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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Novembre 2019

Notizie dalla Biennale di Venezia

第30回  

第76回ヴェネツィア国際映画祭から 



中山エツコ
●カラフルなポスターと映像で華々しく開幕
8月28日から9月7日の11日間、ヴェネツィアのリド島では今年も華々しくヴェネツィア国際映画祭が開かれた。映画祭ポスターは、昨年と同じく国際的にも有名なイタリアの漫画家・イラストレーター、ロレンツォ・マットッティの作。今年は、空や水面を夢が飛んでいくようなカラフルなオープニングの映像も手がけている。  

トップの写真: @第76回ヴェネツィア国際映画祭会場風景   
写真下左:A第76回映画祭ポスター   写真下右:Bディレクターのアルベルト・バルベーラ氏 

●オープニング作品は是枝裕和監督の『真実』
今回の話題のひとつは、映画祭の開幕を飾るオープニング作品に日本映画が選ばれたこと。昨年、『万引き家族』でカンヌ映画祭のパルム・ドール賞に輝いた是枝裕和監督の初めての国際的なキャストによる『真実』である。カンヌでの活躍がめざましいが、初監督作品『幻の光』をヴェネツィアに出品して金のオゼッラ賞を受賞しており、ヴェネツィア映画祭とも縁がある。

写真下左:C 是枝裕和監督の『真実』   写真下右:D是枝裕和監督とカトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ

作品内でも国民的大女優を演じるカトリーヌ・ドヌーヴとその娘役のジュリエット・ビノシュの豪華な共演が注目の的であった。家族のあいだの嘘と真実、芝居と現実の生の境の曖昧さが軽妙に語られる本作は、受賞には至らなかったが、是枝監督ならではの家族の物語がフランス映画の衣をまとって、新鮮だった。ドヌーヴの演じるワガママでお高い大女優はどこか可愛らしかった。

●塚本晋也監督がコンペ部門審査員に
日本映画関係では、今年はコンペ部門の審査員として塚本晋也監督が参加、また俳優のオダギリジョーの初監督作品『ある船頭の話』が初めて日本からヴェニス・デイズ部門に出品された。

写真下:Eオダギリジョーの初監督作品『ある船頭の話』

公式イベントとして、バイヤーなどの関係者のための「ジャパン・フォーカス」も催され、『蜜蜂と遠雷』、『楽園』、『人間失格』、『カツベン!』の四作を上映、これらの作品の監督を交えてのシンポジウムも行われた。

写真下:Fコンペ部門の審査員 審査員長のマルテル監督(中央)らと並ぶ塚本晋也監督

●金獅子賞は『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督)
コンペ部門では、前評判の高かった『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督)が最優秀作品に与えられる金獅子賞に輝いた。バットマンの宿敵ジョーカーの誕生を物語る。これまでジョーカーを演じてきた名優たちの演技に対し、ホアキン・フェニックスがどのような役作りをするかが映画ファンの注目を集めていた。

写真下:G『ジョーカー』   

24キロもの減量をしてまで取り組んだホアキン・フェニックスのジョーカーは、どの場面でも痛々しさが胸に突き刺さる。社会に不満を持つ人々がクラウンに扮し、次第にその不満を暴力的行為に爆発させていく様子は、現実に起こってもおかしくない…とぞっとするものがあった。

●「ドレフュス事件」を扱うポランスキー監督作品が銀獅子賞受賞
銀獅子賞(審査員大賞)はポランスキー監督の『ジャキューズ(私は弾劾する)』が獲得。この作品については、コンペ部門審査員長のルクレシア・マルテル監督が、公式上映には出席しないと発言して物議をかもした。マルテル監督は、自国アルゼンチンで女性への暴力に反対する運動の第一線で活動しており、少女への性的暴行で有罪判決を受けたポランスキー監督の作品を拍手で祝う気にはなれない…ということだったが、最終的には、作品は作品として評価するという姿勢を通した。

 写真下:Hポランスキー監督の『ジャキューズ』

映画は、19世紀末のドレフュス事件を扱う。反ユダヤ主義のはびこるフランスで、ユダヤ人であるがためにスパイの嫌疑をかけられ、有罪判決を受けた軍人アルフレド・ドレフュスが、名誉を回復するまでの出来事を語っている。思えば、高校の世界史の教科書ではじめて知った史実だが、きちんと理解できたとは言えなかった。この映画のおかげで、時代の空気も感じとることができた。

厳しい刑を忍ばざるを得なかったドレフュス(ルイ・ガレル)と最後まで真実を追求して戦ったピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)の最後の淡々とした再会が印象的。タイトルは、文豪エミール・ゾラが裁判の誤りを指摘してドレフュスの不法な投獄を新聞上で告発した大統領宛の公開状、「私は弾劾する」からきている。  

●「反マフィアをめぐる現実」を描くイタリア作品に審査員特別賞
イタリア映画では、フランコ・マレスコ監督の『La Mafia non e piu quella di una volta(今どきのマフィアは…)』が審査員特別賞を受けた。マフィア撲滅運動の先端にあって暗殺されたファルコーネ、ボルセリーノの二人の判事の記念行事が行われているパレルモで、反マフィアの活動でも知られる写真家のレティツィア・バッタリアが市民の冷淡な態度に遭遇し、あるいは、この機会に怪しげな興行主がこれまた怪しげな歌謡大会を催すという、どこかシュールな反マフィアをめぐる現実を描いている。            

