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15 Novembre 2021
![]() Italia, Viaggio in tram 第10回 (最終回) シチリア・ヴェネトなどで8都市が新たに復活 ボローニャやピサなど計画中の都市も目白押し 市川嘉一 |
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![]() ●復活の軌道に入ったイタリアのトラム 本連載の第1回目(「トラム・ルネサンス」)が最初にアップされたのは2011年11月。それからちょうど10年が経過した。かなりの長丁場になってしまったが、この間にもイタリアの都市では新たにトラムが復活したり、路線網を広げたりする動きが相次いでいる。持続可能な都市交通に対してのイタリア政府の強力な予算措置に加え、EU(欧州連合)が新型コロナウィルス感染対策の一環として打ち出した回復プロジェクト基金が後ろ盾になっている。トラムの新規導入ではこれまでヨーロッパ主要国の中では後塵を拝していたイタリアでも着実に「トラム・ルネサンス(復活)」の軌道に入ってきたと言えるだろう。 トップの写真:@パレルモ中央駅前に到着した1号路線。すっきりとしたホワイトの外観デザインが特徴=2018年6月8日撮影
今後の動きも目が離せないだけに連載を続けたいところだが、10回目となる今回でとりあえず最終回としたい。締めくくりとして2000年以降、イタリア国内で新たに復活したシチリア、ヴェネト、サルデーニャなど各州にある8都市(フィレンツェは第2回、第3回で掲載済みのため、その後の続報)を素描風に紹介した後、建設が計画されているボローニャやレッジョ・エミリア、ピサ、トレント、ボルツァーノの各都市にも触れたい。
Aイタリア・トラムのまち一覧
<シチリア州メッシーナ> ●イタリアで最初の現代トラム まずは、イタリア最大の島であるシチリアに目を向けてみよう。シチリア島(州)東端の都市、メッシーナ(人口約24万人)。2003年4月にイタリアで初めて車両を含めた現代的なシステムを持つトラムとして復活開業した都市として知られる。
写真下左:Bメッシーナ海峡の海岸線に沿って走るトラム=2018年6月5日撮影
写真下右:C北側終点の州立博物館前に到着したトラム=2018年6月5日撮影
メッシーナも1917年から1951年まで旧来型のトラムを走らせていたが、その後50年以上、トラムのないまちだった。復活に当たってはシチリアを含めた経済的に困窮している国・地域に対するEU(欧州連合)の財政支援が大きな弾みとなった。 路線は、メッシーナ海峡の海岸線に沿って市の南北地域を結ぶ7.7キロ(電停18)。北側起終点はアンヌンツィアータ(Annunziata)地区にある州立博物館(Museo)で、南側の起終点は路線バスのターミナルがあるガッツィ(Gazzi)地区のボニーノ(Bonino)。真ん中あたりにあるイタリア鉄道のメッシーナ中央駅前にも電停がある。同駅前には南北両方面から来たトラムが半円状に回るループ状の線路が敷かれている。なお、トラムはメッシーナの主力の公共交通であるバス路線網の1つに位置付けられ、系統番号は28番となっている。
写真下:D南側起終点のポニーノに到着した車両は折り返しで博物館方面に向けて出発する=2018年6月5日撮影
写真下:Eメッシーナ中央駅前の電停には南北両方面から来たトラムが半円状に回るループ状の線路が敷かれている=2018年6月5日撮影
南側の起終点は2009年4月に1電停間ながら延伸した。アルストム・フィアット製の低床車両であるシティウエイ(Cityway,Serie6000)が走行、全区間の所要時間は40分。
●新市長が就任後に廃止表明したが、踏ん張る
写真下左:F平日の夕方に乗った南側方面の車両には数多くの乗客で混みあっていた。奥に見えるブルーのシャツを着た男性はチケットの検札係=2018年6月5日撮影
写真下右:Gメッシーナの街なかにあるドゥオーモ(大聖堂)。その横に高く聳える鐘楼には世界一大きいと言われるからくり時計が仕掛けられ、毎日正午に動き出す=2018年6月5日撮影
ドゥオーモなど観光スポットとして見どころが多いのは、南国情緒豊かなフェニックスの並木が茂る海岸沿いの北側方面だ。終点の州立博物館にはカラヴァッジョがメッシーナ滞在中に描いた2作品が展示されている。 ちなみに、イタリア本島からシチリア島に入る際の鉄道の玄関口であるメッシーナは中世にペストが西アジア方面からヨーロッパに上陸した最初のまちとしても知られる。
