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写真家西川よしえの「ミラノと私」
15 Settembre 2013

  第1回 初めてのドゥオーモ


 
西川よしえ 



ミラノに、『華やかなファッションの街』と、期待を胸に、初めて一人で観光に来たのは25年前。頃は夏8月。その期待とは裏腹に、ミラノは、店という店は全てしまっている、レストランも当時のガイドブックにのっているところは全滅、パラッツォの窓等は全てと言って過言ではないほどタッパレッラ(雨戸)はシャッターをおとしており、廃墟化。憧れのブレラ美術館も工事中さながらの様子、そこですれ違うまばらな外国人観光客。

稀に空いているバールでアンニュイにからからと音をたててまわる扇風機を頭上に、これまた申し訳程度にはいっている氷の数をみて飲むぬるいジュース。一体、どうしたもんか・・・。日本の80-90年代はまさに高度成長期まっただ中、ふんだんに情報はあふれパワーにみなぎっていた。『期待のファッションの街ミラノ』は、どこにもなく、そのあまりにも現実離れしたミラノをどう捉えるべく戸惑いの中、そのぬるいまったりとした桃のジュースを喉に流し込んだ。

気をとりなおし、手にした汗ばんだ地図をたよりに、 そのゴーストタウンの軒下の日陰に添って街の中心へ。これがガレリア、ただアーケードと呼ぶには、あまりにもおおきなそのガレリアに入る。遥か頭上の硝子はけっこう破れており、ガイドブックを見てイメージしていたものとはちょっと違う。ピアッツァにつながる出入り口の大きな年期が入ってかなりよれた鳩避けネットをくぐると、目の前には大きなミラノ大聖堂(ドゥオーモ)が現れる。

そのゴシック建築は、もちろん日本では見る事が無い様式からなのか、そのスケール感さえもピンとこない。頭上にかんかんと照りつける太陽の光から逃げるように、もしくはその巨大な建物に吸い込まれるように扉の向こうへ。

目の前に広がる闇の世界。一瞬にして視覚を失ったわたしは狼狽し、意識をして目を全開にした。目を開けているのに見えるのは闇の黒色。一瞬わたしの脳裏によぎった記憶は、ネパール ナガレコットと言う村での夜の闇。眼下に広がる雲景に夕日がすっかり落ちるのを見届けた後、一宿に借りていた平屋建ての簡素な扉を開け中に入るとそこには宇宙が待っていたかのようだった。
しーんという音が聞こえる程の無音・・・、一瞬、自分の眼が閉じているのかと思い、意識して目を開けた。あの時と同じだ。物質が姿を消しエネルギーだけが存在している 。
それは、一種の幽体離脱という架空現実の経験ともいえるのではないか。わたしという意識が物質社会から生きながらに意味をもたなくなる。あるいは、わたしという意識だけがそこに存在する意味を持つ。

何秒?、何分? たったのか・・・、その闇色はとてもゆっくりと徐々に変化を始めた。その建物の内部は、高さも奥行きも人間の日常の尺度を超えていた。権力は時として人に脅威を与える。いや、そこに見たのはそれではなかったはずだ。そこに存在する自分という意識の確認。物質社会に於ける権威の主張とも言えるドゥオーモの建築物だが、聖なる地のもつエネルギーは底計り知れない。わたしたちの時空間は、必然性に迫られひとつの共通言語として存在している。あの初めてのドゥオーモから、25年という時間が経った。その間ドゥオーモは、修復を続けており、建築物内外にも、ライトアップされるようになった。時間の経過により物質は変化を続ける。

そして、今日も、わたしはミラノにいる。     


著者プロフィール
写真家 西川よしえ(YOSHIE NISHIKAWA)  

1959年、札幌生まれ。大谷大学美術科を卒業後、サンフランシスコ アカデミーオブアートカレッジにて、ファインアートフォトグラフィーを学ぶ。1983年、単身渡英。ミュージシャンを中心にフリーランスフォトグラファーとしての活動を開始。1984年、一旦帰国し、西川よしえ写真事務所を設立。音楽、ファッションを中心に活動の場を広げていく。
1996年より、ベースをイタリア・ミラノへと移動。1998年、イタリアでトップランクの照明器具メーカーである「フォンタナ・アルテ(Fontana Arte)社」のプロダクト写真集を手がけ高い評価を得る。以降、ミラノはもとより、ロンドン・パリ、NY・香港で活躍。現在は、イタリアを中心にデザイン、ファッション企業の広告、カタログの企画製作も手がけるなど、トータルコーディネイトから関わる作品作りを展開。2009年、イタリア写真協会主催、プロフェショナルフォトグラフィーコンペティションにてグランプリ、総合グランプリ、を受賞。2010年も続いて、グラムール部門最優秀賞受賞。
最近はギャラリーでの展覧会、アートフェア、フォトフェスティバル、などの参加と、幅広く活動。
http://www.yoshienishikawa.com


写真家西川よしえの「ミラノと私」
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