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トスカーナの小都市を旅する
15 gennaio 2010

第5回 マッサ・マリッティマ   マレンマの丘にひっそり佇む珠玉の町
  

文・写真/菅澤彰子 
トスカーナ一帯には、毎年雪が降り積もるというわけではない。山は白く染まっても、町は雨、ということがよくあるものだ。ところがこの冬、クリスマス前後の大寒波により、トスカーナにも広く雪が何度か舞い降りた。比較的温暖なことで知られるトスカーナの海岸沿いのマレンマ地方もまた、白く染め上げられ、何年ぶりかの厳しい冬を経験した。今回は、そのマレンマの丘の町、マッサ・マリッティマを訪れよう(写真A)。

トップ写真:@ 独特な演劇性を持つ大聖堂のファサード(正面)と大階段
写真左:A雪景色に染まるマッサ・マリッティマの旧市街、右:大聖堂広場のクリスマスイルミネーション2009

●旅人を迎える荘厳な大聖堂
「マリッティマ(海の)」という形容詞から、海辺の町かと想像されるが、実際は海岸から内陸へ20kmほど入ったところにある。マッサ・マリッティマという町は聞いたこともない、という人がほとんどだろう。私も14年前、仕方なくこの町へ行かなければならないことにならなければ、まったく知らないはずであった。何しろガイドブックにも載っていない。当時は、インターネットも普及していないから、調べようもない。日本を発つ前、いったいどんなところなのか、ある識者に尋ねてみた。すると、「ああ、天国みたいなところだよ」と満面の笑みをたたえて言う。それでもまだ不安を胸に抱えたまま、ローマからの列車の中で、同席した人に聞いてみた。「ああ!素晴らしいドゥオモ(大聖堂)があるよ」と感慨深げに言う。私の期待はますます高まった。

そうしてたどり着いた初対面のマッサ・マリッティマは、決して私の期待を裏切らなかった。荘厳な大聖堂Duomoが出迎えてくれた。斜めのアングルと大階段が独自性をかもし出している(写真@)。そのころの私はすでに、イタリアのほうぼうを旅して回っていたので、なぜこんなにも素晴らしい町がほとんど知られていないのかが、むしろ不思議でならなかった。鉱山資源によって、古くから潤ってきたこの町は、中世にはシエナに敵対視されるほどの有力な独立共和国だっただけに、価値ある文化的遺産を数多く残している。

●今も生きる中世の演劇的な都市空間
さて、時は流れて2009年のナターレ(クリスマス)。広場にはツリーが飾られ、夜には街全体にイルミネーションが点った。手がかじかむような寒い夜だというのに、広場を散策する人が絶えない。寒くても人々を街へと誘う、そんな魔法じみた力がナターレにはあるのだろう。中世の演劇的な都市空間だからこそなお、それに輪が掛けられるようだ(写真B)。

広場からは何本か道が伸びているが、丘を一気に駆け上がるヴィア・モンチーニVia Monciniは、心臓破りの坂だ。広場からは緩やかな坂にも見えるが、勾配は徐々に急になる(写真C)。ワインなど地元の名産品やアーティストも工房を構える魅力ある通りなので、休み休みでも、ぜひとも歩いて登りきりたい。やがて、モニュメンタルな要塞壁が目の前に聳えてくる。この部分は、独立共和国時代にここを制したシエナによって、14世紀に要塞強化されたもので、シエナの白と黒の紋章が刻まれている。

写真左:C丘の上へ一気に駆け上がる坂、ヴィア・モンチーニ
右:D賑わいを見せる冬のワイン試飲会Calici d'Inverno (F.Costagli氏より写真提供)

●スローフードの理念から生まれた「スローシティ」
マッサ・マリッティマの魅力は、過度に観光ずれしていない点にもあろう。何百年もそこでそうしてきたように、ひっそりと丘の上に佇んでいる。しかしその背後で、時間をかけてじっくりと取り組まれてきた観光推進の流れがある。大都市に見られるような、消費型の忙しい旅行ともまた違った、新しい旅のかたちが興味深い。

マッサ・マリッティマを拠点とするスローフード・モンテレージョ Slow Food Monteregioは、スローフード活動が盛んなことで知られる。彼らが中心となって開催されるイベントで、ナターレ前に恒例となっているのが、「冬のワイン試飲会Calici d'Inverno」である(写真D)。これが、夏だと「星のワイン試飲会Calici di Stelle」となるから面白い。つまり、旧市街のあちこちに試飲会場が散りばめられ、星空の下のワインを味わう。石弓競技の地区対抗戦バレストロBalestro del Girifalco、荘厳な大聖堂を背景に行われる野外オペラLirica in Piazza、珍しい鉱石の見本市Mostra Mercato del Mineraleなどとともに、夏を代表する風物となっている。

また、スローフードの理念から生まれた「チッタズロー(スローシティ)Cittaslow」に選出されているため、この町の価値は国際的にも認められつつある。そして、イタリア旅行協会Touring Club Italiano公認の「バンディエラ・アランチョーネ(オレンジの旗)Bandiera arancione」にも近年連続して選ばれていることは、小さいながら観光の町としての質の高さを示すものである。

