔いしれ、悦に入るといった観賞用ワインが、とかく話題にのぼる。しかし、時には、しっかりとした酸味のあるワインで、食物を流し込み、口腔を洗い、さらなる食物の欲求を起こさせるための原点回帰ワインを試す機会も必要ではないだろうか。そうすることにより、キアンティというワインを通じて、イタリア食文化史の一端を垣間みられるだろう。


藁包みキアンティ






ビステッカ






クロスティーニの盛り合わせ






チンタセネージ






生ブドウのフォカッチャ


著者プロフィール

中川原 まゆみ(なかがわら まゆみ)
 11月10日生 O型 札幌出身.
1度イタリアを訪れてからは年に2、3回は来るようになり、レストランで食事をして作り方がわからないと「皿洗いをするから」といって厨房に入れさせてもらい、レシピを教わった。1995年9月、東京の中目黒にオステリア「フェルマータ」をオープン。納得したイタリアワインと集めたレシピを中心とした家庭的な店だったが、さらに食に関して知りたい欲求を抑えきれず2001年3月に閉店し、渡伊。2001年9月、AISイタリアソムリエ協会公認プロフェッショナルソムリエになる。現在、エミリアロマーニャ州の「リストランテ・パオロ・テベリーニ」にソムリエとして在籍しながら、感動的なワインに巡り会うためにワイン産地を徘徊する日々。ワイン雑誌『Winart(ワイナート)』にて "イタリア マイナー品種探検" の連載、"イタリアのワインニュース"などの文筆活動の他、イタリアの食全般に関わるコンサルタントも手掛ける。

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