<シチリア州パレルモ> 路線距離は計17.5キロ(系統距離は23.3キロ)。運行は路線バスも運行するパレルモ市出資の運行会社、AMAT(Azienda Municipalizzata Auto Trasporti)が手がける。車両はイタリアでは唯一のボンバルディア社製の低床車両「フレクシティ・アウトルック」(Flexity Outlook)を使っている。 4路線のうち、唯一パレルモ中央駅前(南東口)から出ているのは、市南東方面に向かう1号路線(L1)。アクセスとして他の路線よりも乗りやすいので、トラムに乗るのなら、この1号路線をお薦めしたい。
写真下左:Hパレルモ中央駅前の電停=2018年6月9日撮影
写真下右:Iロチェッタ行き1号線の沿線風景=2018年6月9日撮影
1号路線はティレニア海岸沿いの住宅地域を走り、終点はロチェッタ(Roccetta)にある新規開発の郊外ショッピングセンター(SC)。この路線は3年前(2018年)に初めて乗り通したが、走行路はすべて車道に接している専用軌道で、沿線風景も商店街を通ったり、近くにティレニア海が見えたり、なかなか眺めは良かった。路線距離は5.5キロ。電停の数は15、所要時間は22分。
写真下左:Jロチェッタ行き1号線の車内=2018年6月9日撮影
写真下右:K1号線の終点ロチェッタの電停は広大なショッピングセンターの敷地内にある=2018年6月9日撮影
世界的にトラム建設は各地で広がっているが、近年の特徴の1つは郊外でのSC新設など商業開発を目的に路線が敷設されていることだ。パレルモの1号路線もそうした性格を持った路線のようだ。終点のロチェッタの電停は大規模な駐車場とともに広大な商業施設の敷地内にあった。 残る2号路線(4.8キロ)、3号路線(5キロ)、4号路線(8キロ)はいずれも市北部にあるイタリア鉄道の郊外駅ノタルバルトロ(Notarbartolo)を起点に北西部の住宅地域に向かう。ノタルバルトロ駅に行くには中央駅からAMATの路線バス(102系統)を使うのが便利だ。中央駅からノタルバルトロ駅までの所要時間は15分程度。 写真下:L2、3、4号線の起終点であるノタルバルトロ駅前。中央駅前との連絡はトラムも運行している同じAMATの102系統の路線バスが担っている=2018年6月9日撮影
3路線ともノタルバルトロから3つ目の電停であるジョット・ミリアッチョ(Giotto/Migliaccio)までルートは同じだが、同電停から2・3号路線と4号路線は枝分かれする。2・3号路線は終点までそのまま西側に進む、4号路線は南側に針路をとる。4号路線がユニークなのは環状線になっていることで、ジョット電停から上りと下りの線路が分かれ、輪ゴムを伸ばしたように線路が環状になっている。南側地域のポラッチ・カラタフィミ(Pollaci/Calatafimi)が折り返し点になっている。
写真下:M2,3号線と4号線の分岐点となっている電停ジョット・ミリアッッチョ=2018年6月9日撮影
この3路線はいずれも郊外の住宅地域に向かう路線であり、いわゆる観光ルートではない。ただ、トラムの沿線に共通することだが、地元住民らの暮らしぶりを知るにはよいかもしれない。
●さらなる路線網拡大を計画
写真下:Nパレルモのトラム路線図=2018年6月9日撮影
<ヴェネト州パドヴァ>
●2009年に鉄道駅を挟んだ南北路線を完成
運行機関はイタリア鉄道グループのヴェネト・バスイタリア株式会社(Busitalia Veneto S.p.A)。全路線距離は10.3キロ、電停の数は全部で26カ所ある。平日の日中は6分間隔と高頻度で運行している。所要時間は35分だ。鉄道駅から北側の旧市街では車と一緒に車道を走る併面軌道が多いが、路線全体の7割は車道と分離された専用軌道である。通常のトラムと同様、架線から集電(直流750ボルト)するが、鉄道駅南側にある旧市街の一部区間(Santo-Cavalletto,約600メートル)では架線集電はせずに、蓄電バッテリーで走る。
