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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Luglio 2017

Notizie dalla Biennale di Venezia

第25回  

第57回 ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展 









中山エツコ
●企画展テーマは“Viva Arte Viva”(「芸術万歳」)
二年に一度の現代美術の祭典ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展が開催中だ。今年は開幕から3週間にして観客6万人を突破、2015年の前回と比べて23%増という記録的な人数になっている(前回の見学者総数は約50万人だった)。  

トップの写真: @国別パヴィリオン金獅子賞受賞のドイツ館『ファウスト』(アンネ・イムホフ)
写真下左:Aジャルディーニ会場 中央館   写真下右:Bジャルディーニ会場

第57回目の今回、ディレクターを務めるのは、パリのポンピドゥー・センターのチーフ・キューレーター、クリスティーヌ・マセル氏。企画展“Viva Arte Viva”(「芸術万歳」)は、不穏と混乱の増す世界にあってアートやアーティストの果たす役割を強調する。

1.9つのセクションからなる企画展
●中央館には「アーティストと本のパヴィリオン」

企画展は9つのセクションに分かれている。まず、中央館の「アーティストと本のパヴィリオン」。アーティストの仕事のしかたに焦点をあて、行動のためには閑暇が必要だとするアーティストたち(ムラデン・スティルノヴィッチ、フランツ・ヴェストら)の作品ではじまる。中央のホールでは、デンマークのオラファー・エリアソンのワークショップ『グリーンライト』が進行。

ヴェネト地方に滞在する移民・難民の人たちとのコラボで、エリアソンのデザインによる照明を制作していく。このセクションでは、書物をモチーフとした作品が並ぶほか、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンの著作をヒントに、アーティストたちの愛読書をリストアップした「わたしの蔵書」が展示されている。ボルヘス、カルヴィーノ、ベンヤミンなどの名が目立った。

写真下左:Cオラファー・エリアソンのワークショップ『グリーンライト』  写真下右:D『レイク・ヴァレー』(レイチェル・ローズ) 

同じく中央館の二つ目のセクション「喜びと恐れのパヴィリオン」には感情を中心に据えた作品が並ぶ。懐かしさと寂しさの入り交じる、アメリカの映像作家レイチェル・ローズの『レイク・ヴァレー』が印象的。

企画展はアルセナーレ会場に続き、第三部は個の域を超えて集団・共同体を考える「共有のパヴィリオン」。企画展部門で金獅子賞を得たドイツのフランツ・エルハルト・ヴァルターの“Wall Formation”がここにある。カラフルな布を使った、着られる彫刻。

写真下:E企画展部門で金獅子賞を得たドイツ“Wall Formation” (フランツ・エルハルト・ヴァルター)  

●夕日の美しい壮大な映像ではじまる「地球のパヴィリオン」
続く「地球のパヴィリオン」は、“The Tyranny of Consciousness”(チャールズ・アトラス)にはじまる。大スクリーンに映るいくつものフロリダの夕日が息をのむ美しさの壮大な映像だが、脇に置かれた秒刻みで進むカウントダウン掲示が、こちらを不穏な気持ちにさせる。自然と人工物が融合するミシェル・ブラジーの『靴のコレクション』は可愛らしさも植物のたくましさも感じる作品。一足一足見ていくと味わいもそれぞれで楽しい。

写真下左:F“The Tyranny of Consciousness”(チャールズ・アトラス)   写真下右:G『靴のコレクション』(ミシェル・ブラジー

●日本の美術家集団プレイや田中功起さんも出展
行為する日本の美術家集団プレイもここに参加している。1960年代から「制作」ではなく実際の「行為」を重ねてきた。会場には筏や家で川の流れに任せる『現代美術の流れ』、『家』の写真が展示され、元造船所であるアルセナーレの運河を旅した実際の「家」が、屋外スペースに到着していた。

写真下左:H『現代美術の流れ』(プレイ)   写真下右:I“Of Walking in Unknown”(田中功起)  

2013年に日本館を代表し、福島原発からの「距離」を作品化した田中功起さんも“Of Walking in Unknown”を出展。京都の実家からいちばん近い原発までの徒歩の旅を記録している。

