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イタリア料理研修日記

5 Novembre 2002


第1回 マンマの味を探して・・・
“リストランテCIBUS(チーブス)”






柳 令子

チーブスの入り口と
チェントロ・ストーリコ(旧市街)


初めてイタリアで生活したのは2年前の3月。日本のフランス系の会社でフランス料理のコックをしていた私は、会社から2ヶ月の“イタリア研修”の命をうけた。フランスじゃないの? とも思ったけれど、行かせてくれるなら・・と承諾した。その頃の私は、自分のやっている事に行き詰まりを感じていたから、“フランス料理の始まりはイタリア料理だし、起源を見たら何か分るかも。帰りにパリにでも遊びにいこ〜っと。”と軽い気持ちだった。覚えていった言葉も、数字とSì (YES)/NOだけ。その2ヶ月の研修で働いた場所は、トスカーナ州シエナの伝統的なものを出すリストランテ。仕事は見て動けても、会話は想像するしかない・・。大きな赤ちゃん同然の私に、周囲のイタリア人は根気よく、例をいくつもあげて話してくれた。そんな温かいものを感じて過ぎた2ヶ月。帰る頃には“イタリア大好き”になっていた。

日本に戻り、イタリアにいたのは夢だったかのように、また今までと同じ生活をしていた。ただ、行く前と違ったのは、自分の探していたものは“料理する”という事だけでなく、あの“温かさ”だったと分かった事。そしてある日、たまたま取引業者が持ってきた雑誌を見ていたら、ict(イーチーティーイタリア食文化企画)と研修に参加した人の記事が出ていた。イタリア料理とは郷土料理から成り立つという事、プロのコック向けの研修である事。その方針がとても徹底されていた事。“これだ!”と。自分のやっている事に意味を持たせるためには、まずイタリアを知らなくてはいけない・・・。

・・・というわけで参加した ict 研修。私の記念すべき第1ステージは、プーリア州、チェリエ・メッサーピカ Ceglie Messapica という町にあるRistorante“CIBUS"(リストランテ・チーブス)だった。イタリア郷土料理、マンマの料理が知りたいと言ってここに来る事になったのだが、この冬の時期に南? 電波もあまり入らないような北の山奥を想像していただけにびっくり! 早速、『地球の歩き方』をみるとそんな名前の町は出ていない。前期の人に話しを聞けば、家庭料理を習いたいならここは良いよ、すごい所だよ、と・・・。ん? すごい?? そして、ict のHPを見てみると、壷で豆を煮るとか、薪のオーブンとか、平野に立つ幻想都市・・などと書いてある。本当にすごそうだ・・・。

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パスタをこねるジョバンナ
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右からリリーノ、私、リリーノの奥さんアンジェラ、ジョバンナ

そして2001年11月21日、ピエモンテ州ドモドッソラ Domodossola の町を出てから15時間(!)後、最寄のブリンディジ Brindisi に到着。誰もいないホームに降りると“REIKO?”と声をかけてくる人が。それがチーブスの女シェフ、フィロメナ Filomena だった。車に乗りリストランテへ。夜遅いので辺りは真っ暗。車のヘッドライトとわずかにある街灯しか明かりは無い。なんとなく目が慣れてきたところで、“星がきれい! すごいたくさん”思わずそう言うと、“そうよ、ここはきれいな町なのよ。この周りは一帯オリーブ畑よ。”初めてのプーリア弁に戸惑いながら聞いてると、目の前にボーっと光が・・。あ、空中都市だ!! 町全体がオレンジ色の光に包まれ、本当に浮かんでいるようだった。すごい所に来てしまった。

リストランテに着いたのは11時過ぎ。“お腹すいてるでしょう”と出してくれたのが、揚げたなすにラグーで和えたパスタを詰め焼いたものだった。電車疲れで食欲無いなぁ、何て思ってたくせに、おいしいので皮まできれいに食べてしまった。そしてシェフの兄リリーノ が登場(本名はアンジェロ Angelo だが、皆リリーノと言う愛称で呼んでいる)。パンと共にすすめてくれたのが、“絞って3日だよ”というオリーブオイル。早速、皿に注ぐと、メロンシロップ?! なんという鮮やかな緑!香りは強くさわやかな味。もうお腹一杯なんだけど・・という頃に、リリーノは自慢のペコリーノを3種ほど持ってきてくれた。横にはオレンジの蜂蜜とモストコット(葡萄果中を煮詰めたもの)。今まで食べた事のあるペコリーノは何だったの? という位味わいのあるもの。また蜂蜜がおいしい。“これは7年もの、5年もの、半年もの。蜂蜜はエルボリステリア(薬草専門店)からのものだよ。”その他いろいろ説明してくれるのだが、詳しい事までは理解できず、聞きたい事たくさん、でも言えない・・。すでにかなりのジレンマ。ほんの数時間でどっぷりとここの食材にはまったのでした。

リストランテを支える大きな柱は、シェフのお母さんジョバンナ Giovanna。チーブスはここ5年くらいの店で、もとは違う場所でトラットリアをしてたという。20才前に結婚し、旦那さんとトラットリアを始めてから今までずーっとCUOCA(コック)。なんと50年間!私が生きた月日よりも長いのかと思うと途方に暮れてしまう。見た目はちょっと太ってる食べるの大好きおばあちゃん。手作りクッキーを“食べなさいよ!!”と私にすすめながら、自分もバクバク食べている、そんな茶目っ気たっぷり。・・・なのだが、一旦料理の話を始めると目つきが変わる。ジョバンナの作る果実酒はチーブス名物、とてもおいしい。たくさんあるうちの一つ“5 FRUTTA(5種のフルーツ)”はどうやって作るの? と普通に聞いたら怒られた。“リチェッタ(レシピ)だけじゃだめなのよ! 果物の熟し具合やタイミングが大事なの!!”と。この人は根っからのコックで、とても料理を愛してるのが良く分る。その50年の仕事の間に3人子供を産んでるわけで、当時を思い出すように笑いながら、“フィロメナを産んだ時はね、仕事が12時に終わって、5時間後の朝だったのよ。”そして“その日も仕事をしたわ。”恐るべしマンマの力。この人無くしては、この店は始まらない・・と切に思った。  




プロフィール

柳令子 専門学校を卒業後、フランス料理の道へ。たまたま会社から派遣された2ヶ月のイタリア研修でイタリアにはまり、イタリア料理に転向。ict 10期研修に参加。現在、シチリア州ラグーサのリストランテ“DUOMO(ドゥオーモ)”に勤務中



●● ict の料理長期研修のお知らせ ●●
日伊の様々な食文化交流を企画する ict(イーチーティー)とICTイタリア事務所が行なっているプロ向けイタリア料理研修。 毎年長期(1年間)にわたり、本格的な研修を企画しています。 始めにピエモンテ州の料理学校で学んだ後、各州を回りながらイタリア食文化の地方性を深め、最後は有名レストランでの本格的な修行です。 詳しくは、JITRAトップページ右端、CLUB APICIO のロゴから ict のサイトへリンクしてみてください。



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