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トスカーナの小都市を旅する
15 giugno 2009

第2回 ピサ 「奇跡の広場」を生んだ中世海洋共和国
  

文・写真/菅澤彰子 
連載の第2回は、斜塔で有名な町、ピサを語ることにしよう。あまりに知名度が高いが、真の魅力を知られていない町だ。実際、フィレンツェから小一時間のピサへは毎年多くの日本人が訪れている。ところが、ピサの町を印象に残して帰る人はごくわずかであろう。なぜなら、あいかわらず、斜塔だけを目指して行く人が多いからだ。

●世界不思議建築の代表 ピサの斜塔
ピサの斜塔は、世界不思議建築の代表である(写真A)。傾きながら立っているという微妙な存在は、世界中の人びとの好奇心の的になってきた。「いや、傾きは実は狙っていたのだ・・・」というような逆の説もあるのだ。真相はわからないが、ローマのコロッセオと並んで、イタリアを象徴する名所旧跡としてインパクトが強い。12世紀に着工されたが、何度かの工事中断を経て、約200年後にようやく完成をみている。構造への影響は、完成後まもなくみられ、14世紀末にはすでに4本の円柱が取り替えられたという話だ。

トップ写真:@ 「ユネスコの世界遺産に指定されたドゥオモ広場」
写真左:A 「世界不思議建築、ピサの斜塔」、右:B 「散策の楽しい旧市街のメインストリート」

近年、傾斜の問題は深刻化し、安定化のために大掛かりな修復が行われてきたが、現在は人数制限付きで入場公開が再開されている。現在もまだ工事中で、2010年に完了する予定だ。実際に登ってみると、その傾きが体感できる。そして、上部で大きな鐘に出会うとき、これは鐘楼であったという事実を確認することになる。斜塔だけが抜きん出た存在として一人歩きしてしまったようだが、これはあくまで、脇役として建てられたものなのだ。

中世のピサは、海洋共和国として、地中海世界で繁栄を極めていた。そして、その富と誇りをかけて、新しい大聖堂の建設という偉業に踏み切ったのである。海洋都市らしく異国の息吹を取り入れ、後に"ピサ様式"と呼ばれる独特の新しいロマネスクスタイルさえ生み出している。大理石を基調とした輝かんばかりの荘厳なる大聖堂の次に建てられたのは、円形の大架構を持つ洗礼堂である。斜塔は、その次の産物だ。続いて共同墓地などの建築物が付属されている。これらのいずれも素晴らしい価値を持つモニュメント(記念碑的建造物)の集合が、世界的に稀に見る広場として、1987年ユネスコの世界遺産に指定されたのだ(写真@)。ドゥオモ広場、またの名を"ピアッツァ・デイ・ミラーコリ(奇跡の広場)"という。

写真左:C 「アルノ川岸"ルンガルノ"の街並み」、右:D「中世海洋共和国の旗を掲げる川沿いのパラッツォ(館)」

●歩いて「奇跡の広場」を目指そう
鉄道駅からはバスで行く旅行者が多いようだが、せっかくこの広場を目指すなら、歩くのが楽しい。イタリアの旧市街はどこも交通制限がされているが、ピサの鉄道駅近く"コルソ・イタリア"から始まるメインストリートは、歩行者と自転車のための空間として、実に生き生きとしている。(写真B) ショーウィンドーやオープンカフェ、街の魅力が溢れている。この歩行者天国を北へ進むと、ふと視界が開け、とうとうと流れる幅の広い川に出る(写真C) 。アルノ川だ。フィレンツェの川として知られるアルノは、その下流でピサをも育んできた。ピサの特徴は、川を挟んで両岸に町が形成されてきた点である。まさに、町の中心を川が流れる。その真ん中にかかるのが、"ポンテ・ディ・メッツォ"、文字通りの中央橋である。                     

橋のたもとには現市庁舎が置かれ、今も重要な場所だ。さまざまな祭りの拠点となるのが川と橋であり、今年の6月には、中世の4大海洋共和国の手漕ぎボートレース"レガータ・ストーリカ"が開催となった。古き海の都を順繰りに行われる祭りは、そもそも1954年にピサで始められたものだ。歴史的繁栄の記憶を呼び戻すこの祭りを前にして、華やかなパラッツォ(館)が立ち並ぶ川沿いに、4つの中世海洋共和国の旗が掲げられた。(写真D: 左から、アマルフィ、ピサ、ジェノヴァ、ヴェネツィアの順)。

●新視点を与える斜塔から見るピサの景色
ピサの旧市街には、人びとの生活に根付いてきた小さな古い教会がちりばめられている。中世の住宅形式では、特徴的な"カーザ・トッレ"と呼ばれる、細長く上へ伸びる塔型のものが発達した。フィレンツェの支配下に入る16世紀には、中世からの政治の中心であった広場が再構成された。G.ヴァザーリの設計によってモニュメンタルな都市空間に生まれ変わったのが、"ピアッツァ・デイ・カヴァリエーリ"である(写真E)。こうした都市空間を見ることで、ピサの印象もまた変わってくることであろう。

写真左:E「メディチ家の支配下で再構成された広場」、右:F「斜塔から望むピサの旧市街の全景」

最後に、ピサに対する視点の転換として、とっておきの方法を伝授しよう。やはり、何より斜塔に登ってみることだ。ピサのイメージとして強く焼きついている斜塔に登ってしまえば、そのものは見えない。だからこそ、新たな視野とイマジネーションが果てしなく広がってくるはずだ(写真F)。

