JAPAN-ITALY Travel On-Line

イタリア料理研修日記

16 Dicembre 2002


第2回 プーリアの大地の恵み





柳 令子

リストランテ・チーブス内部


オーナーであり、ホール担当であり、オリーブオイルの味見をする人、ソムリエ、チーズも作るリリーノは、ほとんど毎日食材を仕入れに出かける。はじめて市場に一緒に行った時、片っ端から見たい衝動に駆られながら、リリーノに付いて歩く。立ち止まったのは、農家のおじちゃんがとってきたと思われる野菜たちが並ぶ所。小さくて形の悪いナスや泥の付いた雑草。リリーノはその“雑草”をあるだけ全部買った。“チコリア セルバティカ(野生のチコリ)だよ。このナスは自然のもの。もう季節が終わりだからね。あっちのは大きくてきれいだけど、こっちのがおいしいよ。”そしてまた歩き始める。ここにはチーマディ ラーパ(日本では菜の花で代用している) が山詰み。初めて見た物に感動してるとすぐ移動。次の店にもまたチーマディラーパ。さっきのより細くてきれい。そしてここで“5キロ”といってビニール袋にぎゅうぎゅう押し込んで買っていった。違いを聞くと、“ここのが少し高いけど良いものだから”と言った。店を素通りしながらもちゃんと物を見ていて、そのときにある良いものを買っていく。そのためには見る目が必要で、それを得るためには足を動かさなければならない。チーズを買いに乳製品屋へ、オリーブオイルを買いに搾油所へ・・・。当たり前の事だけれど、その中でものすごく選んでいる。その基準はこの町の良い物達。チーブスで扱ってるもの全て、ここのもの。キャベツ1つでもとても力強く、生で食べると辛味さえ感じる。そこら辺からとってきたアローロ(ローリエ)や野生のタイムは、あるだけで部屋中香る。

プーリアは土が良いので1年中緑が絶えない。オリーブの木の太さを見れば納得。100年以上なんて言うのはざらにある。その土から生まれた草を食べた牛はおいしい乳を出し、それがおいしいチーズとなる。肉もまたよく運動し身が締まり、かめばかむほど味が出る。そして、その土で作ったピニャータ Pignataと言うテラコッタ。大昔からある豆を煮る壷。賄いでこの豆煮が出るといつもおかわりをし、“おいしいねぇ”と言ってにやけている私。水と塩と豆と少しの香味野菜。仕上げに最高のオリーブオイルを少し。“きらびやかな食事ではない、貧しい料理よ”と彼らは言う。こんなおいしいものを食べて大地の恵みをうけているから、心はとても豊かなんだ、と思わせられる。 

photo2
近くの原っぱに生えていた野生のミント“ピペリーノ Piperino”
photo3
豆を煮るつぼ“ピニャータ Pignata”
  右端は乾燥いちじくのサンマルツァーノ原酒漬け

チーブスの厨房を仕切るのはフィロメナ。ジョバンナの血を引くだけあり、とても熱いものを持ってる人。そして料理はもちろんホールもいつも気にしている。お客さんが居心地が良いように隅々まで掃除をし、カメリエーレの教育もし、いつもどうしたらもっと良くなるか・・・を考えている人。もちろん、とても疲れる事であるが、“仕事だからね”と笑っている。そんな彼女の作る料理はとてもやさしい味。物の味を殺さずに、濃くはあるけど軽く仕上がってる。やっぱりポイントは料理に対する思いであろう。

ある日、リストランテの上に住んでる私は怒鳴り声で目が覚めた。恐る恐る下を見ると、フィロメナとリリーノが言い争ってる。何を話してるのか良く分からない。後で聞いてみると、“いつもの事よ”。特に何と言うのではなく、リストランテの事についての話し合い。はじめはとてもビックリし戸惑ったが、そのうち尊敬さえするようになってしまった、この言い争い。ここまで心をあらわに思ってる事を言えるのは、相手を尊重していなければできない。日本人特有の言わなくても察してくれるだろう・・・と言う考えは毛頭無い。自分の意見を押し付けるのではなく、思っていることを言う。でも相手のいう事も聞く。ただそれだけ。

この店のすばらしい所は、店の人全員が同じ方向を向いて、またそれに向かっている所。そしてそれが浸透し、お客さんに伝わっている所。いつも変わらない料理があり、それを食べ、また食べに来るね、と言って帰っていく・・・。こういう時間を守り続け、これからもそれを続けていく・・・。この人達の定めでもあるのだろうが、それをみんな自分のものとし、受けいれ、生きてる。すばらしい事であり、なかなかできる事ではない。“CIBUS”と言う名は、ラテン語の“食べ物”から来ている。この店にはそんな思いのこめられた、やさしい空気が漂っている。  




プロフィール

柳令子 専門学校を卒業後、フランス料理の道へ。たまたま会社から派遣された2ヶ月のイタリア研修でイタリアにはまり、イタリア料理に転向。ict 10期研修に参加。現在、シチリア州ラグーサのリストランテ“DUOMO(ドゥオーモ)”に勤務中



●● ict の料理長期研修のお知らせ ●●
日伊の様々な食文化交流を企画する ict(イーチーティー)とICTイタリア事務所が行なっているプロ向けイタリア料理研修。 毎年長期(1年間)にわたり、本格的な研修を企画しています。 始めにピエモンテ州の料理学校で学んだ後、各州を回りながらイタリア食文化の地方性を深め、最後は有名レストランでの本格的な修行です。 詳しくは、JITRAトップページ右端、CLUB APICIO のロゴから ict のサイトへリンクしてみてください。



http://www.japanitalytravel.com
©  JAPANITALY.COM srl - MILANO 2000 All rights reserved.