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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Luglio 2018

Notizie dalla Biennale di Venezia

第27回  

第16回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展から  



中山エツコ
●「地球がクライアント」という概念が参加者の共通意識に
二年に一度のビエンナーレ国際美術展と交互に国際建築展が開かれるようになって、16回目を迎えた。アイルランドのグラフトン・アーキテクツを主宰するふたりの建築家、イヴォンヌ・ファレルさん、シェリー・マクナマラさんがディレクターをつとめる今回のテーマは「FREESPACE」-自由かつ無償の空間。ふたりのディレクターが建築展の全貌を見渡して、「地球がクライアント」という概念が参加者の共通の意識としてみられると言ったように、確かに環境を視野に入れた、さまざまなフリースペースへのアプローチが見られた。  

トップの写真: @イタリア館「群島イタリア」内部
写真下左:Aビエンナーレ代表パオロ・バラッタ氏とディレクターのイヴォンヌ・ファレルさん、シェリー・マクナマラさん  写真下右:Bアルセナーレ会場

●最優秀パヴィリオン金獅子賞はスイス館
最優秀パヴィリオン金獅子賞はスイス館の「スイス240:ハウスツアー」が受賞した。外からは見えない内部がとくに住居建築では重視され、建築雑誌でも写真で紹介されるのが常だが、空っぽのアパートメントを写すこれらの画像、信頼してもいいのだろうか……ということで、スイス館では、実際にアパート内部を訪問。すると、微妙な違和感を覚えはじめ、最後には体が大きくなったり小さくなったりする不思議の国のアリスになったような気分になる。真っ新のアパートメントを見て、生活感を想像するのは難しいものだと実感する。

写真下左:C最優秀パヴィリオン金獅子賞を受賞したスイス館 

館内を空っぽにし、屋上にオープンスペースを設けたイギリス館「アイランド」はインフォーマルなイベントのために空間を自由にした「勇気」を評価されて特別表彰を受けた。ちょっと「肩すかし」という感じはあるが、屋上では高みからラグーナが望め、ティータイムが楽しめる。

写真下:Dイギリス館屋上からの眺め  写真下:Eポルトガルのエドアルド・ソウト・デ・モウラ

●FREESPACE展ではポルトガルが金獅子賞受賞
FREESPACE展で金獅子賞受賞のポルトガルのエドアルド・ソウト・デ・モウラは、二枚の写真を展示。建築と環境の関係を航空写真で端的に見せている。銀獅子賞は、伝統的なたたずまいながら、次第に部分的に解体されていったベルギーの精神病院を、現代と融合させて蘇らせたプロジェクトが受賞した。大きな写真パネルで伝統的なレンガ建築と明るいガラス張りのスペースがマッチした様子を見ることができる。

写真下:Fベルギーの精神病院改造プロジェクト   写真下:Gインドの緑のオフィス

特別表彰のインドのRahul Mehrotraによるプロジェクトは、居並ぶビルをバックに町なかにこつ然と生えてきたかのような緑に覆われるオフィスビルや、木のパネルを開閉することで、宝箱が閉じたり外に向かって開かれたりするような、魅力的なCEPT大学図書館。薄いスクリーンに映し出される画像には風を感じてしまう。

●FREESPACE展アルセナーレ会場には伊東豊雄さん、妹島和世さんのSANAAも参加
FREESPACE展のClose Encounter と題するセクション(中央館)では、モデルを通して過去の著名なプロジェクトを近くから見ることができる。FREESPACE展アルセナーレ会場には、日本からは伊東豊雄さん、妹島和世さんのSANAAなどが参加している。           

写真下:H中央館Close Encounter  

●日本館のテーマは「建築の民族誌」で暮らしを探る
ここで、各国パヴィリオンのなかからいくつか紹介したいと思う。日本館は「建築の民族誌」と題して、現実の街中を細かく描いていくことから暮らしを探る。細部からどこまでも全体へと広がっていくさまを想像して、世界の大きさ、複雑さに目眩を覚える。さまざまなアプローチの国内外からの出展作品があり、住民の希望を盛り込んだドローイングなど、じっくり時間をかけていつまでも見ていたい作品ばかりだ。

