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トスカーナの小都市を旅する
15 aprile 2009

第1回 フィエーゾレ 美しき風景が連なる「フィレンツェの母」
  

文・写真/菅澤彰子 
フィレンツェからバスに揺られて、やがてそのバスはなだらかな丘陵を登り、丘の上の広場に着く。そこが「フィレンツェの母」、フィエーゾレFiesoleの町の中心だ。さすがにそういわれるだけあって、歴史上トスカーナの都として君臨することとなったフィレンツェよりも起源が古い。トスカーナの小都市を語るには、まずこの町から始めるのがいいだろう。

まず、旅行者にとっての最大の魅力は、フィレンツェからのアクセスの良さである。トスカーナの小都市を巡ろうとする初心者にとって最適である。バスに揺られて郊外へ30分ほど、のどかな小旅行が始まる。フィエーゾレの丘は、フィレンツェ市内から、望める距離にある。姉妹都市の京都で例えるのなら、まるで東山のような位置にあって、日本人の美的造形感覚をもってすれば、庭園に借景を取り入れるだろうというような地理である。丘の麓にはオリーヴ畑が広がっている。(写真@ 写真A)
トップ写真:@麓のサン・ドメニコから望むフィエゾーレの丘
写真左:Aフィエゾーレ・麓のオリーヴ畑、右:B「カテドラルの鐘楼と後陣」

バスが蛇行して丘を上がるうちに、フィレンツェの優美な街並みが眼下に広がってくる。最終の停留所でバスのエンジンが切られるところが、フィエーゾレの町の中心である。さすがに古代のフォロ(公共広場)であったといわれるだけあって、トスカーナの広場としては規模の大きなもので、そのスケール感に不思議な感じさえ覚える。最も印象的なのが、13世紀の中世的な塔とアプス(後陣)を持つカテドラル(大聖堂)である(写真B)。司教館や神学校の威厳ある建物の存在から、この町がキリスト教の宗教上においても重要性を持っていたことがわかる。一方で、現在は町の行政の拠点となっている優美なプレトリオ館は14世紀のもので、この一世紀の間に大きな芸術の動きがあったことを目の当たりにすることになる。多くの紋章が壁に飾られ、由緒ある町の歴史を物語っている(写真F)。

この広場を中心にアップ・ダウンが連なっている。フィエーゾレを訪れる価値は、風景の美しさにあろう。起伏に富んだ地形が、フィエーゾレが持つ個性である。それによって、さまざまな風景が生み出されている。歩くたびに、表情が変わる。散策が、何とも楽しい。これは実際に行ってみて初めて味わえる、旅の醍醐味だ。

●古代ローマとエトルリアの広大な考古学エリア
さて、フィエーゾレの驚きは、かわいらしい町なのに広大な考古学エリアを持っていることにあろう。フィエーゾレといえばまず、保存状態の良い古代ローマ期の劇場が知られている(写真C)。土地の持つ自然、つまり斜面の傾斜を生かした精巧なつくりが興味深い。ところがこれは、フィエーゾレにとって見れば、"新しいほうの"遺跡なのだ。

写真左:C「古代ローマの劇場」、右:D「エトルリアの要塞壁」

ここでもっとも重要な歴史的遺構は、彼らの起源といわれるエトルリア期のものになる。エトルリアとは、今のトスカーナ州を中心とした中部イタリアの古称。フィエーゾレは、重要なエトルリア都市国家のひとつであった。保存の行き届いた考古学エリアに入ると、北の下り斜面一帯に遺跡が広がっている。劇場のほか、神殿や浴場などエトルリア期とローマ期の遺跡が共存している。それらの文明が、同じ場所に生きていたことの証だ。
古代エトルリア期のフィエーゾレでは、すでに要塞化が始まっていた。考古学エリアの北端には、エトルリア期の威圧感のある石壁が直線状に伸びている。巨大な切石が積み上げられたもので、二千年以上も前のものとは思えない技術がそのままに保存されている(写真D)。防御のための要塞壁が、フィレンツェとは逆の方角に築かれている点に、ふと考えさせられる。これが築かれた当時、後の天敵となるフィレンツェは、まだ生まれてさえもいなかったのだ。

●クライマックスは丘の上から望むフィレンツェ全景
西の丘の頂点には、14世紀建立のサン・フランチェスコ教会が立っている。ここは、エトルリア〜ローマ期にかけて古代のアクロポリス(聖域)であったという。急な坂道を、息を切らしながら登りきることで、おのずと神聖さが感じられる小高い場所である。古代宗教からキリスト教の時代に移っても、聖なるトポス(場所性)がずっと踏襲されてきたわけだ。この丘を足で登りながら、旅人たちはフィレンツェの感動的な全景を眺めることになる。これこそが、フィエーゾレへの旅のクライマックスとなろう(写真E)。

また、フィエーゾレの持つもう一面は、別荘地であるという点だ。丘の斜面に多くのヴィッラが立ち並ぶ。19世紀、特にイギリス人たちに愛されてきた。フィレンツェへゆっくりと来る機会に恵まれたなら、日帰りではなく、一泊ぐらいはぜひフィエーゾレにも滞在してみて欲しい。なぜなら、朝と夕方の時間帯にこそ、フィレンツェの全貌がくっきりと美しく浮かび上がるからだ。夏の暑い時期にはなお、盆地のフィレンツェとの気候の差がはっきりとする。フィエーゾレの風情を感じたいのなら、ヨーロッパ避暑客のごとく、ゆったりとした時間を過ごし、涼しい風の吹く丘の上にただ立ってみることである。   