●吊るしテント作品で始まる「シャーマンのパヴィリオン」
「伝統のパヴィリオン」を経て巨大な吊るしテントが現れると、「シャーマンのパヴィリオン」。ブラジルのエルネスト・ネト作のこの『聖なる場』のなかでは、内覧会中にはアマゾンのフニ・クイン族による、自然とのつながりを意識して負のエネルギーを遠ざける儀式も行われた。

写真下:J『聖なる場』(エルネスト・ネト) 

チリのエンリケ・ラミレスの映像作品『歩く男』は、天と地が交わるような幻想的な水面をどこまでも歩いていく男の姿を描いている。水平線の彼方の死の世界に向かう身も心も洗われるような旅。この世のものとも思えぬ光景は、標高3700メートルの高地にあるボリビアのウユニ塩原ということだ。

写真下:K『歩く男』(エンリケ・ラミレス)

●企画展の締めくくりは「時間と無限のパヴィリオン」
企画展は「ディオニュソスのパヴィリオン」、「色彩のパヴィリオン」(シェイラ・ヒックス作品のあふれる色彩のなかに飛び込みたくなる)と続き、広大なアルセナーレ会場の端っこの「時間と無限のパヴィリオン」が締めくくる。銀獅子賞の『公園のための音楽』(ハッサン・カーン)は、散策者にささやきかけるように音楽が漂う緑のスペースだった。

写真下左:L“Escalade Beyond Chromatic Lands”(シェイラ・ヒックス)   写真下右:M『公園のための音楽』(ハッサン・カーン)

2.国別パヴィリオン
●ドイツ館が『ファウスト』で金獅子賞を受賞

国別パヴィリオンのなかでは、アンネ・イムホフのドイツ館が金獅子賞を受賞した(『ファウスト』)。ガラスの床を張って重層的になった館内を歩く観客の間をぬって、パフォーマーたちが進む。暴力、抗争などを思わせる動き、それを見守る観客の反応を見ていると、そこに身をおく自分もどこかあり方が変わっていくような錯覚を覚えた。ドイツの経てきた過去を示唆するのか、現在の不穏な状況を表しているのか……。2時間続くパフォーマンスだが、金獅子賞と知らなかったら、行列に並ぶ根気はくじけていたかもしれない。パフォーマンスの一部分は外からも見ることができる。(写真:トップ写真@)

●日本館のテーマは『逆さにすれば、森』
日本館の出展作家は岩崎貴宏さん。『逆さにすれば、森』は、身近な素材を使い、エネルギー問題に悩む日本の光景を描いている。水面に姿を映すように浮かぶ優美な厳島神社、工業地帯の光景を身近から眺めることで観客も作品の一部となるユーモラスな「山と海」などが展示され、問題意識の高い、簡素にしてエレガントな空間だった。

写真下:NO日本館『逆さにすれば、森』(岩崎貴宏) 

●イタリア館は三作家に絞り好評
1900平米もの広さを誇るイタリア館(アルセナーレ会場)は、これまで多くの作家の作品がひしめいて散漫な印象を受けることもあったのだが、今年は三作家に絞って好評だった。人類学者エルネスト・デ・マルティーノの著作にちなみ、『呪術的世界』と題している。ロベルト・クオギの「キリストの模倣」は、食用ゼラチンを用いたキリスト像の制作から、それが腐敗してカビという生命に覆われ復活していく過程を見せる。ミラノ生まれのアデリタ・フスニ=ベイは地球の搾取について話し合う若者たちを映像でとらえ、アンドレオッタ・カロはがらんとした広大なスペースの天井を一面の水に反映させて無限を思わせる。            

写真下: Pイタリア館「キリストの模倣」(ロベルト・クオギ) 

●話題を呼んだニュージーランド館
多くのパヴィリオンで、物語性の高い映像作品を見た。話題を呼んだニュージーランド館(アルセナーレ会場)は、マオリ出身のリサ・レイハナによる“Emissaries”(使者たち)。19世紀初頭にキャプテン・クックの航海を描いたジャン=ガブリエル・シャルヴェの壁紙をもとに、ニュージーランドの人々と英国人の接触を虚実ないまぜにエンドレスに語っていく。

