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   なるほど!おいしさの『技』
 
15 Gennaio 2004
その4 料理人の激しい郷土愛

宮本さやか







  随分前になるが、私がまだ日本でライターをしていた頃、ある人が「イタリアではねー、どこで何食ってもうまいんだよねー」と嘯いていて、それを少し信じてイタリアに来た私は、イタリアにだってまずい店はあるし、その反対に何年たっても忘れがたい一皿を食べさせてくれる店というのがあるというのを実感することになる。

まずい店、というのは生きていく糧としてなんとなく飲食業を選んだけれど、実は経営にも料理にも向いていなかったというタイプ、または同じく生きる糧系ではあるがもっとポジティヴで、いかに儲けるかを日々の目標にしているタイプ。味やサービスの向上などは二の次だから、派手なチェーン展開なんかしているが、味のほうは怪しいことが多い。

おいしい店、というのは難しい。おいしい、という感覚がとても個人的なものだからだ。判りやすいのは、いわゆる星付きレストランだろう。ところが、元々は「おいしい」に向けられていたはずのその店の料理人の情熱が、星という名声を得るという方向に向いてしまった時から「おいしい」の種類が違ってきてしまった店である場合が多い。腕は超一流であるはずのシェフたちは、時として客の好みを無視した自己満足な料理を作る。自分のテクニックを披露するのが大事だから、それぞれの料理に対する愛情は限りなく薄くなる。だから彼らの、絵画のように美しい料理を食べても、店を出たとたんに何を食べたか思い出せなくなるなんてことが起こる。経験ありませんか? 

私がここ五年ぐらい、イタリアでおいしいと思った店はどこも、料理をするのが大好きで、地元の昔からあるおいしいものをみんなにも食べさせてあげたいよ、という情熱でいっぱいの料理人と経営者がいる店である。そんな店の料理には力がみなぎっていて、何年たっても鮮明に思い出せる味なのだ。食べた後は自然と顔がニコニコしてしまって「おいしかったー」とバカみたい繰り返してしまうだけ。

ピエモンテ州はロケッタ・ターナロという田舎町にある「イ・ボローニャ」もそんな店の一つで、そこで修行をしているコックのセイちゃんはコックとして一流のキャリアを持ってイタリアへ来た。トリノの星付き高級店で一年働いた後この店に移ったのだが、一年ぐらいここで研修したら日本へ帰ると言っていたのがたしか六年前の話である。彼曰く、この店=一家の料理長でありお母ちゃんでもあるマリウッチャが作る料理は、まだまだ奥が深くて学びきれないのだそうだ。技術としてはめちゃくちゃだ、と思えるようなこともするが、これがとびきりうまいものを作るのだ、と。たしかにこの店の「サルシッチャ(ソーセージ)のラグーあえ じゃがいものニョッキ」なんか食べた日には、いろんなストレスや心配事やなんかはみんな忘れて幸せになってしまう。今これを書きながらもあの味が舌に蘇ってきて涎がこぼれそうだ。

イタリア人はものすごい郷土主義者である、とよく言われる。150年ぐらい前まではまだイタリアという統一国家はなくて、今で言う県や州が別々の国として存在し、それぞれの歴史、文化が存在したからだそうだ。食べ物に関してもオラが国のものが一番、というのがあって、その極端な例が排他的ともいえるほどの保守であり、マンマの味が一番と信じて疑わない盲目である。保守的だからこの世界一おいしい味を余所に輸出して有名になろうとか儲けよう、あるいは今流行らしいペッシェ・クルード(刺身)をうちのメニューにも取り入れてみよう、などとは露ほども思わない。

「イ・ボローニャ」のマリウッチャと彼女を囲む家族、スタッフたちも、この盲目なまでの信念とピュアな愛情で今日も、力のこもったおいしい料理を作り続けるのである。

写真キャプション
イタリアの一般的な町々では、高級食材店でも地元の伝統的な食品を扱うことのほうが多い。
土地の味を手軽に味わいたい旅行者には食材店での「買い食い」もオススメ  



       


著者プロフィール

宮本さやか(みやもと さやか)
東京生まれ。日本でフードライター兼フードコーディネイターなどをしていたが、95年、イタリア料理の腕に磨きをかけようとトリノに2ヶ月の短期留学。いればいるほどイタリア料理の奥の深さにはまり、そのまま居着いてしまう。その後、現在の夫と知り合い結婚、2歳7ヶ月の一児(さらちゃん)の母。現在もフードライターを続ける一方、イタリアで日本料理の講習やケータリングの企画なども手がける。最新刊『北イタリアでおいしいものを食べる、買う』(文化出版局刊)の他、『ピエモンテのしあわせごはん』(メディアファクトリー刊・ペンネームは島津さやか)などがある。    





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