写真左:E「フィエーゾレから望むフィレンツェ全景」
右:F「再生を終えたばかりの中心広場 (正面に見える建物が現フィエーゾレ役所、プレトリオ館)」

●再生事業を終え生まれ変わった中心広場
最後に、中心広場について再び触れたい。現在ピアッツァ・ミーノと呼ばれているこの広場は、再生事業を終えたばかりだ。この広い公共オープン・スペースは、近代になって他の多くのイタリアの広場と同じように、悲惨な運命を迎えていた。'70年代には、ただの駐車場と化していたのである。そこで町の行政が立ち上がり、調査・計画から約10年の歳月を経て、車を追い出し、人間のための都市空間として甦った(写真F)。工事中に古代遺跡もさらに見つかり、それらもまた再生プロジェクトの中に盛り込まれた。中心広場の再生によって、旅人たちに与える印象も大きく変わっている。長い間、駐車場そして工事現場と化していた中心広場が生まれ変わり、おおやけに竣工式を迎えたのは、ほんのつい最近、2009年3月14日のことである。その日、私は、その広場に立っていた。今後の将来も期待される、トスカーナで最も古くて新しい町、それがフィエーゾレなのだ。

"Viaggiare nei centri minori della Toscana " No.1 Fiesole - Arch. Akiko Sugesawa

トスカーナの小都市を旅する  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

1999年よりトスカーナの丘にたたずむ小さな中世の町に暮らす。イタリア政府給費生としてプーリア地方バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97)。これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。翻訳にパルマ大学A.マンブリアーニ教授「イタリアにおける建築設計と研究の方法上の変遷」他。
2007年より日本の旅行会社と提携し、イタリア各地に住んで旅した経験とパーソナリティを生かして、独自のスタイルで旅企画&現地コーディネートに取り組む。トスカーナを拠点にメッセージ性の高いブログ記事を発信し続け、異色の存在として注目度が高い。
* * * 旅行分野における主な活動 * * *
プロフィールURL http://www.webtravel.jp/cgi-bin/consultant.cgi?PID=932
ブログURL http://blog.webtravel.jp/partner52/
E-mailアドレスはこちらから

フィエーゾレ Fiezole 関連データ
Dati
■標高 295m/フィエーゾレ市 (フィレンツェ県)人口 14,236人 (2007年現在)

■現地交通機関によるアクセス
フィレンツェの鉄道駅サンタ・マリア・ノヴェッラ駅よりフィエーゾレ行きバスで約30分

■フィエーゾレ観光情報局 Ufficio Informazioni ed Accoglienza Turistica
Via Portigiani 3, Fiesole
Tel.055 598720; 055 5978373   Fax 055 598822
www.comune.fiesole.fi.it
中心広場の竣工式の様子 Inaugurazione Piazza Mino
http://www.comune.fiesole.fi.it/
contenuti/foto/Inaugurazione_piazza_mino/inaugurazione_piazza_mino.htm

文化および博物館に関して Servizio Cultura e Musei
http://www.fiesolemusei.it/

■考古学エリアArea archeologica
Via Portigiani 1
入場時間 9:30 〜19:00(夏季) 9:30 〜17:00(冬季、火曜休)
入場料 10ユーロ

■コスタンティーニ考古学出土品収蔵館 Museo Civico - Antiquarium Costantini
Via Portigiani 1 (考古学エリア内)
古代ギリシャ、植民地ギリシャ、エトルリアの陶器コレクションを展示。
※ 考古学エリアの入場券にて拝観ができる。

■バンディーニ美術館 Museo Bandini
Via Dupre' 1
主に12〜14世紀のフィレンツェおよびトスカーナ派の絵画を展示。
※ 考古学エリアの入場券にて拝観ができる。
「トスカーナの小都市を旅する」連載に寄せて
著者からのメッセージ


トスカーナといえば、州都のフィレンツェのみを駆け足で訪れる人が今もまだ少なくありません。フィレンツェの所有する歴史文化遺産は素晴らしく、いくら見ても見切れないもの。でも、その一方で、都会的な騒々しさや溢れかえる観光客に圧倒されてしまうこともあるでしょう。そういったときには、気晴らしに小さな町を訪れてみてはいかがでしょうか。トスカーナには、魅力ある小さな町がたくさんあります。意外なことかもしれませんが、多くのイタリア旅行者たちが、そういった町での散策が、旅の一番の記憶として印象に残っていると口をそろえて言うのです。この連載では、ゆったりと静かに味わうことのできる、"トスカーナらしさ"を存分に残している中小規模の町をいくつか紹介していこうと思います。私の専門である建築・都市の視点を取り入れ、旅人たちをトスカーナにいざないます。そしてなお、"ここに住む者ならでは"のテイストを感じ取っていただければ、幸いです。

今後、記事掲載を予定している都市一覧(順不同)
○ ピサ  ○ ルッカ   ○ アレッツォ   ○ シエナ  ○ サン・ジミニャーノ
○ モンテ・プルチャーノ&ピエンツァ  ○ ヴォルテッラ  ○ マッサ・マリッティマ
○ ピティリアーノ 
2009年4月
菅澤彰子





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