パドヴァとメストレに採用されたロール・インダストリー社(本社はフランス東部のストラスブール近郊)の「トランスロール」はクレルモン=フェランなどフランスの都市を中心に採用されてきた。パドヴァはロール社のゴムタイヤトラム「トランスロール」を世界で3番目に採用した都市(2番目は中国の都市)で、後述するメストレは4番目の都市だ。ちなみに、ゴムタイヤ式トラムはロール社のほか、トラム製造大手のボンバルディア・トランスポーテーション社が「トランスロール」に対し「TVR」というシステムの名称で製造している。こちらもナンシー、カーンのフランスの2都市が採用しているが、ナンシーではカーブでのガイドレールからの脱輪やモーターの脱落など製造の欠陥により事故が多発し、損害賠償を請求する訴訟問題にまで発展し、ボンバルディア社は製造を取りやめ、開発導入都市は先の2都市にとどまった。
パドヴァは元々、通常の鉄輪式トラムの導入を考えていた。今から30年以上前の1990年に建設プロジェクトが始動したが、その時は通常のトラムを3路線つくる計画だった。だが、古い貴重な建物が立地する旧市街の歴史的都心地区(Centro Storico)に鉄輪式のトラムを通したら、振動などで建物に損害を与えるという強い反対の声が市民の間から上がり、より損害の少ないということでゴムタイヤ式のシステムの導入を決めたという。このあたりの古都ならではの事情はフィレンツェによく似ている。
車体の長さは25メートル。幅は2.2メートル、高さは2.9メートル。見た目には車体は通常のトラムと何ら変わらない。普通なら2本あるところのレールが1本しかないことを別にすれば、パドヴァにも普通のトラムが走っていると思ってしまうはずだ(ゴムタイヤも裾の長い超低床車両のため見えない)。
沿線の見どころは鉄道駅前の電停(Stazione FS)から教会など有名な建築物が集まる旧市街を走る南側だろう。駅前広場を左に進み、間もなくして右折するとポポロ大通り(Corso del Popolo)、ガリバルディ大通り(Corso Garibaldi)と通りの名前を変えながら大通りを直進する。大通りの左側にはスクロヴェーニ礼拝堂のある広大なアレーナ庭園を眺めながら、旧市街方面に向かう。途中、目抜き通りのローマ通り(Via Roma)と並行する通りを走るが、右側にはカブール広場、パドヴァ大学、ラジョーネ宮や市庁舎のあるエルベ広場、さらにはドゥオーモ・洗礼堂と見逃せないスポットが集中する。さらに通りを左にゆるやかに旋回すると、サンタントニオ聖堂の威容が迫ってくる。
<ヴェネト州ヴェネツィア>
ベルガモのライトレールは2009年6月にベルガモ中央駅と北東部の渓谷地域アルビーノ間を結ぶT1路線(12.5キロ)として開業した。1953年まで走っていた鉄道線路などを活用したものだ。複線にしたほか、6駅を改良し、新たに10駅を設けた。ベルガモと郊外住宅地域を結ぶ生活路線で、街なかを走るトラムではない。車両は旧アンアサルド・ブレダ社製で全長約30メートル、4車体連接の超低床車両「シリオ」。
路線距離は9.9km。電停の数は16カ所で、うちベルガモ中央駅、ボルゴ・パラッツオ(Borgo Palazzo)、サン・フェルモ(San Fermo)の3つの電停はT1路線と共有するが、その後は北西方向に分岐し、1966年に廃線になったブレンバーナ渓谷電気鉄道(La ferrovia Elettrica di Valle Brembana)の路線跡を走る。
<その後のフィレンツェ>
そして、T1路線は2018年8月にサンタ・マリア・ノヴェッラ駅前から市北東部にあるフィレンツェを代表する大規模病院でフィレンツェ大学医学部の附属病院でもあるカレージ病院(Careggi)に延伸した。この延伸区間は当初、T3路線と呼ばれていた。2014年4月に市議会が計画を承認後、2015年に着工、2018年7月に開業した。
現在のフィレンツェのトラム沿線の多くは住宅街で、これといった観光スポットはないが、1系統のSMN駅から病院方面2つ目のフォルテッツァ(Fortezza)電停の前には16世紀築造の重厚な要塞(バッソ要塞)が聳える。病院近くのダルマツィア電停近くにある広場には平日でも野菜・果物や花などを売る市が立ち、風情があっていい。
●2系統は2019年に空港への新規路線として開業
サン・マルコ広場はフィレンツェの公共交通を運営するATAFの路線バスのターミナルになっているが、この一角にあるサン・マルコ修道院には有名なフラ・アンジェリコのフレスコ画「受胎告知」などがある美術館がある。このT1路線の東側延伸区間は開業後には観光ルートにもなるだろう。
