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ローマとその周辺の庭園めぐり
15 Luglio 2019

第14回 
クイリナーレ宮殿の庭園  

  
文・写真/阿部美寿穂 
ローマ中心部の歴史ある美しい庭園で最も有名なものの一つに、大統領官邸でもあるクイリナーレ宮の庭園があります。2015年のセルジョ・マッタレッラ大統領の就任以降、それまで共和国記念日(6月2日)のみ公開されていた庭園と宮殿内の施設が、一年を通して一般公開されることとなりました。現在のところ、クイリナーレ宮の見学には2種類のコースが設定されており、ローマ在住者、観光客を問わず、どなたでも見学することが可能です(事前予約要、詳細はページ下部で)。

トップ写真:@クイリナーレ宮の庭園
写真下左:Aローマの7つの丘の一つ、クイリナーレの丘に建つクイリナーレ宮。現在は大統領官邸となっている。2019年7月現在、ツアーの集合場所は、正面玄関ではなく、写真右側のクイリナーレ通り側の入口より入場。 写真下右:B大統領護衛騎馬憲兵が守る「名誉の中庭(Cortile d’Onore)」。身長190センチ以上の屈強な身体を持つ男性から選ばれる憲兵は、首の後部を守る為の特徴的な長い馬のたてがみを配置した兜を付ける。

2種類のコースのうち、一つ目の「Itinerary N.1 (Artistic-Institutional)コース」は、宮殿内のお部屋(Piano Nobile)と建物に囲まれた中庭(Ground Floor)を廻るもので所要時間1時間20分です。 今回の記事でご紹介するコースは、二つ目の「Itinerary N.2 (Artistic-Institutional and Thematic)」で、こちらのツアーの見学ポイントには、上記の一つ目のコースで訪問する場所に加え、陶磁器コレクションの部屋、庭園、馬車のコレクションの部屋が含まれています。所要時間は2時間30分です。

二つ目の「Itinerary N.2コース」では、今まで入場が難しかった官邸のプライベートなお庭、1500年代のローマの庭園史を代表するお庭を見ることが出来ます。おおよそ東京ドーム1個分の大きさを持つ庭園は、イタリア式とイギリス式庭園の様式を持つ、各所に噴水が点在したナチュラルな雰囲気のお庭です。

写真下左:C宮殿に入場して一番最初に出迎えてくれる有名な絵は、1609年にフラミニオ・ポンツィオにより設計された「名誉の大階段(Scalone d’Onore)」にかかるルネサンス期のイタリアの画家、メロッツォ・ダ・フォルリのフレスコ画のキリスト。   
写真下右:D「黄色の広間(Sala Gialla)」。豪華なシャンデリアが連なる。どの部屋も個性的なデコレーションが素晴らしい。

なお、これらのコースは、宮殿内のお部屋などの施設の見学がメインとなっている為、今回は宮殿内を中心に庭園も併せてご紹介します。クイリナーレ宮殿は、まだあまり知られていませんが、ローマの中心部でアクセスが非常に便利なことからも一度は訪れてみたい観光場所です。それでは筆者が厳選した見どころを一つずつお届けしましょう!

写真下左:E「鏡の広間(Sala degli Specchi)」。憲法裁判所の裁判官の宣誓が行われる。    
写真下右:F「つづれ織りの広間(Sala degli Arazzi)」。フランス人の画家フランソワ・ブーシェのデザインを元に神話の世界がタペストリーに描かれる。

●法王達に愛されたクイリナーレの宮殿
ローマの7つの丘で最も高く、見晴らしも良いクイリナーレの丘。この丘には鉄器時代から人が住み始め、紀元前8世紀のサビニ人の王、ティトゥス・タティウスの時代には、既にサビニの人々が信仰する神に捧げた神殿などが建ち並んでいたと言われています。

中世の間は、他のローマの地域に比べるとやや寂れた印象を呈していましたが、再びこの丘にスポットライトが当たるのは、16世紀に入りエステ家の枢機卿イッポリート2世(1509-1572 父はアルフォンソ1世、母はルクレツィア・ボルジア)によりクイリナーレ宮の整備が開始されたことによります。

写真下左:G「リラのつづれ織りの広間(Sala degli Arazzi di Lilla)」。名前は壁にかかる18世紀の初めにフランスのリール市で編まれた5つのタペストリーから由来している。    
写真下右:H「大統領の書斎(Studio del Presidente della Repubblica)」。この部屋では各国からの首相達との公式な面談・会議が行われる。