●最優秀男優賞はナポリを舞台にした作品主演のルカ・マリネッリ
また、ピエトロ・マルチェッロ監督の『マーティン・イーデン』の主演ルカ・マリネッリが最優秀男優賞のヴォルピ杯を獲得した。ジャック・ロンドンの自伝的小説の舞台をナポリに移した映画。きちんとした教育も受けていない若い船乗りが、上流階級の女性に恋をしてから上昇志向に燃えて作家を目指す物語だが、その激しさを十二分に感じさせる迫力の演技だった。

写真下:Iヴォルピ杯のルカ・マリネッリ出演の『マーティン・イーデン』

人間的なドラマの町ということだろうか、ナポリを舞台とするイタリア映画はほぼ毎年出品されている。公式受賞には至らなかったが、マリオ・マルトーネ監督の『Il sindaco del rione Sanita(サニタ町の町長)』も好評で、公式賞外のパジネッティ賞(イタリア映画記者組合による)を受けた。20世紀イタリアの最も重要な演劇人・劇作家の一人、ナポリのエドゥアルド・デ・フィリッポ作の演劇を映画化したもの。町内のいざこざを独自の正義感でさばいていく「町長」ことドン・アントニオの悲喜劇である。

●英女優ジュリー・アンドリュース等に栄誉金獅子賞
栄誉金獅子賞は、スペインのペドロ・アルモドヴァル監督と、『メリー・ポピンズ』、『サウンド・オヴ・ミュージック』などの古典的映画で知られるイギリスの女優ジュリー・アンドリュースが受賞。

写真下:Jペドロ・アルモドヴァル監督

アルモドヴァル監督は、31年前にヴェネツィア映画祭に出品した『神経衰弱ぎりぎりの女たち』が国際的に大きく注目されるきっかけになったのだが、ヴェネツィアでは脚本賞を得るにとどまり、大きな賞は取れなかった。「31年前に正当に評価されなかったという思いがあったが、これでようやく埋め合わせてもらった気がする」という監督の、感涙の授賞式だった。

●華やかなスターたちで賑わうリド島
今年もリド島には数多くの華やかなスターたちが姿を現した。
地球の運命に関わる大事件のなかで複雑な父親への思いを生きる宇宙飛行士を演じた『アド・アストラ』のブラッド・ピット。アイロニーに満ちた『ザ・ランドロマット-パナマ文書流出』で、事故で死んだ夫の保険金をめぐり、真実を突き止めるためにパナマまで乗り込む主婦を演じるメリル・ストリープ。

写真下左:Kブラッド・ピット  写真下右:Lメリル・ストリープ

若きスターでは、シェイクスピアの『ヘンリー四世』、『ヘンリー五世』を原作とする『キング』(コンペ外作品)でハル王子(ヘンリー五世)を演じるティモシー・シャラメがファンの歓声を集めた。同作品で共演している王妃キャサリン役のリリー・ローズ=デップとは実生活でも恋人同士だが、べたべたせずにやや距離を保って現れたのも好印象だった。          

写真下左:Mティモシー・シャラメ 写真下右:Nリリー・ローズ=デップ

その父親ジョニー・デップは、クッツェーの小説映画化でコンペ最後の作品だった『夷狄を待ちながら』で登場。エキセントリックな黒眼鏡の非情の将軍はぴったりの役だった。

写真下:O『夷狄を待ちながら』のジョニー・デップ 

●ミック・ジャガーが祭典の締め
祭典の締めは12年ぶりに映画に出演したミック・ジャガー。クロージング作品、イタリアのジュゼッペ・カポトンディ監督による『バーント・オレンジ・ヘレシー』(チャールズ・ウィルフォードの小説『炎に消えた名画』の映画化。コンペ外)で一癖も二癖もある、怪しい富豪のアートコレクターを演じた。

写真下:Pミック・ジャガー   


著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』、ウンベルト・エーコ著『ヌメロ・ゼロ』(以上、河出書房新社)、その他。


第76回ヴェネツィア国際映画祭データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:日程:8月28日- 9月7日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org
受賞: 金獅子賞(作品賞)=トッド・フィリップス監督『ジョーカー』(アメリカ合衆国)
銀獅子賞(審査員大賞)=ロマン・ポランスキー監督『ジャキューズ』(フランス、イタリア)
銀獅子賞(最優秀監督賞)=ロイ・アンダーソン監督『アバウト・エンドレス』(スウェーデン、ドイツ、ノルウェー)
ヴォルピ杯(最優秀女優賞)=アリアンナ・アスカリッド(『グロリア・ムンディ』、フランス、イタリア)
ヴォルピ杯(最優秀男優賞)=ルカ・マリネッリ(『マーティン・イーデン』、イタリア、フランス)
最優秀脚本賞=ヨン・ファン(『ナンバーセブン・チェリー・レーン』、香港)
審査員特別賞=フランコ・マレスコ監督『La Mafia non e piu quella di una volta(今どきのマフィアは…)』(イタリア)
マルチェッロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=トビー・ウォレス(『ベビーティース』(オーストラリア)
オリゾンティ賞(最優秀作品賞)=バレンティン・ハジアノビッチ監督『アトランティス』(ウクライナ)
栄誉金獅子賞=ペドロ・アルモドヴァル(映画監督、スペイン)/ジュリー・アンドリュース(女優、イギリス)

その他のヴェネツィア・ビエンナーレ情報 (www.labiennale.org)
-第58回ビエンナーレ国際美術展が開催中(5月11日-11月24日)
-第63回ビエンナーレ国際現代音楽祭が行われた(9月27日-10月6日)

写真提供 La Biennale di Venezia  


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