このほか、T2路線の延伸として、ペレトーラ空港から北部方面のセスト・フィオレンティーノ(Sesto Fiorentino)に向かう7.4キロの路線や、レ・ピアージェからカンピ・ビセンツィオ(Campi Bisenzio)に向かうT4路線の5.4キロ延伸も計画している。市はこの2つの延伸のために4億5500万ユーロの建設財源を充ててもらえるよう、インフラ・交通省に求めている。
元々は2019年半ばまでに財源保障を申請した自治体が対象だったが、その後、2021年1月まで申請期間が延長された。それを後押ししたのがコロナ対策の1つとしてEUが打ち出した総額7500万ユーロの支援事業「Covid-19回復パッケージ」だった。イタリア政府の支援額にこのEU基金が上積みされたことで、予算措置が充実した。
こうした強力な財政支援を追い風に、トラムの復活に手を挙げる都市が相次いだのだ。以下、紹介するボローニャ、レッジョ・エミリア、ブレーシャ、ピサ、トレント、ボルツァーノ、コセンツァ(カラブリア州南部の都市)などだ。ちなみに、コセンツァを除けば、財政が比較的豊かな北・中部地域に集中している。
●ボローニャは悲願実現へ4路線、計57キロの大規模路線網を計画
PUMSによると、まず1号路線として最初に手を付けるのは「レッドライン」(Linea Rossa)。市西部地域のボルゴ・パニガーレ(Borgo Panigale)のエミーリオ・レピド・ターミナルと、北東部地域のカーブ(Caab)のボローニャ大学農学部(Facolta` di Agraria )を結ぶ16.5キロ(電停数34)。このうち、1.5キロ部分は北東部側の終点に近いミケリーノ(Michelino)地区の見本市会場への枝線となる。路線の大半は専用軌道で、沿線にはイタリア鉄道のボローニャ中央駅(FS Stazione Bologna Centrale)と接続する電停も置かれる。
●レッジョ・エミリアも南北縦断路線を計画
同市が2021年1月に発表した同市の持続可能な交通に関する都市計画(PUMS,Piano Urbano Mobilita` Sostenibile di Reggio Emillia) によると、南部住宅地域のリバルタ村(Villa Rivalta)と、工業団地や高速鉄道駅(Stazione Mediopadana AV)、高速道路(Autostrada)インタチェンジがある北部地域のマンカサーレ村(Villa Mancasale)を結ぶ路線で、途中、イタリア鉄道のレッジョ駅(Stazione FS-Reggiane)や市の中心街(centro)も通る。実現すれば、同市にとって公共交通の大動脈的な路線になる。
車両(16編成)を含めた投資額は2億8200万ユーロを積算。利用客数は当初、1日当たり2万2000人、中長期的には3万人を想定し、年間利用客数650万人のうち22%に当たる140万人はマイカー利用者からの移転と見込んでいる。
●ブレーシャ、地下鉄に加えトラムを2路線建設へ
1つは北西部のペンドリーナ(Pedolina)と南西部の展示場を結ぶ11.6キロ(電停は計24)。主に路線バスのルートをたどる。地下鉄のFSブレーシャ駅(Stazione FS)とサン・ファウスティーノ駅(San Faustino)の2駅と接続する。2029年3月の開業を目指している。
さらに、西部地域のヴァッレカモニカ(Vallacamonica)と、東部地域のボルナータ渓谷地域(Valle Bornata)を結ぶ2号路線も計画されているが、資金面の裏付けはまだない。
●ピサは鉄道駅と病院を結ぶ4.4キロの路線
今回新設するのはFSピサ駅と市内東側地域にあるチザネッロ病院総合医療センター(Presidio Ospedaliero di Cisanello)を結ぶ4.4キロ区間(電停数13)。トラムの建設に伴い、市内中心部を流れるアルノ川の橋の1つ、ヴィットリア橋(Ponte della Vittoria)をトラム・自転車専用橋に造り直す。また、終点となる病院の電停が置かれる計画の駐車ゾーンは多機能型のパーク&ライド拠点として生まれ変わるという。投資額は1憶2500万ユーロ。
●ボルツァーノは鉄道駅からY字型に2路線、歴史地区では架線レスに
●ボルツァーノ(ソプラボルツァーノ)
●トリエステ
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