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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
5 Novembre 2017

Notizie dalla Biennale di Venezia

第26回  

第74回ヴェネツィア国際映画祭から 



中山エツコ
新しい潮流にも門戸を開くことで話題に
今年のヴェネツィア映画祭は、総じて秀作ぞろいとメディアでも評判が高かった。また、新しい動きに門戸を開いていることでも話題になった。カンヌ映画祭では来年度から、劇場公開されない動画配信サービス Netflix の作品を受けつけないことになったが、「新しい現実を受け入れないのはおかしい。ヴェネツィアではオンデマンド配信の作品をこれからも見せていく」と映画祭ディレクターのバルベーラ氏。今年からヴァーチャル・リアリティ部門も設けられ、新しい潮流にも目を向けている。  

トップの写真: @栄誉金獅子賞を受賞したロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダ
写真下左:A映画祭会場   写真下右:Bジュディ・デンチ 映画祭ディレクターのアルベルト・バルベーラ氏、ビエンナーレ代表のパオロ・バラッタ氏とともに

●メキシコ出身ギレルモ・デル・トロ監督が金獅子賞
金獅子賞を獲得したのは、メキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』。期待度の高かった作品のひとつで、授賞式で名前が呼び上げられるとプレス会場でも大きな歓声があがった。冷戦時代のアメリカで、極秘裏に研究されている謎の水生生物と、障害をもちながらも穏やかに暮らす清掃員の女性との出会いを描く。政治的な思惑が渦巻くなかでの大人のファンタジーである。

写真下左:C『シェイプ・オブ・ウォーター』  写真下右:D『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督 

銀獅子賞(審査員大賞)は、2009年に『レバノン』で金獅子賞を得たサミュエル・マオズ監督の『フォックストロット』が受賞した。荒涼とした辺境の地の、少しずつ傾いていくバラックで兵役を送る青年と、その安否を思って悲喜こもごもの家族を通して、戦争のばかばかしさを描いている。

写真下:E『フォックストロット』

フランスのグザヴィエ・ルグラン監督は、『カストディ/Custody』で銀獅子賞(最優秀監督賞)と、長編のデビュー作を対象とするルイジ・デ・ラウレンティス賞をダブル受賞するという快挙。両親の離婚によって翻弄される子どもの運命という、とても今日的なテーマだ。 金獅子賞候補の筆頭とされていた『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』が、マーティン・マクドノー監督自身による脚本で最優秀脚本賞を獲得するにとどまったことは、意外だった。娘を殺害された女性が、犯人調査がまったく進まないのに怒りをおさえきれず、地元警察に対する抗議メッセージを町外れの大看板に掲載する。フランシス・マクドーマンドの演じる毒舌のタフな母親、横暴な警察、辛口のジョークと、アメリカの田舎町の荒んだ空気が充満する映画だが、憎悪が少しばかりゆるんでいくラストが印象的だった。

写真下:F『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』

●ニューヨーク公共図書館を描いたドキュメンタリーも
コンペ部門のドキュメンタリー映画で、ニューヨーク公共図書館を描いた『Ex Libris』(フレデリック・ワイズマン監督)もすばらしかった。「公共」のために公開されている「私立」の図書館であるニューヨーク・パブリック・ライブラリーは、中央図書館のほか多くの地域分館があり、そこで日々行われている活動が紹介される。図書館を訪れる人々の活動への参加ぶりもすばらしい。

●今年は多彩なイタリア映画が参加
今年はまた、多彩なイタリア映画を見ることができた。コンペ出品作で最も好評だったパオロ・ヴィルズィ監督の『レジャー・シーカー』は、アメリカを舞台に高齢の夫婦のキャンピングカーでの最後の旅を描く。ヘレン・ミレンのきびきびと世話を焼く妻は厳しい物言いも楽しく、ドナルド・サザーランドの演じるぼけてしまった夫は、見ていて胸が熱くなるほどの愛すべきお年寄り。コメディタッチながら、健康の危うくなった老夫婦の考えさせられてしまう物語で、受賞に至らなかったのが残念だ。

写真下:G『レジャー・シーカー』  

アンドレア・パラオロ監督の『アンナ』も世界的な大女優シャーロット・ランプリングが主人公を演じる。夫が逮捕されてひとりになった、もう若くない女性の心の痛みを、台詞もほとんど使わず体と表情で演じ、ヴォルピ杯(最優秀女優賞)を獲得した。

写真下左:Hヴォルピ杯を受けとるシャーロット・ランプリング  写真下右:I『アモーレ・エ・マラヴィータ』 

●ナポリ舞台の驚くべきミュージカルも                                    
イタリアからはさらに、養子を求めるカップルのために子どもを産むことを強いられる女性を描いた『ある家族』(セバスティアーノ・リーゾ監督)、そしてカンツォーネを全編にちりばめた驚くべきミュージカル『アモーレ・エ・マラヴィータ』(監督はマネッティ兄弟)がコンペに出ていた。これは「愛とやくざ者」というような意味だが、ナポリの犯罪組織の腕の立つキラーが昔の恋人を殺さねばならない羽目になり、結局は犯罪組織を敵にまわすという、アクションとカンツォーネをたっぷり盛り込んだ楽しい映画。コンペではあまり見ない類いの映画だが、なかなか評価は高かった。