写真下:IJKL「建築の民族誌」をテーマに出展した日本館内部

●イタリア館「群島イタリア」は真正面からテリトリーの問題に取り組む
これとは対照的にイタリア館「群島イタリア」はイタリア半島全体に目を向け、そこから個別のテリトリーと建築の相互作用の例を紹介する。(写真トップ) 8地域のパネル展示では、環境・歴史を考慮した建築例を、隣接スペースの5つのケーススタディでは、地域住民との対話を通し、建築家グループが考えた地域活性化のためのプロジェクトを紹介している。展示のおもしろさを強調するパヴィリオンも多いなかで、イタリアは真正面からテリトリーの問題に取り組んでいる。
写真下:MNイタリア館「群島イタリア」

●フランス館「無限の場」では建築の変遷のさまを展示
フランス館「無限の場」は、近年になって建設当初の用途とは異なる再利用がされている10例を紹介し、その場にかかわる楽しいオブジェと建築の変遷のさまを展示している(「フランスの10の無限の場」)。「ヴェネツィアの無限の場」としてリド島の16世紀の兵舎も紹介されている。「世界の無限の場100」では、来館者がそれぞれの「無限の場」をカードに記入して残していけるのもおもしろい。

写真下左:Oフランス館「無限の場」  写真下右:Pドイツ館「Unbuilding Walls」

●ドイツ館「Unbuilding Walls」は国境と再統合のプロセスを再考
28年のあいだ存在したベルリンの壁が崩壊して28年。ドイツ館「Unbuilding Walls」はいまも熱いテーマの国々の国境、保護主義に注目し、分断のもたらすもの、再統合のプロセスのダイナミズムを再考する。西側・東側にあったふたつのベルリンの壁のあいだの境界のスペース(デス・ストリップ)とその周辺が、壁の崩壊後どのように変化したかを見せている。鏡が壁を無限に増幅している左右のスペースに入ってみると、そこでは世界の各地でいまも壁に隔てられた現実を生きる人々の声を伝えていた。

●ギリシャ館はラッファエッロの名作に着想を得た「アテナイの学堂」
ギリシャ館「アテナイの学堂」は、同名のラッファエッロの名作に着想を得て、自由で開かれた学びの場をテーマにしている。学びは教室内だけではないと、外と内の境界の曖昧な、モニュメンタルにして寛大さを備えた56の学びの場を清楚な白いモデルで紹介している。バウハウス・デッサウ、イタリアのボッコーニ大学、今は残らないプラトンのアカデメイア、計画だけに終わった18世紀フランスのエティエンヌ・ルイ・ブーレーの王立図書館プランなどと共に、日本のはこだて未来大学もあった。

写真下:Qギリシャ館「アテナイの学堂」

●ペルー館では首都リマの過去と現在の混在するさまを見せる
ペルー館では「アンダーカヴァー」という題で、首都リマの過去と現在の混在するさまを見せる。リマの都市の下にはなんと447もの「ワカ」(4千年前にもさかのぼる聖なる建造物)があり、近年になってその発掘が進み、現代的な都市とそれらの遺跡との共存が図られているという。ビデオは土のピラミッドを大映しにするが、カメラが進むと、そのすぐ背後に都市が広がっている。それは、イタリアの都市がローマ時代の遺跡と共存するのを見慣れた目にも驚くべき光景で、スケールの大きさに息をのんだ。          

写真下:Rペルー館「アンダーカヴァー」

●バチカン市国は、「10人の建築家による10のチャペル」で初参加
ジャルディーニ・アルセナーレ会場に自国館をもたない国は、町のなかのさまざまなスペースをナショナル・パヴィリオンとして参加しているが、今回もっとも注目されるのは、建築ビエンナーレ初参加のバチカン市国。サン・ジョルジョ島の「バチカン・チャペル」は、サン・ジョルジョ教会の裏にあり、ふだんは公開されていないために人にも知られぬままの木の鬱蒼と茂るスペースに、10人の建築家が10のチャペルを建てた。