●ガリレオを産んだ学問都市ピサ
斜塔の頂上から、ガリレオ・ガリレイが落下の物理実験をしたという逸話は有名である。これもどうやら本当ではないらしいのだが、天が回っていると信じられていた世に生きながら「いや、地球が回っている」とする地動説を唱えた人物が、この地の出身であることは確かである。16世紀末にピサの大学で医学を学び始めた若者が、やがて「天文学の父」と称される人物となった。14世紀創設のピサ大学は、イタリアの中でも最も古い大学の一つである。共和国繁栄の産物である大学という存在もまた、以降、ピサの都市としての地位を常に持続させてきた重要な要素であるといえよう。

最初の天文観測から400年が経つという今年、2009年はガリレイ年に記念指定され、ピサではさまざまな催しが行われている。文化・科学・歴史・芸術の多岐にわたるもので、学問都市としての知性を誇る、ピサ市行政の興味深いプロジェクトの一つである。

"Viaggiare nei centri minori della Toscana " No.2 Pisa - Arch. Akiko Sugesawa

トスカーナの小都市を旅する  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

1999年よりトスカーナの丘にたたずむ小さな中世の町に暮らす。イタリア政府給費生としてプーリア地方バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97)。これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。翻訳にパルマ大学A.マンブリアーニ教授「イタリアにおける建築設計と研究の方法上の変遷」他。
2007年より日本の旅行会社と提携し、イタリア各地に住んで旅した経験とパーソナリティを生かして、独自のスタイルで旅企画&現地コーディネートに取り組む。トスカーナを拠点にメッセージ性の高いブログ記事を発信し続け、異色の存在として注目度が高い。
* * * 旅行分野における主な活動 * * *
プロフィールURL http://www.webtravel.jp/cgi-bin/consultant.cgi?PID=932
ブログURL http://blog.webtravel.jp/partner52/
E-mailアドレスはこちらから

ピサ Pisa 関連データ
Dati
■標高 4m/ピサ市 (ピサ県都)人口 88,988人 (2007年現在)

■現地交通機関によるアクセス
フィレンツェより列車にて約1時間

■ツーリストポイントinformazione e Accoglienza Turistica(I.A.T.)
鉄道駅前 Stazione
Piazza Vittorio Emanuele U, 13 Tel: 050 42291
ドゥオモ Duomo
Piazza dei Miracoli Tel: 050 560464
空港内 Aeroporto
c/o Aeroporto Galilei Tel: 050 503700

■ピサ観光情報局 AGENZIA PER IL TURISMO DI PISA
Via Matteucci - Galleria Gerace 14
Tel: 050-929777 Fax: 050-929764
http://www.pisaturismo.it/site/home.asp

■ガリレイの天体観測400年を記念するイベントの公式サイト
http://www.galileoapisa.it/sito/
イベントプログラム一覧
http://www.galileoapisa.it/sito/programma.html

■ピサ首座大司教教会財産管理局 L'Opera della Priziale Pisana
Piazza Duomo 17
Tel: 050 3872210 Fax: 050 560505
http://www.opapisa.it/

■ドゥオモ広場 Piazza Duomo (Piazza dei Miracoli)
季節によって各建物の開館時間が異なる。4月〜9月のスケジュールは主に次のとおり。
斜塔 Torre: 8.30 - 20.30   大聖堂 Cattedrale: 10.00 - 20.00
洗礼堂Battistero, 共同墓地Camposanto, Museo dell'Operaドゥオモ付属博物館,
シノピエ(下絵)美術館Museo Sinopie: 8.00 - 20.00
マルチメディア(視聴覚)室 Sale Multimediali: 11.30 -13.30 / 14.30 - 16.30
※6月中旬から8月末日までは、斜塔などの夜間入場も行われる。
※斜塔の入場見学には誘導ガイドが同行し、グループ単位で行われる。見学時間は30分。8歳以上の入場が認められ、心臓疾患や、体力に自身のない人には勧めていない。
ひとり15ユーロのチケット購入時に入場時間が刻印される(事前予約も有料で可)。
※建物への入場はすべて有料だが、10歳以下の子供や正当な研究目的の見学者だけでなく、障害者を優遇する配慮がある。障害者およびその同伴者(障害者1人につき1人)に対して、ドゥオモ広場内の建物の入場を無料としている。


「トスカーナの小都市を旅する」連載に寄せて
著者からのメッセージ


トスカーナといえば、州都のフィレンツェのみを駆け足で訪れる人が今もまだ少なくありません。フィレンツェの所有する歴史文化遺産は素晴らしく、いくら見ても見切れないもの。でも、その一方で、都会的な騒々しさや溢れかえる観光客に圧倒されてしまうこともあるでしょう。そういったときには、気晴らしに小さな町を訪れてみてはいかがでしょうか。トスカーナには、魅力ある小さな町がたくさんあります。意外なことかもしれませんが、多くのイタリア旅行者たちが、そういった町での散策が、旅の一番の記憶として印象に残っていると口をそろえて言うのです。この連載では、ゆったりと静かに味わうことのできる、"トスカーナらしさ"を存分に残している中小規模の町をいくつか紹介していこうと思います。私の専門である建築・都市の視点を取り入れ、旅人たちをトスカーナにいざないます。そしてなお、"ここに住む者ならでは"のテイストを感じ取っていただければ、幸いです。

今後、記事掲載を予定している都市一覧(順不同)
○ ピサ  ○ ルッカ   ○ アレッツォ   ○ シエナ  ○ サン・ジミニャーノ
○ モンテ・プルチャーノ&ピエンツァ  ○ ヴォルテッラ  ○ マッサ・マリッティマ
○ ピティリアーノ 
2009年4月
菅澤彰子




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