JAPANITALY Travel On-line

 
イタリアワインVino探検記
 
15 settembre 2006

第20回 ピッツェリアでどのワインを飲もうか

中川原 まゆみ

眩しい日差しに目を細めながら、奥まった路地道を見上げると、いつもは、洗濯物が干してある場所にイタリアの国旗がなびいていた。今は、まさに国民行事のワールド・カップの真最中だ。ここナポリの裏通りにある『ピッツァフリット』の出店の前でもテレビを囲んで奇声をあげている。

ピッツァは、もともとファースト・フードの元祖のようなもので、学校帰り、仕事の休憩時間、買い物のついでなどの、ちょっとお腹がすいた時のおやつ感覚で食べていたもの。日本でいうと、昔、駄菓子屋の店先で作っていた月島のモンジャのようなものだった。しかし、ナポリでは、今でもこのような露店形式のピッツァ屋がたくさんあり、昔と同じように賑わっている。今でこそ、皿にピッツァがのって出てくるが、昔は、露店でも店内でも大理石のテーブルの上に、紙をひいただけで、皿なしで食べていたそうだ。確かに、熱いピッツァは、早く冷めるし、経済的だ。

さて、ピッツェリアに行ったら飲み物は生ビール、が定番になっているが、地元カンパーニャではいろいろな地場ワインが置いてある。そこで、今回は、本場ナポリピッツァとどのワインを合わせたらよいか、また、ピッツェリアで選ぶワインは何がよいか、を考えてみるためにナポリの旧市街を歩いた。
ナポリのピッツァとひとことに言ってもいろいろな種類がある。
そのひとつに『ピッツァフリット』がある。
ピッツァフリットは、生地の中に、モッツァレッラチーズまたはリコッタチーズ、チコリと呼ばれる屑肉、トマトソース、黒胡椒などを混ぜ、生地に詰め、油であげたもの。 
私は、これを路地裏の専門露店風と町場のピッツェリアの2つの店で試してみた。

専門店は、3坪ほどの小さな店に大きなフライヤー、生地を作るための大理石のテーブル、待ち客のためのイスなどが、所狭しと並んでいた。ここは、家族で経営しており、母が作り、父と息子が揚げ、娘がサービスしている。
形状は、生地を薄く伸ばし、丸く形成し、具をのせた後、フタをするように生地で閉じたもの。サックとした感触で、中から、フワッと、チーズと肉片の香りが漂ってきた。塩味は薄めだが、黒胡椒が効いていて、ピリィと下に刺さってくる。そして、トマトの酸味と甘さも追いかけ、複雑な味わいになってきた。
そーだな、これには、主に海岸近くで造られている赤ワインのピエディロッソPiedirossoを合わせるといいと思う。タンニンは少なめで、イチゴなどの果実香と後香にスモークしたような香りが残る。適度な酸味もあり、重ための具でもいいバランスだ。などど、考えていると、ナポリのピッツァフリットはすべて食べ尽くしていると、豪語する友人のナポレターナは、次の場所に移動しようと、やる気満々。

次の店は、時代を感じさせるアンティークな店内、しかし、毎度のことながら、店員のサービスは、最悪!いつも思うが、ナポリのピッツェリアのサービスは、本当にひどい。しかし、美味しければ、それも店のスタイルかと納得してしまうのだが。
ここのピッツァフリットは、ピザ生地を使っているためにとても厚い、そして、生地を半分に折って、中に具を詰めるので半月形になっている。もちろん、サイズもピッツァ同様なのでとても大きい。友人のファビオは、昼食前の休憩時間にピッツァフリットを食べると言うが、これを完食した後で、昼食をとるなどとは、信じられない。
さっそく、半分に切ってみると、中からチーズが出てきたが、モッツァレッラだけではなく、スカモルツァを使っていた。トマトソースは入っておらず、胃袋にズシンと溜まる、しっかりとした重量感がある。ピロシキを思い浮かべるような生地の味わいで、数種のチーズの印象が強く、パワフルで大胆な味だ。
これには、ベネヴェントで造られている白ワインのファランギーナFalanghinaがいいと思う。このワインは、アルコールも適度にあり、ミネラルが多く、ふっくらと厚みのあるしっかりとした味わいのワインだ。

