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読み物・エッセイバックナンバー
なるほど!おいしさの『技』
 
15 Settembre 2003
その2 いい加減さ

宮本さやか







先日、わけあって蕎麦を打った。日本の、あの蕎麦。イタリアで入手できたそば粉は真っ黒で、どうみてもそばの外皮も、何もかも一緒に挽いてしまったような粉だった。
日本の花粉とか一番粉といわれるような、そばの実の中心部だけを粉に挽いたような真っ白なものとは大違い。ところでイタリアにもそばがあるの? と思われる読者のために説明しておくと、イタリアにもそばという植物は存在して、その実を挽いた粉はパンに使われることが多い。

 さて、その真っ黒なそば粉8割、小麦粉2割をあわせた「二八そば」に挑戦したが、延ばしてから切ろうとするとボロボロと崩れてしまう。で、「五五」もだめ、最終的に「八二」まで割合を変えて打ってみて、なんとか形になった。しかしそのとき、はて? という疑問が私の頭をよぎった。この割合では「そば」というよりは「そば粉入り小麦粉の麺」といったほうが正確ではないか。まっすぐに薄く伸ばし、細く切れないがゆえにここまで小麦粉を足す必要があったが、細く長く切ろうとするからだめなのではないか? 違う形にすればもっとこのそばの風味、滋養を満喫できるのでは?

それで思い出したのが、「ピッツォッケリ」というイタリアのそば粉パスタである。ロンバルディア州の山岳地方、ヴァルテッリーナというところの名物であるそれは1センチ×7センチぐらいのサイズのパスタ。何割かは小麦粉も入っているが、私の打った「八二蕎麦」よりもずっとそば度の高い、滋味のあるパスタである。これをジャガイモとキャベツと一緒に茹で、茹ったら小さく切った地元のチーズとニンニク風味のバターソースと合える。チーズが溶けたところをいただくと、とてもおいしい一品である。この地域で最初にそば粉パスタを打った人は「なんだ、細長くはできないな、ま、いいか。じゃあ短くすればいいじゃん」とイタリア人特有のあきらめのよさでピッツォッケリを生み出したのだろう。
イタリア人のあきらめのよさ、という性格は何百年もの間フランスやらスペインやら、あちこちの国から占領されてきた歴史によって形成されたものである、というような話をどこかで聞いたことがある。言葉の通じないガイジンに好き勝手に統治されたんじゃ、どんなに抵抗してもそりゃあ仕方ないもんね、頑張るだけアホラシ、とイタリア人たちが思っても不思議はない。

それに対してまじめで根気強く、負けを知りたくない日本人はあくまでも細く、長く、ツルツルッと喉を通る麺にこだわった。

で、どっちがいいかというと、それはなんとも言えない。ただイタリアの柔軟な考え方で生まれたそばパスタ・ピッツォッケリのほうが栄養素的には上かもしれない。そしてピッツォッケリに限らず、イタリアの各地で、その場、その状況にあったパスタが生み出された。その結果は周知のとおり。様々な形はもちろんのこと、粉にいろいろな物を加えたものや、残り物を詰めたさまざまな詰め物入りパスタあり、硬くなったパンで作ったパスタだってあるヴァリエーションの豊富さだ。そしてパスタに限らず、イタリア料理のおいしさは案外この「あきらめのよさ、柔軟な考え方」が大きく影響しているんじゃないだろうか。時によっては「イタリア人ったらほんとーにいい加減!」と批判の対象にもなる彼らのこの性格が、偉大なるイタ飯の味に貢献していたとは。  



       


著者プロフィール

宮本さやか(みやもと さやか)
東京生まれ。日本でフードライター兼フードコーディネイターなどをしていたが、95年、イタリア料理の腕に磨きをかけようとトリノに2ヶ月の短期留学。いればいるほどイタリア料理の奥の深さにはまり、そのまま居着いてしまう。その後、現在の夫と知り合い結婚、2歳7ヶ月の一児(さらちゃん)の母。現在もフードライターを続ける一方、イタリアで日本料理の講習やケータリングの企画なども手がける。最新刊『北イタリアでおいしいものを食べる、買う』(文化出版局刊)の他、『ピエモンテのしあわせごはん』(メディアファクトリー刊・ペンネームは島津さやか)などがある。    

 



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