●オリゾンテ部門では『ニコ1988』が最優秀作品賞
オリゾンテ部門では、モデルを経て歌手になり、アンディ・ウォーホルとの交流でも知られるニコの晩年を描いた伝記映画、スザンナ・ニッキャレッリ監督の『ニコ1988』が最優秀作品賞を受賞した。

写真下:J『ニコ1988』  

また、同部門の『ラ・ヴィータ・イン・コムーネ』(エドアルド・ウィンスピア監督)は、ディスペラータ(「絶望」の意)という名の、住民間で争いの絶えない小さな町の日々をユーモアとアイロニーを込めて描く。過疎化の進む、こよなく美しい自然に恵まれたプーリアの土地で、町おこしをめぐって延々と対立し合う人々。イタリアの縮図を見るような思いだった。

●日本からは是枝裕和監督の作品が出品
近年、日本映画がコンペに出ないのが気になっていたが、今年は是枝裕和監督の『三度目の殺人』が出品され、受賞は逃したが好評だった。デビュー作の『幻の光』がヴェネツィアで金のオゼッラ賞を受賞したのが22年前。その後カンヌで高く評価され、監督の作品はイタリアでも見られる機会が増えている。今回はこれまでの家族の物語からは離れた法廷の心理劇で、対峙する弁護人の福山雅治と被告の役所広司の高い緊張感が心に残る。

写真下:K是枝裕和監督『三度目の殺人』

コンペ外では、スティーブン・ノムラ・シブル監督が坂本龍一を追ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』、映画祭のラストを飾った北野武監督の『アウトレイジ 最終章』を見ることができた。

写真下:L坂本龍一氏

●超熟年スターたちが勢揃い
『サバービコン』を監督したジョージ・クルーニー、同作とオープニングの『ダウンサイジング』(アレクサンダー・ペイン監督)の両作で主演したマット・デイモンら、ヴェネツィア映画祭の常連スターや、夫婦で共演したスペインのペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム(コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルを描いた『ラビング・パブロ』)らもレッド・カーペットを盛り上げたが、今年はなにより、超熟年スターたちがきらびやかに並んだ。           

写真下左:Mマット・デイモン   写真下右:Nクルーニー夫妻

そろって栄誉金獅子賞を受賞したロバート・レッドフォード(81歳)とジェーン・フォンダ(79歳)は、『アワー・ソウル・アット・ナイト』で38年ぶりに共演。配偶者をなくして一人暮らしをするご近所同士が、モジモジと近づいて再び人生を楽しむ物語。シャーロット・ランプリング(71歳)、ヘレン・ミレン(72歳)、ドナルド・サザーランド(82歳)には先に触れたが、さらに、ジュディ・デンチ(82歳)、マイケル・ケイン(84歳)も。

写真下:Oヘレン・ミレンとドナルド・サザーランド   

デンチは、ビクトリア女王の晩年、インドから式典のために来たアブドゥルを気に入った女王が彼を使用人とし、長くつき合ったというエピソードを描く『ヴィクトリア・アンド・アブドゥル』に主演している。 

写真下: P『ヴィクトリア・アンド・アブドゥル』     

そしてケインは、ドキュメンタリー『マイ・ジェネレーション』で、彼自身の生きた1960年代のロンドンを語っている。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ツイッギー、デヴィッド・ホックニー……。「歴史上はじめて、労働者階級の若者が自分たちの存在を叫びはじめたのだ」と語るケインはやっぱり魅力的だ。

写真下: Q 『マイ・ジェネレーション』のマイケル・ケイン     


著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』、ウンベルト・エーコ著『ヌメロ・ゼロ』(以上、河出書房新社)、その他。


ヴェネツィア国際映画祭データ 
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
8月30日 - 9月9日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org
受賞:
金獅子賞(作品賞)=ギレルモ・デル・トロ監督『シェイプ・オブ・ウォーター』(アメリカ合衆国)
銀獅子賞(審査員大賞)=サミュエル・マオズ監督『フォックストロット』(イスラエル、ドイツ、フランス、スイス)
銀獅子賞(最優秀監督賞)=グザヴィエ・ルグラン監督『カストディ/Custody』(英題)(フランス)
ヴォルピ杯(最優秀女優賞)=シャーロット・ランプリング(『アンナ』、イタリア、ベルギー、フランス)
ヴォルピ杯(最優秀男優賞)=カメル・エル=バシャ(『インサルト』、レバノン、フランス)
最優秀脚本賞=マーティン・マクドノー(『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』、イギリス)
審査員特別賞= ワーウィック・ソーントン『スイート・カントリー』(オーストラリア)
マルチェッロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=チャーリー・プラマー(『リーン・オン・ピート』、イギリス)
ルイジ・デ・ラウレンティス賞(最優秀初長編作品賞)=グザヴィエ・ルグラン監督『カストディ/Custody』(英題)(フランス)
オリゾンティ賞(最優秀作品賞)=スザンナ・ニッキャレッリ監督『ニコ1988』(イタリア、ベルギー)
栄誉金獅子賞=ロバート・レッドフォード(俳優、アメリカ合衆国)/ジェーン・フォンダ(女優、アメリカ合衆国)

その他のヴェネツィア・ビエンナーレ情報
www.labiennale.org
-第57回ビエンナーレ国際美術展が開催中(5月13日 - 11月26日)
-第60回ビエンナーレ国際現代音楽祭が行われた(9月29日 - 10月8日)

写真:写真Aは筆者、それ以外はすべて写真提供 La Biennale di Venezia


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