写真左:E重要な中世の修道院のひとつ、中心となる聖フランチェスコ教会
右:F青空に映える大聖堂の後陣と広場周辺の遠景

●ゆったり滞在型の旅に最適な場所
ここでは、ゆったり滞在型の旅を楽しむ人々が着実に増えている。逆に言えば、この町は、忙しい旅人にはあまり向いていないということになろう。何かを見てやろうと躍起になっている人にも、旅の恩恵を授けるものではない。この町の良さを知るには、ある種のメンタリティーが必要ではなかろうか、という気がしてくる。

中世の要塞技術や各派の修道院など、歴史的モニュメントも興味深いものが多い(写真E)。建築や都市空間を見れば、専門家たちの好奇心をも満足させるだけのものがある。しかし、知識は必ずしも要らないと思う。何も考えずに、そのたたずまいをあるがままに満喫すればいい。絵画的な風景を目にし、中世の都市空間を体感するのが、ここを旅する一番の醍醐味だ。

とりわけ、夏の気候が良い。広場の大階段に腰掛けて、ジェラートを食べるのがいい。毎年のように、この丘で夏のヴァカンスを過ごすイタリア国内外の欧州人たちは少なくない。リピーターが多いというのも、ここを訪れる旅人たちの特長であろう。そうした彼らが、この町を天国と思っているかどうか、そこまでは無論、知る由もないのだが(写真F)。

"Viaggiare nei centri minori della Toscana " No.5  Massa Marittima - Arch. Akiko Sugesawa

トスカーナの小都市を旅する  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

1999年よりトスカーナの丘にたたずむ小さな中世の町に暮らす。イタリア政府給費生としてプーリア地方バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97)。これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。翻訳にパルマ大学A.マンブリアーニ教授「イタリアにおける建築設計と研究の方法上の変遷」他。
2007年より日本の旅行会社と提携し、イタリア各地に住んで旅した経験とパーソナリティを生かして、独自のスタイルで旅企画&現地コーディネートに取り組む。トスカーナを拠点にメッセージ性の高いブログ記事を発信し続け、異色の存在として注目度が高い。
* * * 旅行分野における主な活動 * * *
プロフィールURL http://www.webtravel.jp/cgi-bin/consultant.cgi?PID=932
ブログURL http://blog.webtravel.jp/partner52/
E-mailアドレスはこちらから

マッサ・マリッティマ Massa Marittima 関連データ
Dati
■標高380m/マッサ・マリッティマ市(グロッセート県)人口8,842人 (2007年現在)

■現地交通機関によるアクセス
ピピサから列車にて約1時間のフォッローニカFollonica駅よりバスで約30分。
シエナやグロッセートからもバスがあるが、いずれも本数は少ない。

■観光情報局 Ufficio Turistico A.Ma.Tur
Via Todini 3/5
Tel. 0566.902756
Fax 0566.940095
www.altamaremmaturismo.it

■博物館総合案内所Sistema dei Musei
Piazza Garibaldi
Tel. 0566.902289
Fax 0566.902052
www.coopcollinemetallifere.it/musei

■考古学博物館 Museo Archeologico
Piazza Garibaldi
見学時間は時期により異なる
4月〜10月/ 10:00-12:30 15:00-19:00
11月〜3月/ 10:00-12:30 15:00-17:00
休館日 月曜
入場料 3,00 ユーロ

■聖宝物博物館 Museo di Arte Sacra
Complesso Museale di S.Pietro all'Orto,
Corso Diaz 36
4月〜9月/ 10:00-13:00 15:00-18:00
10月〜3月/ 11:00-13:00 15:00-17:00
休館日 月曜
入場料 5,00 ユーロ

■鉱山博物館 Museo della Miniera
Via Corridoni
見学はガイド付き。
4月〜10月/ 10:00, 11:00, 12:00, 12:45 15:30, 16:30, 17:00, 17:45
11月〜3月/ 10:00, 11:00, 12:00, 12:45 15:00, 16:00, 16:30
休館日 月曜
入場料 5,00 ユーロ (同チケットにて、鉱山歴史産業博物館Museo di Arte e Storia delle Miniereの入場料が無料となる)
「トスカーナの小都市を旅する」連載に寄せて
著者からのメッセージ


トスカーナといえば、州都のフィレンツェのみを駆け足で訪れる人が今もまだ少なくありません。フィレンツェの所有する歴史文化遺産は素晴らしく、いくら見ても見切れないもの。でも、その一方で、都会的な騒々しさや溢れかえる観光客に圧倒されてしまうこともあるでしょう。そういったときには、気晴らしに小さな町を訪れてみてはいかがでしょうか。トスカーナには、魅力ある小さな町がたくさんあります。意外なことかもしれませんが、多くのイタリア旅行者たちが、そういった町での散策が、旅の一番の記憶として印象に残っていると口をそろえて言うのです。この連載では、ゆったりと静かに味わうことのできる、"トスカーナらしさ"を存分に残している中小規模の町をいくつか紹介していこうと思います。私の専門である建築・都市の視点を取り入れ、旅人たちをトスカーナにいざないます。そしてなお、"ここに住む者ならでは"のテイストを感じ取っていただければ、幸いです。

今後、記事掲載を予定している都市一覧(順不同)
○ ピサ  ○ ルッカ   ○ アレッツォ   ○ シエナ  ○ サン・ジミニャーノ
○ モンテ・プルチャーノ&ピエンツァ  ○ ヴォルテッラ  ○ マッサ・マリッティマ
○ ピティリアーノ 
2009年4月
菅澤彰子





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