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読み物・エッセイバックナンバー  クレモナの工房から
 
11 January 2001

第四回 2.5か3.0、それが問題だ。

石井 高


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「荒削り作業」 - 音が決まる大切な仕事



だいぶ前のことであった。 ヴァイオリンに使う材料は、モミとカエデノ木である。 もうこれ以上反ったりねじれたりしないように好きなだけ狂わせておく。10年近くも自然乾燥させてている間に、 木材の内部の樹脂が少しずつ風化するからこれも良い音につながるポイントになる。

さてバイオリンのデザインが決まると荒削りする。この時の丸ノミやカンナの刃の進み具合で木の性格が少しずつわかってくるから、 板の硬さ、乾燥年数、年輪の間隔などを考えた上で、ヴァイオリンの厚みを決めていくのだ。だからこの作業を他人に任せたり、 機械にやらせたりするのは本物のヴァイオリン作りとは言えない。薪のような木が徐々にヴァイオリンの姿をあらわしてくるというこの時が一番楽しい。

表板のモミの駒にあたる中心部は約3.0ミリである。これを2.5ミリにしたとする。たったの0.5ミリというなかれ。 この違いはヴァイオリン人生をひっくり返してしまうほど大きい。厚みの薄い楽器は出来た時は大きい音がしてよく鳴るので気に入られやすい。 しかし反面、音に品がなく力強さがないし遠くまで響かない。音の寿命も20年くらいである。新作はもちろん良く出来てなくてはいけないが、 それでも演奏家が弾きこんでよく鳴り出すのは10年以上かかる。1715年のストラディヴァリとは比較のしようがない。 しかし私は200年後に良い音が出るヴァイオリンを目指しながら製作をしているのである。

ところで私は今までにたった一台、厚みの薄いヴァイオリンを作ったことがある。25年も前、2000円の家賃を4ヶ月もためていた時のことだ。 この楽器はイタリア、マントヴァの大学の教授に渡った。彼は大層気に入って愛用してくれているが、しかし私はその10分の5ミリの差がいまだに気になっている。 その後決して薄い楽器は作らなくなった。正直に言って食べるために売りやすいそのような楽器を作る誘惑にかられたこともある。しかしその度にふりきった。 今は苦しくとも未来の私の楽器を思うとやはり今やっていることが正しいと考えたからである。試しに親指と人差し指の先で0,5ミリがどのくらいかちょっと測ってみてもらいたい。 そのわずかな間隔の中に私のヴァイオリン作りとしての考えや悩みや生活が凝縮されているように思う。

ニスに関しても大学で化学を専攻したにもかかわらずいつも失敗の連続だった。 樹脂、溶剤、温度、湿度の関係でうまくいかず費用と時間をドブに捨ててしまうことが再三。そういう時の涙を踏み台にして今のニスができた。 そのニスを40回ほど塗りかさねる。人情としては早く仕上げたいからどうしても色素を濃くしたくなる。 その誘惑に負けると表面にムラができ1ヶ月もかかったニスをはがし最初からやり直しになる。最近になってやっと自分を抑えられるようになった。 近道がないことがわかってきたのだ。

今年でヴァイオリンを作り始めてから35年になる。今まではヴァイオリンらしいものを作ってきた。 これからは、らしいものではなく本物を作っていきたいと思っている。クレモナの町の中央にカチードラル(ドゥオーモDuomo) 広場がありそこにレンガ作りの鐘楼としてはヨーロッパで一番高い塔がそびえたっている。その塔のてっぺんに登るとパダーナPadana平野が見渡せる。 ポーPo川がゆっくり流れている。目を転じれば赤い屋根のわが町だ。約500年前からヴァイオリン製作が始まったがアマティAmati、 ストラディヴァリStradivari、ガルネリGuarneriなどの名称が活躍した。 現在多くの若いヴァイオリン作りがその赤い屋根の下の仕事場で名匠に近づくよう製作に励んでいる。

クレモナは2200年の歴史をもつ。中世の町並みが今でもそのままに残っている。そういう町に31年住んでいるが、古い町しかし若い活気のある町と思っている。
クレモナでヴァイオリン製作を続けていけるのはこの上ない至福である。

著者プロフィール

石井 高 (いしい たかし)
1943年兵庫県に生まれる。クレモナの国立国際バイオリン製作学校卒業後1975年に 「マエストロ・リウタイオ=楽器製作マイスター」となる。楽器製作や名器の修理鑑定の他、古楽器復元にも取り組む。 著書「ヴァイオリン作りIl Liutaio」イタリア コンヴェーニョ社他。日本でも公演、演奏活動を行う。イタリア・バイオリン芸術協会会員。クレモナ在住。




 
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