写真下:Qニュージーランド館の映像の元となった壁紙   

写真上:Rニュージーランド館 “Emissaries”(リサ・レイハナ)   

カルロス・アモラレスのメキシコ館は、アンリ・ミショー著の『襞のなかの人生』をタイトルに掲げ、オカリナにもなる新しい文字を発案・制作し、音楽、アニメーション、文字彫刻からなる複合的な作品を展示している。 映像の物語は、移民が悲劇に終わる内容で、ここでも他者との遭遇が扱われていた。 

写真下:Sメキシコ館『襞のなかの人生』(カルロス・アモラレス)   

●ギリシャ館は『ジレンマのラボラトリー』
ギリシャ館はゲオルゲ・ドリヴァスの『ジレンマのラボラトリー』。1960年代に行われた異種細胞移植の実験ビデオを発見したとして、その実験中に生まれた葛藤を、迷路の上に設置されたスクリーンで見せている。新しい種を受け入れるか、もともとある種の安全を守るか。亡命を扱った世界最古の文学作品とされるアイスキュロスの『救いを求める女たち』を下敷きにしている。結論が出ない最後のビデオには、大女優のシャーロット・ファンプリングも登場するのも驚きだった。

写真下: 21ギリシャ館『ジレンマのラボラトリー』(ゲオルゲ・ドリヴァス)   

アルヴァ・アールトの設計したフィンランド館では、『アールト原住民』(E・ニッシネン、N・メラーズ)と題して、フィンランド人の起源から未来をアイロニーを交えて語っている。

写真下: 22フィンランド館『アールト原住民』(E・ニッシネン、N・メラーズ)     

●数多くの展覧会がヴェネツイア中で開催
ビエンナーレ開会中は、数多くの展覧会がヴェネツィア中で開かれる。人気の高いものとして、原始の世界が現代と自然に溶け合うパラッツォ・フォルトゥーニの “Intuituon”、ダミアン・ハーストが十数年ぶりに行うパラッツォ・グラッシ、プンタ・デッラ・ドガーナの大々的な個展 “Treasures from the Wreck of the Unbelievable”を挙げておこう。

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』、ウンベルト・エーコ著『ヌメロ・ゼロ』(以上、河出書房新社)、その他。


第57回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:5月13日 - 11月26日(午前10時 - 午後6時 月曜休 9月30日までアルセナーレ会場は金・土に限り午後8時まで)
休日:月曜日、8月14日、9月4日、10月30日、11月20日
場所:ヴェネツィア、ジャルディーニ会場・アルセナーレ会場
サイト:www.labiennale.org
入場料:普通券25ユーロ(2会場に1回ずつ入場できる。離れた別々の日の入場も可)、48時間有効パス30ユーロ(2会場に何度でも入場可)
受賞:
栄誉金獅子賞=キャロリー・シュニーマン(アメリカ合衆国)
国別パヴィリオン部門 
-最優秀パヴィリオン 金獅子賞=ドイツ館(出展作家 アンネ・イムホフ)
-特別表彰=ブラジル館(出展作家 Cinthia Marcelle)
企画展部門
-金獅子賞=フランツ・エルハルト・ワルター(ドイツ)
-銀獅子賞(期待される若手作家)=ハッサン・カーン(英国生まれ、カイロで活動)
その他のヴェネツィア・ビエンナーレ情報
www.labiennale.org
-第57回ビエンナーレ国際美術展 2017年5月13日 - 11月26日
-ダンス・ビエンナーレ 2017年6月23日 - 7月1日
-第45回ヴェネツィア国際演劇祭 2017年7月25日 - 8月12日
-第74回ヴェネツィア国際映画祭 2017年8月30日 - 9月9日
-第61回ヴェネツィア国際現代音楽祭 2017年9月29日 - 10月8日


写真クレジット
写真R:写真提供 New Zealand Pavilion
写真S:写真提供 Mexico Pavilion
写真(21):写真提供 Greek Pavilion
写真(22):写真提供 Pavilion of Finland
その他の写真は筆者


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