ちょっと昔だが赤ワインといえば、甘い"赤玉パンチ"だった。幼心にも美味しかったと覚えている。イチゴに香りがして、後味にほろ苦さがある大人の味だった。この頃、この中甘口ワインは食中ワインとして飲まれていたのだろうか。今では考えられないことだ。現在、食中ワインの基本はあたりまえのように辛口とされている。
しかし、一概には言えない。たとえば、黄金のアビナメント(ワインと料理の相性)、ソーテルヌとフォアグラだ。ソーテルヌはフランスの貴腐ワイン。これはブドウにボトリティス菌が付着し、水分が蒸発し、果汁が凝縮されてできる甘口ワイン。しかし、イタリアでは、わずかにウンブリア州にあるだけだ。イタリアの甘口ワインの多くは、"アパッシメント"と呼ばれる方法を用いて造られるタイプだ。これは、収穫後にスノコ、カセットなどにブドウを広げ、風通しのよい場所で乾燥させる方法。なかでもトスカーナのヴィンサントがよく知られており、これはブドウをプレスした後、小樽にいれ、セメントやロウなどで密封し、発酵、熟成する。なかには30年もの長い間、熟成させているものもある。
まあ、説明はこのくらいにして、とろけるような食事に出かけよう。アペリティヴォにプロセッコの"カルティツェ"をいただきながら、今回は趣旨貫徹!!甘口ワインだけで食事を通す、と決断。
まず、アンティパストはフォアグラのソティー、鴨の薫製添え。まったりとしたダブルの動物性油脂たっぷりの皿には、負けじと、陽炎ゆらぐ88年のヴィンサント。口腔にはグリセリンと脂肪が渦を巻く。そして、ワインの酸味で一新し、焼栗香がやってくる。最後に両方、同時に着地成功!!
そして、プリモは飛ばして、セコンドピアットの子羊の煮込み。この皿にぜひ試したいワインがある。それは、サグランティーノ・ディ・モンテファルコ・パッシート。ウンブリア州のモンテファルコで造られるこのワインは、20年ほど前まで辛口がなく、この甘口のパッシートワインのみだった。その当時は、復活祭などの祝いの席でこのワインとこの皿が振舞われていた。アビナメントの予想は、合格点に達するとは思えないが、歴史的背景もあり、試す価値あり。何ごとも経験あるのみだ。ワインはやや熟成した93年を選んだ。酸味もこなれ、独特の滑らかさもでてきている。皿とのパワーバランスは、ややワインが勝っているが、後味が妙にスムースで心地いい。思うに当時のワインは、人工的にアパッシメントした凝縮感のある現代のワインとは違い、自然に発酵が止まった結果、糖分が残っている柔らかな甘さのワインが多かったのだろう。であるならば、この皿と合わせていたことも納得できる。
さて、気合いの入ったドルチェは、エントランスにあったショーケースの中のババだ。こんな巨大なババは、ナポリでもお目にかかったことがない。ワインは変化球の90年のモスカート・ローザにした。庶民的で大胆なドルチェと上品で繊細なワイン。あえて、コントラストの利いた組み合わせにしてみた。ババのトッピングのベリー類はワインの果実味と接点を持ち、両者が解け合う、そして、ババのラム酒が余韻にパンチをきかせる。やや歪で笑いが出てしまうが、楽しい組み合わせだった。
日本ではケーキとコーヒーが定番のようだが、ぜひ、甘口ワインと合わせて欲しい!!たとえば、シフォンケーキとモスカート・ダスティ、チョコレートケーキとアレアティコ・パッシートなどだ。甘さが素敵なハーモニーを奏でるはずだ。
甘口ワインの習慣がない日本だが、百聞は一飲に如かず、まずは、一度お試しあれ!
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アパッシメント

ヴィンサントの小樽

フォアグラのソティー、鴨の薫製添え

羊の煮込み

モスカート・ローザ

ババ
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