お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、このイッポリートは、ローマ近郊のティヴォリ(Tivoli)という町にある世界遺産「ヴィッラ・デエステ(エステ家の別荘)」に手を入れ美しく整備し直した人物です。
彼は、北イタリアからローマ教皇の座を手に入れようとローマに意気軒高にやって来るのですが、一度も選出されることはありませんでした。教皇の座を巡る争いに敗れたイッポリートは、初めこそは意気消沈していたものの、復讐に似た感情「ここにて第二のローマの到来なり!」 がむくむくと沸き上がり、当時の有名な植物学者、造園家、芸術家などを総動員して素晴らしいヴィッラを完成に導いたのでした。ルネサンス時代を代表する庭園の芸術、ヴィッラ・デエステの自然と芸術の完璧な融合例は、その後のヨーロッパの庭園建築にも大きな影響を与えました。

このクイリナーレの丘の庭の整備に当たっても、バチカンの庭園設計などでも活躍したお抱えの建築家ピーロ・リゴリオなどと共に非常に精力的に行われました。

写真下左:I別館の陶磁器コレクションの部屋。晩餐会などの料理の調理時に使用した調理用器具が展示され興味深い。   
写真下右:J別館の馬車コレクションの部屋。イタリアでも最も重要な馬車のコレクションがここに揃う。100種類以上の馬車に関する展示品は、1700年代後半から1900年代初頭までの分類学上、ほぼ全ての馬車のタイプを保存する。

その後、1500年代の後半に本格的にローマ法王クレメンス8世が移り住むようになってから、クイリナーレ宮殿は法王の住居としてイタリア統一時まで使用されることとなりました。 冒頭でご紹介した見学ツアーでは、それらのクイリナーレ宮の歴史的な変遷を初めに映写室で勉強します。(英語のイヤホンガイドあり)

●ツアー参加の際はこんな点にも注意を
今までアクセスがほぼ不可能だったクイリナーレ宮の見学はとても珍しく楽しいものですが、コースに参加する前に、是非準備をしていただきたいものがあります。ホームページなどに注意書きはありませんが、筆者が実際に参加して大切なことと感じましたので、この場でお伝えします。

一つ目は、必ず運動靴などの歩きやすく履き慣れた靴でご参加下さい。「Itinerary N.1」は所要時間1時間20分、「Itinerary N.」2は2時間30分前後あります。 宮殿の中での移動は階から階を階段で上り下りし、エレベーターは利用しません。広大な宮殿の中の部屋を徒歩で端から端まで移動して行きますが、立ち止まってガイドの説明を聞く時以外、休憩時間はなく、最後までノンストップでツアーは催行されます。 特に「Itinerary N.2」は、宮殿から一旦外に出て庭園を訪れたり、別館にある陶磁器の部屋や馬車の部屋の訪問をします。途中、そこまでの移動で多くの階段の上り下りがありますので、踵の高い靴や歩きにくいサンダルでの歩行はかなり辛いことと思います。また、多くの方が、宮殿の訪問の為お洒落で小綺麗な服装で、とお考えになるようですが、着心地の良いジーンズのズボンなどの普段通りの服装で足元は履き慣れたスニーカーのようなものでも全く問題はありません。

二つ目は、歩く時の負担を軽減する為に、なるべく手荷物は少なめの軽装でご参加下さい。

また、宮殿内をスマホを用いて写真撮影する方の姿も多く見られました。

●宮殿に今も残る、遠い日本からのお客様
宮殿の中で最も面積が大きく荘厳な「大統領護衛騎馬憲兵の広間(Salone dei Corazzieri)」には、フレスコ画で飾られた壁の一部に日本人の姿が描かれていることで知られています。そして、各国の国家元首による多くの重要な儀式が執り行われるこの広間は、1600年代初頭に造られた時の素晴らしい外観をほぼそのまま維持しています。

1616年に完成した壁の装飾のフレスコ画は、イタリア人の画家、アゴスティーノ・タッシ、ジョヴァンニ・ランフランコ、カルロ・サラチェーニによる作品で、この広間で歴代教皇が海外からの君主や大使と謁見したことに関連して描かれています。