そして、次は、ナポリピッツァといえば、マリゲリータ。駅の裏側にある雑踏を極める路地を入ると、無愛想な店員が立っている1955年創業の『Pellone(ペッローネ)』がある。昔は、5つほどのテーブルしかなかったが、あまりにも列を作るようになったため、近年、厨房の後ろに大きな部屋をつくった。
オーダーして、はや、5分でテーブルに運ばれたマルゲリータは、完璧な生地の発酵と釜の温度でつくられた芸術品だった。フレッシュなバジリコの香りは、そよ風を呼び、甘酸っぱいトマトソースは、太陽のエネルギーをくれた。このシンプルなピッツァこそが、ナポリピッツァの神髄なのだと、改めて感動した。
さて、これには、やはり、赤の発泡性ワインのグラニャーノGragnanoだろう。このワインは、主に赤の土着品種のブレンドで造られ、赤い森の果実香などの、スッキリしたシンプルな味わいに、心地良い泡が加わる。
マルゲリータにはピエモンテの赤ワインのバルベーラがいいと、言った友人のソムリエがいるが、私は、タンニンとアルコールが強すぎて合わないと思う。しかし、彼は、生地が焼けた焦げっぽい部分と木樽の強いバルベーラが合うと言う。このような談議に花が咲くのも、ピッツァと何を合わせたらよいかという、未知なるテーマが、楽しかったからかも知れない。

そろそろ、昼食の時間で、最後に食事のできるリストランテ・ピッツェリアに行くことにした。ピッツァ観光も終盤に近づいた。
ナポリ湾の見渡せるテラスのある店には、笑顔の美しいサービスマンがいた。このタイプの店に来ると、前菜を数種類とピッツァをオーダーするケースが多い。メニューの中に季節外れだが、好物のカルチョ?フィがあった。ちょっと心配だったが、ニンニクでオイル蒸しにして調理したと聞き、これに決めた。あとは、定番のモッツァレッラ・ブーファラ、ピッツァは、トマト、ニンニク、オレガノを使ったマリナーラにした。
さて、ワインだが、カルチョ?フィは、最も難しいアビナメント(食事との相性)と言われる。なぜなら、渋いからだ。オーダーした料理を考えると合うワインは、これしかない!!それは、発泡性アスプリーニョAsprinioだ。
このワインは、アウ゛ェルサ地域だけで造られる白ワインで、しっかりとした酸味があり、適度なボディ感もある。カルチョ?フィには、泡が一番、そして、ブーファラのまったりした味わいにもぴったり、ピッツァの香草類にも負けない。

地元の料理と地場のワインは、定石とされ、試してみると納得できる。日本でも手頃なカンパーニャのワインが入手できるようになった昨今、自分なりのピッツァとワインの組み合わせを考えてみては、どうだろうか。きっと、新しい世界が広がるはずだ。


アスプリーニョ




ナポリの裏道




路地裏の店にて




路地裏の店にて




町場のピッツァフリット




マルゲリータ





著者プロフィール

中川原 まゆみ(なかがわら まゆみ)
 11月10日生 O型 札幌出身.
1度イタリアを訪れてからは年に2、3回は来るようになり、レストランで食事をして作り方がわからないと「皿洗いをするから」といって厨房に入れさせてもらい、レシピを教わった。1995年9月、東京の中目黒にオステリア「フェルマータ」をオープン。納得したイタリアワインと集めたレシピを中心とした家庭的な店だったが、さらに食に関して知りたい欲求を抑えきれず2001年3月に閉店し、渡伊。2001年9月、AISイタリアソムリエ協会公認プロフェッショナルソムリエになる。現在、エミリアロマーニャ州の「リストランテ・パオロ・テベリーニ」にソムリエとして在籍しながら、感動的なワインに巡り会うためにワイン産地を徘徊する日々。ワイン雑誌『Winart(ワイナート)』にて "イタリア マイナー品種探検" の連載、"イタリアのワインニュース"などの文筆活動の他、イタリアの食全般に関わるコンサルタントも手掛ける。

http://www.japanitalytravel.com
©  JAPANITALY.COM srl - MILANO 2000 All rights reserved.