ノーマン・フォスター、金獅子賞のエドアルド・ソウト・デ・モウラなどの世界の建築家とともに、日本の藤森照信さんも参加している。大きさと場所だけ決めて、あとは各建築家がまったく自由に設計。木々のあいだから現れるのはなんとも多彩なチャペルたちだ。

写真下左:Sバチカン・チャペル(ノーマン・フォスター)  写真下右:(21)バチカン・チャペル(ハヴィエル・コルヴァラン)   

藤森さんの木のチャペルは、日本独自の「焼き杉」という手法を用いて黒く焼いた壁に、一癖も二癖もありそうな大木がにょきっとのびる、まさに「森のチャペル」という感じだ。狭い扉を通るとなかは光に満ちあふれている。チャペルといっても十人十色、なんと個性豊かなものかと驚くが、どれも降り注ぐ光がふんだんに与えられる場だった。

写真下:(22)バチカン・チャペル(藤森照信)   

●「レンツォ・ピアーノ 水のプロジェクト」展覧会
建築展開催期間に開かれているさまざまな展覧会のなかでは、ヴェドヴァ財団(Fondazione Vedova)の「レンツォ・ピアーノ 水のプロジェクト」(Renzo Piano. Progetti d’acqua 月・火 休館)が見逃せない。                                    

写真下:(23)ヴェドヴァ財団(“Renzo Piano. Progetti d’acqua”. Fondazione Emilio e Annabianca Vedova)       

イタリアの現代アートの巨匠エミリオ・ヴェドヴァのアトリエが、その没後、友人のレンツォ・ピアーノの手で美術館になって10年。もともとヴェネツィア共和国の「塩の倉庫」だった力強いスペースのなかを、ヴェドヴァの巨大な作品が観衆のほうへとダイナミックに動いてくるメカニズムで話題になったが、今回はビデオ・アーティスト集団ストゥディオ・アッズッロによる画像・映像で、水にかかわるピアーノのプロジェクトを紹介。8つの透明なスクリーンを用い、ポンピドゥー・センター、関空ターミナルビル、ニューカレドニアのチバウ文化センターなど、16のプロジェクトがアイディアから設計を経て実現し、さらには想像へまで羽ばたくさまを詩的に見せている。

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』、ウンベルト・エーコ著『ヌメロ・ゼロ』(以上、河出書房新社)、その他。


第16回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:5月26日-11月25日(午前10時-午後6時、月曜休み)
場所:ヴェネツィア、ジャルディーニ会場、アルセナーレ会場

サイト:www.labiennale.org
入場料:レギュラー・チケット25ユーロ(2会場に1回ずつ入場できる。入場日は離れていても可)/ プラス・チケット30ユーロ(入場から48時間有効。2会場に何度でも入場できる。購入・入場時に身分証明書の提示が必要)26歳以下の学生割引、65歳以上のシルバー割引あり
受賞:
金獅子賞 最優秀パヴィリオン=スイス館「Svizzera 240 House Tour」
特別表彰 イギリス館「Island」」
金獅子賞 FRESSSPACE展最優秀プロジェクト=エドアルド・ソウト・デ・モウラ(ポルトガル)アルセナーレ会場
銀獅子賞 FRESSSPACE展 将来を期待される若手建築家=Jan de Viylder, Inge Vinck, Jo Taillieu(ベルギー)ジャルディーニ会場中央館
特別表彰 FRESSSPACE展=Andra Matin (インドネシア)アルセナーレ会場/Rahul Mehrotra(インド)ジャルディーニ会場中央館
生涯の功績への金獅子賞=パウロ・メンデス・ダ・ロシャ(ブラジル)
金獅子賞(建築史)=ケネス・フランプトン(イギリス)


その他のヴェネツィア・ビエンナーレ情報 (www.labiennale.org
第12回コンテンポラリー・ダンス・フェスティバルが6月22日から7月1日まで行われた。
第46回ヴェネツィア国際演劇祭 7月20日-8月5日
第75回ヴェネツィア国際映画祭  8月29日-9月8日
第62回ヴェネツィア国際現代音楽祭 9月28日-10月7日

写真:写真@La Biennale di Venezia  写真SCristobal Palma  
写真(22)Studio Azzurro それ以外は筆者


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