写真下:K「大統領護衛騎馬憲兵の広間(Salone dei Corazzieri)」は大きく荘厳だ。
写真下左:L壁のフレスコ画の上部に描かれる支倉常長と慶長遣欧使節団  
写真下右:M同、上部の画像のアップ

イタリアから見た遠方の国(アフリカ、アジアなど)の8ヶ国の使節団の描写の中で、ひときわ目を引くものは、仙台藩の武将だった支倉常長と慶長遣欧使節団(日本初の公式使節団の欧州訪問)がローマで時の法王パオロ5世と謁見した時の様子です。謁見の数か月後にこの位置に描かれたとされる肖像画は、顔立ちなどの特徴を取り分け良く研究して描かれています。

支倉常長と慶長遣欧使節団は、日本の石巻港を1613年に出発し、約2年かけてイタリアに到着しました。ローマではローマ市民権を与えられ、ローマ貴族に列せられました。

●落ち着いた佇まいのクイリナーレ宮の庭園
16世紀から続いた同庭園の変遷の歴史の中で、近年で一番特筆すべきものは、彫刻家ジュリオ・モンテヴェルデによりデザインされた「水浴びする女性達の噴水(La Fontana delle Bagnanti)」です。

写真下左:Nツアーの半ばでは庭園を訪れる。30名の参加者達もお庭の散歩でリフレッシュした表情を見せる。  写真下右:O美しいバラが巻き付くヤシの並木。遠くにバチカン市国サン・ピエトロ大聖堂の丸屋根が見える。

この噴水は、イタリア王国第2代国王ウンベルト1世(在位:1878〜1900年)の為に整備が始められ、カセルタの王宮から運ばれた水浴びする女性達の3人の彫像が配置されています。

写真下:PQ「水浴びする女性達の噴水(La Fontana delle Bagnanti)」。ジュリオ・モンテヴェルデによりデザインされたゾーンにはカセルタの王宮に由来する彫像が配置される。 

今回は、まだ一般公開の存在があまり知られていない大統領官邸、クイリナーレ宮についてご紹介しました。既にローマ訪問はリピーターの方でも、この少しマニアックな場所は楽しめることと思います。庭園の訪問はツアーのメインではありませんが、コースの一部に組み込まれていますので、ローマで緑を見てみたいという方にもおすすめです。

写真下左:R「田舎風の噴水(La Fontana Rustica)」。  写真下右:S庭園内のたたずまい

クイリナーレ宮は、トレビの泉、スペイン階段などの観光名所が集中しているエリアにあり、ローマ中心部でアクセスが非常に便利なことからも一度は覗いてみたい観光ポイントです!


著者紹介
阿部美寿穂(あべみずほ)

ローマ県公認観光通訳。ローマ大学卒。地球の歩き方ローマ特派員、公益財団法人日伊協会コラムニスト、たびねすイタリアガイド。植物の専門知識を活かしてイタリアの庭園等も専門的に案内しています。グリーンアドバイザー。

クイリナーレ宮の庭園Giardini del Palazzo del Quirinale関連データ
Dati
■住所
Palazzo del Quirinale, Roma

■オープン期間と事前予約について
一般公開日は毎年変わる為、下記の公式サイトでの確認を。 入場の為の事前予約は必須で、オンラインか電話、もしくはインフォポイント(Salita di Montecavallo, 15)を通して行う。
当日はローマ大学“サピエンツァ”、ローマ・トル・ヴェルガータ大学、ローマ・トレ大学、Touring Club Italianoのボランティアガイドがイタリア語によりツアーを引率します。 予約した見学時間の15分前に、クイリナーレ通り(Via del Quirinale)のコンスルタ通り(Via della Consulta)側に近い宮殿の入口前に集合し、セキュリティチェックを受ける。その後、参加者全員が揃ったところでボランティアガイドと共に出発。

■入園料
2019年7月現在、下記の2つのツアーがある。(案内はイタリア語)
Itinerary N.1 (Artistic-Institutional)、 1.5ユーロ
Itinerary N.2 (Artistic-Institutional and Thematic)、10ユーロ

■クイリナーレ宮公式ホームページ
http://palazzo.quirinale.it/palazzo_en.html

■行き方
ローマの地下鉄A線Repubblica(レプブリカ)駅またはBarberini(バルベリーニ)駅で下車しクイリナーレ広場方向に徒歩10分。路線バスなら、40番、60番、64番、70番、117番、170番、H番のNazionale/Quirinaleのバス停で下車。

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